ベンゾジアゼピン使用による認知症リスク

【文献名】 
文献タイトル:Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study. 
雑誌名・書籍名:BMJ 2012;345:27
発行年: September 2012

【要約】
Objective 
To evaluate the association between use of benzodiazepines and incident dementia.

Design 
Prospective, population based study.

Setting 
PAQUID study, France. Participants 1063 men and women (mean age 78.2 years) who were free of dementia and did not start taking benzodiazepines until at least the third year of follow-up.

Main outcome measures 
Incident dementia, confirmed by a neurologist.

Results 
During a 15 year follow-up, 253 incident cases of dementia were confirmed. 
New use of benzodiazepines was associated with an increased risk of dementia (multivariable adjusted hazard ratio 1.60, 95% confidence interval 1.08 to 2.38). Sensitivity analysis considering the existence of depressive symptoms showed a similar association (hazard ratio 1.62, 1.08 to 2.43). A secondary analysis pooled cohorts of participants who started benzodiazepines during follow-up and evaluated the association with incident dementia. The pooled hazard ratio across the five cohorts of new benzodiazepine users was 1.46 (1.10 to 1.94). Results of a complementary nested case-control study showed that ever use of benzodiazepines was associated with an approximately
50% increase in the risk of dementia (adjusted odds ratio 1.55, 1.24 to 1.95) compared with never users. The results were similar in past users (odds ratio 1.56, 1.23 to 1.98) and recent users (1.48, 0.83 to 2.63) but reached significance only for past users.

Conclusions 
In this prospective population based study, new use of benzodiazepines was associated with increased risk of dementia. The result was robust in pooled analyses across cohorts of new users of
benzodiazepines throughout the study and in a complementary case-control study. Considering the extent to which benzodiazepines are prescribed and the number of potential adverse effects of this drug class in the general population, indiscriminate widespread use should be cautioned against.

【開催日】
2012年10月24日

沈黙の中での苦悩:プライマリ・ケアの現場でうつ病患者が症状を打ち明けない理由

【文献名】

Robert A. Bell, et al. Suffering in Silence: Reasons for Not Disclosing Depression in Primary Care. Ann Fam Med. 2011;9(5):439 -446.



【この文献を選んだ背景】

日本の重要な社会問題として自殺があり、その原因となるうつ病の早期診断・治療がプライマリ・ケア医の仕事として期待されている。ただ外来の場面で診断することは簡単ではなく、時には診断が遅れたり、複数回の面接を重ねてようやく診断に至るCaseも少なくない。今回うつ病患者がその症状を語らない要因を分析した興味深い論文を見つけた。外来の問診の改善やFCG(Finding Common Ground)に至るプロセスの参考になったため共有する。



【要約】

<目的>

 うつ病の症状は患者から打ち明けられないことが多い。そこでこの研究ではうつ病がプライマリ・ケア医に明らかにされない患者個人の理由を調査した。



<方法>
California Behavioral Risk Factor Survey Systemの中から、ランダムに選びだした対象者のうち2008年1月から6月に回答し再調査に承諾を得た1054名の成人を対象に、2008年の7月から12月にかけてフォローアップ調査として電話インタビューを実施した。
回答者に、うつ病の症状の非開示理由、うつ病に関する信念、患者背景、健康状態、将来うつ病を診断された時の反応の予想を訪ねた。打ち明けの障壁となる特徴の分析は、記述的かつ推計統計学的(抽出された部分集団から母集団の特徴・性質を推定)手法を用いた。



<結果>
電話回答者の43%に一つ以上の非開示理由があった。もっとも多い理由は、①医師から抗うつ薬を推奨される心配によるもの(22.9%;95%CI,18.8%-27.5%)であった。

 そのほかの理由は順に、②プライマリ・ケア医の診療範囲外とみなしているから(15.6%)、③診療録が他人に見られるかもしれないから(15.4%)、④カウンセラーや心理士に紹介されるから(13.7%)、⑤精神科医に紹介されるから(13.4%)、⑥精神科患者とみなされたくないから(11.8%)、⑦個人的な情報を伝えたくないから(9.1%)、⑧診療中に泣いてしまう・もしくは感情的になるかもしれないから(7.6%)、⑨うつの話題をどう切り出していいかわからないから(6.4%)、⑩身体的な問題から話題をそらしたくないから(5.3%)、⑪うつ病の症状を伝えることで医師から低い評価をされるかもしれないから(3.6%)と続いた[Table2]。

うつ病の治療歴があるかどうかは、うつ病が打ち明けられない様々な理由の背景であった。例えば、治療歴がないうつ病患者は②プライマリ・ケア医が診る病気であるとはみなしていなかった(P=.040)。そして⑤精神科医に紹介されるのではとの悩みを持っていた(P=.036)。それ以外にも治療歴がない群は①、治療歴がある群は③⑧の理由が反対の群と比較して多かった[Table3]。

また無症状・低症状(PHQ-9が0~9)の患者に比べ、中等症~重症(PHQ-9が10~27)の患者は11の障壁のうち10でより多くの障壁を抱えていた(all P values=.014)[Table4]。
報告された非開示理由の数は、患者背景(女性、ヒスパニック、低い経済状態)、うつ病に関する信念(スティグマとみなす、コントロールできないものとみなす)、症状の重症度、うつ病の家族歴が無いことから予測された[Table5]。



<結論>

多くの成人から、うつ病のエピソード中にプライマリ・ケア医に対してはっきりと助けを伝えることを妨げうる考えが記述された。患者が症状を打ち明け、医師がうつ病について尋ねることを促進するための介入方法を開発するべきである。



【開催日】

2011年9月21日

うつ病の重症度と生産性の低下

【文献名】

Beck A, et al. Severity of depression and magnitude of productivity loss. Ann Fam Med. 2011;9(4):305-311.



【要約】

<目的>

うつ病は仕事における労働性の低下、つまり、休職、生産性の低下、仕事が長続きするかとの関連が深い。ただ、大規模で多様な患者層において、重症度の異なるうつ病が職務への障害の程度にどのように関連しているかを調べた研究はほとんどない。今回、うつ病治療を開始した患者におけるうつ症状の重症度と生産性低下の関係性を評価することとした。



<方法>

ダイアモンド(DIAMOND:Depression Improvement Across Minnesota: Offering a New Direction)イニシアチブ(州民発案)、つまり、州を挙げてのうつ病ケアの強化を目的とした質向上協働活動に参加する患者からデータを取得した。抗うつ薬を新規に処方された患者について、PHQ-9(Patient Health Questionnaire 9-item screen)にてうつ症状の重症度、WPAI質問紙(Work Productivity and Activity Impairment)にて生産性の低下、更には健康状態や基礎情報などを評価した。



<結果>

現在労働している771名の患者からのデータを分析した。基礎情報や健康状態を補正した一般線形解析では、うつ症状の重症度と生産性の低下の間に直線的な強い関連性があり、PHQ-9の1点の上昇に対して、平均で1.65%の更なる生産性低下が認められた(P<0.001)。軽微なうつ症状でさえも職務能力の低下と関連していた。フルタイムとパートタイムの雇用形態の相違、自己報告による労働状態の相違(まぁまぁ、悪い v.s. 素晴らしい、非常に良い、良い)もまた、生産性の低下と関連していた(各p<0.001とp=0.45)。



<結論>

この研究により、うつ症状の重症度と職務機能の間の関連性は明らかであり、軽微なうつ病でさえも生産性低下と関連していることが示唆された。雇用者にとって、幅広い重症度の幅を持つうつ病労働者に対して効果的な治療を提供することは有意義であろう。



【考察とディスカッション】

うつ病と労災、特に自殺との関連性が日本ではここ数年強調され、産業医活動でも重視されている。もちろん、生産性への影響は感覚的には理解しているものの、こうした具体的データを確認したのは初めてであった。現在の職場では時間外労働時間によって機械的に対象者が選別されているが、必ずしも労働時間と関係なく、うつ病の初期症状を示している方を積極的にピックアップし、産業医面談を受けるよう活動することに意義があると予想される。具体的に、職場内講習などの開催を考えてみたい。


The PHQ-9 is a depression assessment tool which scores each of the 9 DSM-IV criteria as ‘0’ (not at all) to ‘3’ (nearly every day):
 
the PHQ-9 assessment tool been validated for use in Primary Care

the questionnaire is designed to assess the patient’s mood over the last 2 weeks:
over the last 2 weeks, how often have you been bothered by any of the following problems?
1) little interest or pleasure in doing things? 
2) Feeling down, depressed, or hopeless?
3) trouble falling or staying asleep, or sleeping too much? 
  
4) Feeling tired or having little energy?

5) poor appetite or overeating?

6) feeling bad about yourself – or that you are a failure or have let yourself or your family down?
7) trouble concentrating on things, such as reading the newspaper or watching television?
 
8) moving or speaking so slowly that other people could have noticed? Or the opposite – being so fidgety or restless that you have been moving around a lot more than usual?

9) thoughts that you would be better off dead, or of hurting yourself in some way?
 
for each of the nine tested criteria there are four possible answers: 

Not at all = 0 points

Several days = 1 point
More than half the days = 2 points
Nearly every day = 3 points

the maximum total score is 9×3 = 27 points and the patient’s score is thus a score out of 27 (e.g. 16 points = 16/27)
    depression severity is graded based on the PHQ-9 score:
0-4 None
 
5-9 mild
 
10-14 moderate
15-19 moderately severe
20-27 severe
この研究では7点以上を抑うつ症状ありとした。




【開催日】

2011年9月8日

気分・不安障害のスクリーニングにおける質問紙の有用性

【文献名】
Bradley N. Gaynes et al. Feasibility and Diagnostic Validity of theM-3 Checklist: A Brief, Self-Rated Screen for Depressive, Bipolar, Anxiety, and Post-Traumatic Stress Disorders in Primary Care. Ann Fam Med 2010;8:160-169.

【要約】
<背景>
気分障害・不安障害はプライマリ・ケアにおいてはもっとも頻度の高いメンタルヘルスの問題であるが、見過ごされていたり、きちんと治療されていない。スクリーニングのためのツールがこういったメンタルヘルスの問題の発見に貢献しうるが、取り扱う疾患の数が多いため利用可能なツールは限られている。

<セッティングと対象>
2007年7月から2008年2月までに米国の大学の家庭医療クリニックを受診した18歳以上の647名の患者

<デザイン>
横断研究

<方法>
利用したチェックリストはこちら
Mini International Neuropsychiatric Interview (MINI)を診断のスタンダードとして用いた。
クリニックを受診する患者を随時参入。待合室でチェックリストに記入していただいた。
診察後に医師と患者双方にチェックリストの実用性に関する質問紙への回答を頂いた。
受診後30日以内にリサーチアシスタントが患者に電話し、MINIを実施。

<主要なアウトカム>
M-3チェックリストの大うつ病性障害、双極性障害、何らかの不安障害、PTSDに対する感度と特異度。

<結果>
(1)診断に対する妥当性
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(2)実用性
患者が待合室でM-3チェックリストに回答するのにかかる時間は5分未満であり、うまく回答できないと回答したのは1%未満であった。83%の医師が30秒以内に記入されたチェックリストを確認することが出来、80%以上の医師が有用であると回答した。

<結論とディスカッション>
M-3チェックリストの測定特性は既存の単疾患スクリーニング用のツールと比較しても有用であり、かつ何らかの気分障害や不安障害の存在をスクリーニングするだけではなく、特定できる可能性もある。

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また既存の多疾患スクリーニングツールに加えて双極性障害とPTSDもスクリーニングの対象とすることができる。実用性についても本研究では問題はなかった。
Table3

【開催日】
2011年4月20日

~対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)~

【文献名】
水島広子. 臨床家のための対人関係療法入門ガイド.創元社,2009.

【要約】
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)とは
・「対人関係療法」は、KlermanやWeissmanによって1960年代末から開発され、1984年に定義づけられた。日本ではまだ認知度は低いが、現在、米国精神医学会などの治療ガイドラインにおいてもうつ病に対する治療法として位置づけられており、「認知行動療法」と双璧をなすエビデンスのある期間限定の短期精神療法として認識されている。

・対人関係療法は「対人関係が原因で病気が起こる」と一元的に考えられているわけではなく、従来のように遺伝的、人生経験、社会状況や個人的ストレスなどの「多源モデル」で考えられている。一方で、うつ病などの発症のきっかけとしてはほとんどが「対人関係上の状況」がある。「過労」であっても、一見対人関係とは無関係に見えるが、その人がなぜ過労に陥るほど仕事を抱え込んだのか、断ることはできなかったのか、などと考えると、これも1つの対人関係上の状況とみることができる。

・対人関係療法で目指すことは、抑うつ症状を減じることと対人関係機能・社会的機能を改善することである。つまり、「症状と対人関係問題の関連」を理解し、対人関係問題に対処する方法を患者自身が見つけることによって、症状に対処できるスキルを身につけられることである。

対人関係療法の特徴
(1)期間限定
 短期療法の場合も維持療法の場合も、もちろん必要がある場合には治療を継続して行うが、その場合も「期間限定の治療を再契約する」という形にする。期間限定にする利点としては以下のことがあげられる。
①目標を明確に取り組むことができる、②期限を意識することで治療の集中度が高まる、③決められた期間の中で計画的に治療を進めることによって、治療で得たものを振り返り本人のスキルとして定着させていくことができる、④終結があることが常に明確にされるため、依存や退行を防ぐことができる。

(2)焦点化
 患者が、対人関係の4つの問題領域:①悲哀(患者にとって重要な人の死)、②対人関係上の役割をめぐる不和・不一致、③役割の変化(生活上の変化)、④対人関係の欠如(社会的孤立)のうちどの領域に問題があるかを焦点化する。

(3)現在の対人関係に取り組む
 対人関係療法では、現在進行中の対人関係と症状の関連を扱う。過去の人間関係は、初期に聴取して認識するが、治療の焦点とはしない。

(4)精神内界ではなく対人関係が焦点
 精神分析など「治療者がそれをどう解釈したか」ということではなく、「実際に患者と相手との間で何が起こっているか」ということに焦点を当てる。相手は何と言ったのか、患者はそれについてどう感じたのか、その結果患者はどう行動したのか、それが相手にどう伝わったのか…ということに焦点を当てる。

(5)認知ではなく対人関係が焦点
 対人関係療法では、最終的には認知行動療法と同じように認知面への効果は大きいが、治療の焦点は患者の気持ちや感情に注目し、それを引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点を当てる。「どのような認知がそのような感情を引き起こしたか」と考えるのではなく、「誰が何を言ったからそのような感情が起こったのか」ということを直接みる。

(6)パーソナリティは認識するが、治療焦点とはしない
 「対人関係」というと、すぐに「パーソナリティの問題」として片付ける人が多いが、対人関係療法ではパーソナリティを変えることを治療焦点とはしない。これはⅠ軸障害(臨床的な疾患)があると、Ⅱ軸障害(パーソナリティ障害にみえるもの)がしょうじることが多いためである。

対人関係療法のエビデンス
・対人関係療法はうつ病に対して三環系抗うつ薬と同等の効果を示すが、異なる領域に効果を発揮するため、併用により効果は高まる。治療終結後1年間のフォローアップで、対人関係療法を受けた群の心理社会機能が優位に改善した(Weissman et al.1979)・重度のうつ病に対しては対人関係療法は認知行動療法よりもすぐれた効果を示す(NIMH研究:Elkin et al.1989)
・対人関係療法のみで寛解に至った患者は、対人関係療法のみで2年間の寛解を維持できる可能性が高い。維持治療の効果は、月1回、月2回、週1回の受診間隔で変化はなかった(Frank et al.2007)
・維持治療が対人関係に焦点化されていた方が、再発までの期間が有意に長かった(Frank et al.1991)
※国際IPT学会(International Society for Interpersonal Psychotherapy)のサイトを参照:http://www.interpersonalpsychotherapy.org/

【開催日】
2010年12月29日(水)

~うつ病スクリーニングにおけるPHQ-9の有用性について~

【文献】
デヴィッド・L・サイメル、ドルモンド・レニー/編:第19章アップデートうつ病. JAMA版 論理的診察の技術 日経BP社:263-268、2010年5月24日

【要約】
・成人において、2-9項目のスクリーニング手法は、より長いうつ病質問表に匹敵する性能を有する。
・短い9項目のPatient Health Questionnaire(PHQ-9)は、最も識別力に優れ、かつうつ病の診断に対してより診断的な情報を与える。PHQ-9はまた、治療反応性も定量化できる。
《文献吟味の結果》
 5つの研究は合計5652人の患者においてこれらの手法を評価し、うち1653人が参照基準となる面接を受けた。それぞれの研究は、米国(研究数=2)、ドイツ(研究数=2)、ニュージーランド(研究数=1)で行われた。
 これらの研究は、短い2-9項目のスクリーニング手法がより長い質問表に匹敵するあるいはそれを上回る性能を持つ、ということをこれまでのエビデンスに付け加える(表19-6)。
あ る質の高い研究では、HenkelらがPHQ-9およびWHO-5を、心理学的な健全性に関する一般的な測定法であるGeneral Health Questionnaire(GHQ-12)と比較した。PHQ-9の陽性尤度比(LR+5.2、95%信頼区間[CI]=3.9-6.8)は、WHO- 5(LR+2.6、95%CI=2.2-3.0)あるいはGHQ-12(LR+2.2、95%CI=1.9-2.6)よりも有意に高かった。PHQ-9の 陰性尤度比(LR-0.26、95%CI0.17-0.4)はWHO-5(LR-0.11、95%CI=0.05-0.25)およびGHQ-12(LR- 0.24、95%CI=0.14-0.42)に匹敵した。
他の3つの研究もこうした所見を支持している。Loweらは大学関連の家庭医療部門から抽出された1619人の患者を対象に、PHQ-9をHADSおよびWHO-5と比較した。PHQ-9は他の手法と比べ有意に高いLR+を有し、LR-はそれらに匹敵した。
Kroenke らは、プライマリケア部門および産婦人科部門の対象者から得られたPHQ-9に関するデータを統合した。この質の高い研究では、PHQ-9のLR+は 7.3(95%CI=5.6-9.4)、LR-は0.14 (95%CI=0.06-0.32)であることが分かった。
まとめると、PHQ-9は 他の短い手法よりも直接比較において優れた性能を有し、より長いうつ病質問法に匹敵するあるいはより優れたLRを有することを、これらの研究は示してい る。PHQ-9は大うつ病に対するDSM-Ⅳの基準症状について特に尋ねるという利点を持ち、臨床的な状態変化にも反応することが示されている。それゆ え、PHQ-9は診断面接法に不可欠の症状に関するデータを提示し、加えて治療への反応性をモニターすることもできる。

【開催日】
2010年10月6日(水)

~外来でうつ病の認知行動療法マニュアル活用しよう!~

【文献】
『うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル/患者さんのための資料』
厚生労働省研究費補助ここの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」
『実践家のための認知行動療法テクニックガイド』北大路書房 坂野雄二監修

【要約】
A.総論
・理論背景
私たちは自分が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けている。通常は半ば自動的にそして適応的に行っている。しかし強いストレスを受けるなど特別な状況下ではその判断に偏りが生じ非適応的な反応を示すようになる。
・実践
自動思考と呼ばれる、様々な状況で自動的に沸き起こってくる思考やイメージに焦点を当てて治療を進めていく。面接は30分以上で原則は16~20回行う。またホームワークとして面接で話し合ったことを実生活で検証しつつ認知の修正を図ることが必須となる。
・ゴール
治 療のゴールは自律性の回復である。ただ、自ら治ろうという意思が満ちていない場合、CBTがまだ早い段階の患者もいるので、無理に適応しないことも重要で ある。自律性を回復するということは①自己への気付き:外部情報の入力を適切にできる②思考の柔軟性と多様性の獲得③自信をつけて継続して日常生活で行う ことができる、というステップを一緒に見つけていく作業である。
・治療の流れ
①患者を一人の人間として理解し、患者が直面している問題点を洗い出して治療方針を立てる
②自動思考に焦点を当て認知のゆがみを修正する
③より心の奥底にあるスキーマに焦点を当てる 
④治療終結
・マニュアルに沿わないで対応する場合
自殺・自傷に関する問題。治療継続に影響しうる現実上の問題(経済的な問題、身体的健康問題、被虐待など)、治療や治療者に対する陰性感情。

B.1回目外来
目標:
●ラポール形成。
●うつ病(患者用資料P2-4 利用)・認知行動療法を理解してもらう。(患者用資料P5-7を利用)
●治療構造になじんでもらう(時間配分、ホームワーク①パンフ読んでくる②活動記録の作成)
活動記録の例は、患者用資料P8参照。縦軸に時間、横軸に日付が入っている。
ここでホームワークの意義:治療セッションの30分以外の時間も治療に生かせる。日々の困ったことを一緒に話し合う手助けになることを説明する。
●問題点の整理(困っている事に対し、出来事→認知・自動思考→気分・行動の仮説モデルたてる)

C.2回目外来
目標:
●ラポール強化
●治療構造になじむ
「今回はHWの振り返りと、今お困りのことついて伺い、治療の方向性を考えていきましょう」
ここでHWをしていなくても責めない。(治療者マニュアルP10 HWを振り返る参照)
具体的にセッション内で一緒にプリントを作成しつつ、方法になじんでもらうのも有効。
●問題点の整理 気分の楽・つらいを、患者自身の行動や考えの変化と結び付ける。

D.3~4回目外来
目標:
●治療目標を設定 全般的目標と具体的な目標(測定可能)を立てる(治療者マニュアルP11表)
認知面の介入が必要な目標・・・セルフモニタリングの利用。
現実的な問題解決が必要な場合・・・「問題解決」「対人関係を改善する」モジュール利用。
●治療構造になじむ
●症例の概念化

E.認知面を重視する外来(5~6回目外来)
目標:
○出来事→認知・自動思考→気分・行動の把握
状況:          同僚の前で上司から怒られた
ふと浮かんだ考え: 上司からバカにされた,みんなも私を馬鹿な奴と思った
気分:          悔しい
気分と思考を分けることがはじまり。気分は一語で記載する。
このシートをみつつ、多くの場面に共通してみられる考え方の特徴を見つけしていく。
つらい気持ちにさせる考え方の癖:全か無か/白か黒かの極端な考え方。悪いほうの予測がエスカレートする。嫌なことしか見えない考え方。自分を苦しめるしばりつける考え方。何でも自分のせいだと考える。過度の一般化。自分に対する固定的なラベリング。

F.7~12回目外来
目標:
●認知の偏りに気づく(治療者マニュアルP15~16)
 反証をみつけていく
 第三者の立場「他の人が同じような考え方をしていたら、何と言いますか?」
 過去や未来の自分「元気なときだったら、違う見方をしないでしょうか?」
 経験を踏まえて「以前にも似た経験はありませんか?その時はどうなりました?」
 もう一度冷静に「その考え方の癖(自動思考)は100%正しいですか?」    
●行動実験を積極的に利用する
 問題解決モジュール(治療者マニュアルP23-25)を利用して行動計画をたてていく。
 上手な自己主張の仕方を学ぶ(治療者マニュアルP26-27)

G.13~14回目外来
目標:
●スキーマを整理する:将来のストレッサーへの抵抗力向上。再発リスク軽減に寄与。
スキーマとはの説明。(患者用資料P15)
スキーマに気づくような質問
「いつも決まってそのように考える何か心の中にあるルールや法則のようなものがあるでしょうか?」
「価値観や人生のモットーのようなものはありますか?」
「大きな影響をうけた人物や体験やはありますか?そこから得られた信念は?」どんな影響ですか?」
ホームワークとして心の法則リストを作成してもらう。
元気なときの心の法則
・自分について
・人々について
・世界観について
うつのときの心の法則
・自分について
・人々について
・世界観について
終結を意識し始める。

H.15~16回目外来(患者用資料P22参考)
目標:
●終結と再発予防
うつの再燃の可能性と、その対応を説明する。
・治療全体のふりかえり
治療が終了後も、身に付けたスキルを使用すること。「どのような事が役立ったと思いますか?」
「治療を始めた時に比べて、うつが随分よくなりましたね。一体何が良かったのでしょうか?」
気分や状況が改善したのは、患者自身の考え方や行動を変化させた結果であることを強調する。
「私がアドバイスした点もありましたが、考え方や行動を実際に変えたのは○さんですよね?」
・セッションで扱ったツールや技法のおさらい
・治療が終了する不安を尋ねる。
・悪化した際の対処方法を検討する。「治療で身に付けた使えそうな方法は何でしょう?」

【開催日】
2010年8月11日(水)