-文献名-
McGovern P, Dowd B, Gjerdingen D, Dagher R, Ukestad L, McCaffrey D, Lundberg U. Mothers’ health and work-related factors at 11 weeks postpartum. Ann Fam Med. 2007 Nov-Dec;5(6):519-27.
-要約-
目的
多くの母親は産後すぐに職場復帰をする。女性の出産後の回復や仕事と家庭の両立について要因の研究はあるが、産後の女性の健康との関連を調べた研究は少ない。また、社会的支援と女性の産後の健康状態の関連を経時的に調べた研究も少ない。本研究では、産後11週間の就業女性の産後の健康に関連する個人的および仕事上の要因について検討する。
★アメリカの産休・育休制度
1993年に制定された連邦家族医療休暇法(FMLA)
・以下の条件を満たす場合は出産や養子縁組に関して12週間の休暇を取得する権利がある
①12ヶ月以上雇用されていること ②休暇開始までに1,250時間以上勤務していること ③勤務地から75マイル以内に住む従業員が50人以上いる職場で働いていること
・この法律での受給資格がない女性については、州の政策や個々の雇用主の政策が何らかの形で休暇給付金を提供する場合がある
方法
前向きコホートデザインを用いて、2001年に出産で3カ所の市中病院に入院中のミネソタ州の母親817名を本研究に募集した。産後5週と11週に電話インタビューを実施した。対象者は18歳以上の有職者で,英語を話し,単胎児を出産し,もともと雇用されており、産後に復帰するつもりの女性であった。インタビュアーはバイアスのかからないインタビューをするためにトレーニングを受けた。フルインタビューは45分程度であったが、仕事を辞めた場合や時間が限られている場合は10分のミニインタビューとした。バイアス評価のために両方のインタビューを用いたが、多変量解析にはフルインタビューのみ使用した。身体的健康はSF-12の身体的な項目、精神的健康はSF-12の精神的な項目、症状は先行研究を参考に28項目を設定して評価した。これらの項目は4週間の期間内にあったかどうかを調査した。操作変数(2段階最小二乗法)を用いた多変量モデルを用いて、女性の心身の健康および産後症状に関連する個人的および雇用的特性を推定した。
結果
[table1]
産後11週目に661名(登録者の81%)がインタビューを完了し、50%の参加者が職場に復帰していた。インタビューを完了した人としていない人の背景の差をtable1に示す。インタビューを完了した人は、より高年齢、白人が多く、大学卒業の学歴である割合が多かったが、身体的健康、精神的健康、貧困レベルに関しては差が無かった。
[table2]
インタビューを完了した661人のcharacteristicsをtable2に示す。産後11週の時点で50%が仕事復帰していた。25~34歳のアメリカ女性のデータと比較して、身体的健康も精神的健康も有意に良かった。
[table3]
産後の症状の頻度をtable3に示す。出産に関する症状は産後5週では平均6.2個であったが、11週では4.1個と有意に減っている。最も多い症状は5週でも11週でも倦怠感である。5週と11週で最も差があるのは母乳育児に関する症状である(11週の方が少ない)。休暇を得る母親より職場復帰する母親の方が母乳育児が少ないためと考えられる。
[table4]
身体的健康、精神的健康、産後症状それぞれに関する多変量解析の 結果をtable4に示す。
・身体的健康
産後の身体的健康の向上と有意に関連する要因は、妊娠前の一般的な健康状態の良さと、妊娠中の同僚からのサポートのレベルの高さであった。
・精神的健康
産後の精神的健康の向上と有意に関連する因子として、妊娠前の一般的健康状態が良好であること、産前産後の気分の問題がないこと、家族や友人からの社会的支援が得られること、家庭や仕事の活動に対する管理意識が高いこと、仕事のストレス得点が低いことなどが挙げられた。
・産後症状
産後症状の軽減と有意に関連する要因は、妊娠前の健康状態が良好であること、出産前の気分の問題がないこと、結婚しているかパートナーがいること(独身に対して)、非白人であること、夜泣きのない乳児を持つことであった。
また、多変量解析の結果、健康の尺度に対する独立変数の効果は、一般に小さいか中程度であることがわかった。
議論
症状としては疲労が多く、それ自体も問題となるが、疲労から精神的な不調などに繋がるためそういう意味でも重要である。
今回の研究では産後5週から11週にかけて症状は減っていったが、先行研究においてそのパターンに当てはまらない症状として上気道症状が挙げられている。職場復帰による母児ともに環境変化(感染源への暴露、ストレスなど)で急性上気道炎が増えると考えられている。
母乳育児に関する症状が産後5週から11週にかけて減ったが、おそらく職場復帰に伴う母乳育児の減少(母乳育児は5週67%→11週で52%)が関連していると考えられる。ミネソタ州法では、母親が乳児に母乳を与えるために、毎日無給の休憩時間を提供することを雇用主に義務付けている。雇用主が休憩時間ををどの程度提供しているか、またはこの休憩時間を受けた女性が職場復帰後に母乳育児を継続する十分な動機となるかは、不明である。これらの問題に取り組む研究が必要である。
産後の健康には妊娠前の健康状態が良いことが有意に関連することが分かった。つまり、女性を治療するすべての臨床医は、妊娠前の健康増進と健康管理に重要な役割を担っている。妊娠前に精神的または身体的な健康レベルが低い女性は、産後にもっと注意深く観察されるべきで、頻回の訪問などを検討すると良いだろう。
limitationとしては、文化的背景などが異なる集団への適応。この研修は産後18ヶ月における健康状態の評価を目的とした前向き研究であり産後5週・11週はベースラインのデータとしても機能する。今後、今後の研究では、ケースコントロールデザインにより、就業中の産後女性と産後でない同様の女性とを比較し、両集団における症状の有病率に関する文献に情報を提供することが有益となるであろう。家族や友人からのソーシャルサポートを多面的に評価したが、父親に関する詳細なデータは集めなかった。
今後は、この研究で示唆されたテーマを元に介入研究による評価が必要である。
結論
この結果から、産後の女性は、疲労レベルおよび精神的・身体的症状に関して評価される必要があることが示唆された。疲労や産後症状が日常的な役割を制限している女性は、医師に、仕事のストレスを減らし、職場や家庭での社会的支援を増やすための方法について相談し、家族・医療休暇の支援が症状のコントロールに役に立つことを保証することが有用であると思われる。
【開催日】2022年2月9日(水)