認知症BPSDに対する第2世代(非定型)抗精神病薬の比較

-文献名-
Lü W, Liu F, Zhang Y, et al. Efficacy, acceptability and tolerability of second-generation antipsychotics for behavioural and psychological symptoms of dementia: a systematic review and network meta-analysis. BMJ Ment Health. 2024;27:1-8.

-要約-
●Abstract(全文)
【Background】
 BPSDは多くの認知症患者に認められる。BPSDの治療には第2世代(非定型)抗精神病薬(SGAs)がよく用いられるが、その有効性や受容性について比較した際の特徴は不明である。
【Methods】
 標準化平均差(SMD、(平均値の差)/(各群の標準偏差の平均値))を用いて、連続アウトカムについての固定効果をプールした。カテゴリ変数に対応するオッズ比と95%信頼区間を算出した。受容性(Acceptability、有効性+安全性の混合)は全ての原因による脱落率として定義され、忍容性(Tolerability)は有害作用による中止率として定義された。治療効果の順位は累積順位曲線下面積(SUCRA:Surface Under the Cumulative Ranking Curves)によって決定した。有害アウトカムには、死亡、脳血管有害事象、転倒、(過)鎮静、錐体外路症状、尿路症状が含まれた。
【Results】
 このネットワークメタアナリシス(NMA)には20件のランダム化比較試験が含まれ、5種類の第2世代抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール)について、合計6374人の結果が含まれた。介入期間は6週間〜36週間であった。
 有効性の評価では、プラセボ群と比較してブレクスピプラゾールの有効性が高く(SMD=-1.77、95%CI:-2.80~-0.74)、ブレクスピプラゾールはクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールよりも有効であった。
 受容性の評価では、アリピプラゾールのみがプラセボよりも優れており(OR=0.72、95%CI:0.54~0.96)、アリピプラゾールはブレクスピプラゾールよりも優れていた(OR 0.61、95%CI:0.37~0.99)。
 忍容性の評価では、オランザピンはプラセボと比較して最も悪く(OR=6.02、95%CI:2.87~12.66)、リスペリドン(OR=3.67、95%CI:1.66~8.11)やクエチアピン(OR=3.71、95%CI:1.46~9.42)と比較しても悪かった。アリピプラゾールはオランザピンと比較して優れていた(OR=0.25、95%CI:0.08〜0.78)。クエチアピンは脳血管有害事象の点で良好な安全性を示した。ブレクスピプラゾールは転倒や(過)鎮静の点で良好な安全性を示した。
【Conclusion】
 ブレクスピプラゾールはBPSDの治療において高い有効性を示しており、アリピプラゾールは最も受容性が高く、オランザピンは忍容性が最も悪かった。この研究結果は意思決定の指針として活用できるかもしれない。

●Introduction
・これまでのランダム化比較試験では、第2世代抗精神病薬はBPSDにわずかな改善をもたらす一方、重篤な有害事象(特に(過)鎮静、錐体外路症状、脳血管イベント、死亡)を引き起こす可能性があると示唆されている。FDAは以前、抗精神病薬の使用に関する警告を出した。
・しかし第2世代抗精神病薬は、未だに患者の12.3~37.5%で使用されている。
・最も有益かつ安全な抗精神病薬を探る際に、一対一の比較研究を基にしたメタアナリシスでは限界があったが、ネットワークメタアナリシス(NMA)は複数の介入試験を比較してエビデンスを生成することで見識を深められる可能性がある。
・本研究ではネットワークメタアナリシスを用いることで、BPSDに関する比較試験を評価し、様々な第2世代抗精神病薬の有効性・受容性・忍容性に関する最初のエビデンスを示すことを目的としている。

●Methods
・適格基準
・本研究はシステマティックレビュー・メタアナリシスに関するPRISMAガイドラインに則って行われた。
・この研究にはアルツハイマー型認知症、血管性認知症、混合型認知症が含まれた(診断は研究著者によって定義された)。
・患者の年齢や認知症の重症度による制限は設けなかったが、パーキンソン病やレビー小体型認知症、認知症に関係のないその他の精神疾患(うつ病、せん妄、統合失調症など)、管理不良な身体疾患(心血管疾患、感染症など)は除外された。
・患者には、何らかの第2世代抗精神病薬によるBPSD治療が行われていた。
・主要アウトカムは有効性と受容性であった。
・有効性は、標準化されたスケール(例:CMAI、NPI、BPRS)で測定されたスコアの変化で定義された。
・受容性は全ての原因による脱落率として定義され、有効性と忍容性を包含した。
・副次評価項目は忍容性で、有害作用による治療中止として定義された。有害作用には死亡率、脳血管有害事象、転倒、(過)鎮静、錐体外路症状、尿路症状が含まれた。
・このシステマティックレビューには、ランダム化比較試験(RCT)のみが含まれていた。
・検索戦略
・第2世代抗精神病薬とBPSDについての研究について、データベースの開始から2023年12月までに、英語で発表された文献について、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Trial Registerで検索した。
・2名のレビュアーが収集や評価に関与した。
・必要に応じて追加情報や欠損したデータについて著者に連絡を取った。
・データ収集
・論文情報、参加者の情報(年齢、性別、サンプルサイズ、認知症のタイプ、ベースラインのMMSEなど)、介入の特徴(第2世代抗精神病薬の種類と投与量、投与期間など)を収集した。
・データ分析
・Stata/SE(V.15.1)と頻度主義的フレームワークを用いてネットワークメタアナライシスを実行した。
・累積順位曲線下面積(SUCRA:Surface Under the Cumulative Ranking Curves)を用いて、仮想治療と比較した各治療の有効性、受容性、忍容性の確率を計算した。
・コクラン共同計画が推奨する「risk of bias 2」を用いて、選択バイアス、実行バイアス、検出バイアス、減少バイアス、報告バイアス、その他のバイアスを評価した。出版バイアスについてはファンネルプロットで示した。主要アウトカムに関する感度分析は、バイアスリスクが高い研究を除外して実施した。
・各研究の信頼性は、CINeMAアプローチを用いて評価した。

●Results
・一次検索で874件の研究論文が選択されたが、論文の重複やタイトル・抄読の内容などから除外し、20件(→受容性と忍容性の評価)19件(→有効性の評価)のRCTをメタアナリシスに含めた(PRISMAフローチャートは本文参照)。
・研究の特性
・発表期間:1999年から2023年
・サンプルサイズ:各研究40人~652人、合計6374人
・介入期間:6週間~36週間
・用いられた第2世代抗精神病薬:5種類(クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール)
・主要アウトカム:CMAI、NPI、BEHAVE-AD、BPRS、PANSS
・セッティング:ほとんどが高齢者施設で行われた
・バイアスの評価、非一貫性の評価
 略
・類似性の評価
・参加者の平均年齢は79.90歳、女性が67.32%(4197/6234)を占めていた。
・ほとんどの患者はアルツハイマー型認知症と診断され、MMSEの平均は11.32点であった。
・平均介入期間は11.3週間であった。
・年齢、性別、診断の頻度は各研究間で同等であった(本文Table 1参照)
・有効性の評価(Table 2、Sup. material 10)
・プラセボと比較してブレクスピプラゾールが最も有効性が高く(SMD= -1.77、95%CI:-2.80~-0.74)、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールよりも有意に優れていた。
・累積順位曲線下面積(SUCRA)による解析では、全ての第2世代抗精神病薬がプラセボより有効性に優れていた。5つの第2世代抗精神病薬の中ではブレクスピプラゾールが最も優れており、次いでリスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールの順であった。・受容性、忍容性の評価(Table 3:オレンジが受容性、灰色が忍容性を示す)
・受容性の評価では、プラセボと比較してアリピプラゾールのみが優れており(OR=0.72、95%CI:0.54~0.96)、ブレクスピプラゾールと比較しても有意に優れていた(OR=0.61、95%CI:0.37~0.99)。また累積順位曲線下面積(SUCRA)による解析では、アリピプラゾールとリスペリドンがプラセボよりも受容性に優れていた。
・忍容性の評価では、プラセボと比較してオランザピンは最も悪く(OR=6.02、95%CI:2.87~12.66)、リスペリドン(OR=3.67、95%CI:1.66~8.11)やクエチアピン(OR=3.71、95%CI:1.46~9.42)と比較しても不良であった。アリピプラゾールは、オランザピンと比較して忍容性が優れていた(OR=0.25、95%CI:0.08〜0.78)。また累積順位曲線下面積(SUCRA)による解析では、全ての第2世代抗精神病薬がプラセボよりも忍容性が悪かった。・感度分析においてバイアスのリスクが高い2件の研究を削除した後でも、有効性と受容性の結果は概ね上記と一致していた。
・有害作用の評価
・死亡率 
 4研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピンを含む)。NMAではいずれもプラセボと有意差がなく、また互いに有意差がなかった。SUCRAによるとプラセボの安全性が最も高かった。
・脳血管有害事象
 5研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピンを含む)。NMAではプラセボと比較して、リスペリドンは脳血管有害事象を有意に増加させていた(OR=4.01、95%CI:1.48〜10.90)。SUCRAによると(プラセボよりも)クエチアピンの安全性が最も高かった。
・転倒
 15研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾールを含む)。NMAではいずれもプラセボと有意差がなく、また互いに有意差がなかった。SUCRAによると(プラセボよりも)ブレクスピプラゾールの安全性が最も高かった。
・(過)鎮静
 16研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾールを含む)。NMAではプラセボと比較して、クエチアピン(OR=5.04、95%CI:3.24~7.83)、オランザピン(OR=3.68、95%CI:2.43~5.55)、リスペリドン(OR=2.51、95%CI:1.91~3.31)、アリピプラゾール(OR=2.74、95%CI:1.25~6.02)で鎮静のリスクが有意に増加していた。リスペリドンはクエチアピンと比較して鎮静リスクが有意に低下した(OR=0.50、95%CI:0.32~0.79)。SUCRAによると、プラセボに次いでブレクスピプラゾールの安全性が高かった。
・錐体外路症状
 9研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾールを含む)。NMAではプラセボと比較して、リスペリドン(OR=2.35、95%CI:1.62~3.39)やオランザピン(OR=2.57、95%CI:1.43~4.63)は錐体外路症状を有意に増加させていた。SUCRAによると(プラセボよりも)クエチアピンの安全性が最も高かった。
・尿路症状
 13研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾールを含む)。NMAではプラセボと比較して、クエチアピンは尿路症状を有意に増加させていた(OR=2.73、95%CI:1.34~5.54)。

●Discussion
・本試験の第一の強みは、ブレクスピプラゾールに関する研究を組み入れたことである。
・ブレクスピプラゾールはプラセボ、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールよりも有意に有効性が高いと分かった。注目すべきは、ブレクスピプラゾールの有効性が(攻撃的な行動と関係する)CMAIによって測定されていたことであり、介護者や医療システムにとって有益である可能性を示唆している。
・受容性(有効性+忍容性)については、アリピプラゾールがプラセボやブレクスピプラゾールよりも有意に優れていた。興味深いことに本研究は、アリピプラゾールが最高の第2世代抗精神病薬であるとも示しており、BPSD治療におけるアリピプラゾールの可能性が示唆される。
・忍容性については、オランザピンがプラセボ、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾールと比較して有意に悪かった。
・本研究は、BPSDに対して最も受容性が高いのはアリピプラゾール、最も効果が高いのはブレクスピプラゾール、有害作用が最も多いのはオランザピンであると明らかにした。多くの被験者を対象とした本研究は、これまでの臨床研究・レビューとほぼ一致している。
・本研究の限界として、①解析に薬剤用量を考慮しなかった(できなかった)こと、②アルツハイマー型以外の認知症患者を含む研究がごくわずかであったこと、③ほとんどが高齢者施設で行われた研究であったこと、などが挙げられる。

●Footnotes(脚注)
・Funding:四川大学West China Hospitalの1.3.5プログラム、および中国の国家重点研究開発計画からの助成金により支援された。

【開催日】2024年10月9日

日本におけるガイドライン推奨睡眠薬の治療失敗と長期処方リスク

-文献名-
Takeshima M, Yoshizawa K, Ogasawara M, et al.
Treatment Failure and Long-Term Prescription Risk for Guideline-Recommended Hypnotics in Japan. JAMA Network Open. 2024;7(4):e246865.

-要約-
Introduction
ガイドラインが推奨する睡眠薬を直接比較するランダム化比較試験は、これまでのところわずかしか行われていない。また、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の睡眠薬としての長期使用は有害になり得るため、ガイドラインは短期使用を推奨しているが、世界中で長期処方が行われている。著者らは、ガイドラインが推奨する睡眠薬のうち、単剤で用いた場合の治療失敗リスクが低いのはどれか、また長期にわたって処方されやすいのはどれかを明らかにするために本研究を実施した。

Method
この後ろ向き観察コホート研究は、Japan Medical Data Center Claims Database(発表者注釈:2005年より複数の健康保険組合より寄せられたレセプト(入院、外来、調剤)および健診データを蓄積している疫学レセプトデータベース JMDC Claims Database – 株式会社JMDC)を利用した。
2005年4月1日から2021年3月31日までに、不眠症の薬物療法として睡眠薬の単剤を初回投与された成人患者を同定して、治療開始から6カ月後まで追跡した。
薬は、スボレキサント(ベルソムラ®)、ラメルテオン(ロゼレム®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)、ゾルピデム(マイスリー®)、トリアゾラム(ハルシオン®))であった。
● 主要アウトカムは単剤療法の失敗(6ヶ月以内に睡眠薬の変更または追加)
● 二次アウトカムは単剤療法の中止(6ヶ月以内に2ヶ月連続で睡眠薬の処方がない)
と定義された。

Results
239,568人が含まれ、年齢の中央値は45歳(四分位範囲34〜55歳)、50.2%が女性だった。
56.6%がゾルピデム、15.7%がスボレキサント、14.2%がエスゾピクロン、7.5%がトリアゾラム、6.1%がラメルテオンを処方されていた。

6カ月の追跡期間中に、24,778人(10.3%)が単剤治療の失敗を経験した。
失敗の割合は、ゾルピデム(8.9%)で、トリアゾラム(9.4%)、エスゾピクロン(11.9%)、スボレキサント(12.7%)、ラメルテオン(15.1%)だった。
エスゾピクロンと比較した失敗リスクは、ラメルテオン(調整ハザード比 1.23)が高く、ゾルピデム(0.84)およびトリアゾラム(0.82)は低く、スボレキサントとは有意差がなかった。

単剤治療で失敗しなかった患者の84.6%は、6カ月以内に治療を中止した。
治療中止の割合は、ゾルピデム(85.2%)、ラメルテオン(84.9%)、スボレキサント(84.0%)、トリアゾラム(83.7%)、エスゾピクロン(82.9%)となっていた。
エスゾピクロンと比較した場合は、ラメルテオン(調整オッズ比 1.31)とスボレキサント(1.20)は有意差を持って中止されており、薬物依存による長期処方が起こりにくいと考えられた。ゾルピデム1.00(0.97-1.04)とトリアゾラム1.02(0.97-1.07)は有意差を示さなかった。

Discussion
本研究の強みは、大規模な日本の医療データベースを使用し、239,568人のデータを長期間(2005年~2021年)にわたって分析した点である一方で、いくつかの限界がある。 第一に、データが会社従業員およびその家族に限定されているため、一般の集団を代表しているとは限らない。 第二に、社会経済的要因、副作用、単剤療法の中止理由、不眠症や精神症状の重症度などの重要な因子が含まれていない。 第三に、追跡期間が6ヶ月と短く設定されており、長期使用による依存や耐性のリスクを完全には評価できていない。 本研究では交絡因子がコントロールされていないため、これらの結果に基づいて、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性に関する結論を導き出すことはできない。慢性不眠症と急性不眠症の診断、不眠症および精神症状の重症度、睡眠薬処方に対する医師の態度などの交絡因子を考慮したさらなる研究が必要である。

このコホート研究では、単剤療法の失敗はエスゾピクロンよりもラメルテオンで多く、ゾルピデムやトリアゾラムでは少なかった。さらに、本研究で長期使用リスクの代用指標として設定した単剤療法の中止は、エスゾピクロンよりもラメルテオンやスボレキサントなどの新規睡眠薬で少なかった。しかしながら、これらの結果は、いくつかの交絡因子を説明することができなかったため、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性によるものなのか、不眠症患者の臨床的特性によるものなのか、あるいは処方医の睡眠薬に対する考え方によるものなのかは不明であるため、慎重に解釈すべきである。どのガイドライン推奨睡眠薬が最も有用であるかを決定するためには、これらの睡眠薬を直接比較するRCTが必要である。

【開催日】2024年6月12日

救急医療におけるトラウマインフォームドケア介入 システマティックレビュー

―文献名―
Brown T, Ashworth H, Bass M, Rittenberg E, Levy-Carrick N, Grossman S, Lewis-O’Connor A, Stoklosa H.
Trauma-informed Care Interventions in Emergency Medicine: A Systematic Review.
West J Emerg Med. 2022 Apr 13;23(3):334-344.
doi: 10.5811/westjem.2022.1.53674. PMID: 35679503; PMCID: PMC9183774.

―要約―
Introduction:
<背景>
 トラウマにさらされることは、救急の患者や医師にとって非常に一般的な経験です。薬物乱用・精神保健サービス局 (SAMHSA) は、トラウマを「個人が経験する身体的または精神的に有害または生命を脅かす出来事、一連の出来事、または一連の状況であり、個人の機能的、精神的、身体的、社会的、感情的、spiritualなwell-beingに永続的な悪影響をもたらすもの」と定義しています。このトラウマの定義には、個人的(例:交通事故、愛する人の死)から、対人的(例:対人暴力[IPV]、差別、虐待)、社会的(例:自然災害、パンデミック、テロ攻撃)な経験まで含みます。新しい出版物では、この定義を、構造的トラウマ (人種差別、性差別など) にまで拡張して明示的に取り上げています。
 患者は、上記で定義したタイプのトラウマを抱えて救急外来を受診することがよくあります。急性のトラウマを患っている患者は、多くの場合、過去のトラウマ体験の生存者です。病院ベースの暴力介入プログラムに参加している、暴力の経験者を対象とした調査では、対象の100%が少なくとも1つのACEs(逆境的小児期体験)を経験していることが判明しました。
 トラウマを経験した人の中には、救急医療の経験が再トラウマになったり、過去の経験のトリガーになったりする人もいます。トラウマの生存者は、感情の調節不全(強い感情を制御するのが困難)、過剰警戒(脅威を感じやすくそれに対し過剰に反応しやすい)を経験する可能性があります。実行機能と感情制御の間の密接な相互作用により、患者と医療チームの両方に影響を与える可能性があります。同様に、過覚醒により、救急医療の多忙な環境や介入処置に耐えがたくなる可能性もあります。

 救急医療環境には、臨床医と多職種にとって、直接的および二次的なトラウマの潜在的要因が複数存在しています。COVID-19のパンデミックは、最前線の医療従事者やスタッフに二次的なトラウマへの曝露による被害が及ぶ可能性があることを実証しました。救急医療で勤務するスタッフも、職場での暴力を高率に経験しています。

<重要性>
 トラウマインフォームドケア(TIC)は、医療現場での再トラウマ化を防ぎ、患者と臨床医の両方の回復力を促進することを目的としたフレームワークです。それは次の 6 つの原則に基づいています。1) 安全性、2) 信頼性と透明性、3)ピアサポート、4) 協力と相互作用、5) エンパワーメント、発言権、選択、6) 文化的、歴史的、ジェンダーの問題。トラウマインフォームドケアは、プライマリケアと救急医療 (EM) を含む専門ケアの両方における臨床ケアへのアプローチとして採用されることが増えています。2012年、米国司法長官の、暴力にさらされた子どもに関する国家対策委員会は、すべての救急医療センターに TIC を提供すること、また、トラウマを経験している患者と接するすべての臨床医に TIC の訓練を受けることを求めました。トラウマインフォームドケアは、患者にとっては臨床上の利点があり、スタッフにとっては仕事の満足感が得られる、費用対効果の高い介入であることが示されています。しかし、救急医療で見られるトラウマの計り知れない負担と患者と臨床医にとっての TIC の利点にもかかわらず、TIC は依然として 救急医療において芽生えの時期のままです。

<目的>
 このシステマティックレビューは、救急医療における TIC 介入に関するエビデンスをまとめ、次の研究目的について述べ、TIC の実施に関する現在の研究のギャップを特定します。
・救急医療セッティングにおいて行われているTIC介入実践の範囲
・救急医療におけるTIC介入が、患者にもたらす潜在的な利益、医療者・多職種にもたらす潜在的な利益

Method:
 この研究は PROSPERO (CRD42020205182) に登録されました。1990年から2020 年 8 月 12 日の、PubMed、EMBASE (Elsevier)、PsycINFO (EBSCO)、Social Services Abstract (ProQuest) および CINAHL (EBSCO) データベースの査読済みジャーナルと抄録を、体系的に検索しました。私たちは、帰納的定性的内容分析を使用して、救急医療環境におけるTIC介入について明示的に述べている研究を分析して、繰り返し現れるテーマを特定し、トラウマに基づいた独自の介入を特定しました。TICについて明示的に引用していない研究は除外しました。それぞれの研究について、ニューカッスル – オタワ基準と重要評価スキルプログラム (CASP) チェックリストを使用してバイアスについて評価しました。

Result:
 合計 1,372 件の研究と抄録を特定し、最終分析の対象基準を満たす 10 件を特定しました。TIC介入内で浮上したテーマには、教育的介入、関連する医療専門家や地域組織との協力、患者と臨床医の安全性の介入などが含まれます。教育的介入には、講義、オンラインモジュール、標準化された患者演習が含まれます。健康の社会的決定要因への取り組みに重点を置いた地域組織との協力について述べた研究もあります。すべての介入は、臨床医または患者のいずれかに対して TIC がプラスの影響を与えることを示唆していましたが、アウトカムに関するデータは依然として限られています。

追加のテーマ
 私たちの分析から判明した追加の介入には、次のものが含まれます。
 トラウマのスクリーニングと評価の実施。
 病院と地域のリーダーの両方からリーダーシップの賛同を確保する。
 脆弱な患者集団のための標準化されたTIC プロトコルおよびプログラムの開発。
 救急医療 の環境分析。

Discussion:
 私たちのレビューでは、現在の介入におけるいくつかのギャップを特定しました。それは、普遍的な予防措置の教育の欠如、アウトカムデータの欠如、スタッフ中心の介入の欠如、そして費用対効果分析の欠如です。
 教育主導型とプロトコル主導型の両方で、すべての介入を通じて、すべての患者に対する普遍的な予防策として TIC が採用されることはほとんどありませんでした。私たちのレビューで捉えられたすべての介入は、特定の集団へのアプローチ(つまり、人身売買、性的暴行、地域暴力の生存者)に依存しています。このアプローチは、特定の集団における外傷に対する臨床医の認識を高める可能性があるが、「危険信号」を呈していない患者、または外傷関連の訴えを呈していない患者のニーズには対応していません。

 臨床医は、どの患者が逆境を経験したかを常に予測できるわけではありません。したがって、今後の教育的およびプログラム的な介入では、患者全員に対する普遍的な予防策として TIC を強調する必要があります。

Conclusion:
 この論文は、救急医療セッティングにおけるトラウマに基づいたケア介入に関する最初の体系的なレビューを表しています。レビューの結果は、TIC が救急医療の臨床実践において小さいながらも成長している分野であることを示しています。しかし、救急医療分野における患者と臨床医にとっての潜在的な利点を評価するための追加研究が緊急に必要とされています。TIC介入の普及により、救急医療は患者と臨床医にとって癒しの場所となり得ます。

【開催日】2024年3月6日(水)

早期アルツハイマー病におけるレカネマブ

-文献名-
C.H. van Dyck, C.J. Swanson, P. Aisen, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21.

-要約-
【Abstract】
(背景)可溶性および不溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病における病理学的プロセスを開始または促進する可能性がある。レカネマブは、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、早期アルツハイマー病患者を対象に試験が行われている。
(方法)早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)で、ポジトロン断層撮影(PET)または脳脊髄液検査でアミロイドが認められた50~90歳の患者を対象に、18ヶ月間の多施設共同二重盲検第3相試験を実施した。参加者は、レカネマブ静脈内投与群(体重1kgあたり10mgを2週間ごとに投与)とプラセボ投与群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は、CDR-SB※注1(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes;0~18点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)の18ヶ月時点におけるベースラインからの変化であった。主な副次評価項目は、PETによるアミロイド蓄積の変化、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog14)の14項目の認知機能サブスケールのスコア(ADAS-cog14、0~90点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)、アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS、0~1.97点;スコアが高いほど障害が強いことを示す)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL;0~53点;スコアが低いほど障害が強いことを示す)のスコアである。
(結果)合計1795人が登録され、898人がレカネマブ投与群、897人がプラセボ投与群に割り付けられた。ベースライン時の平均CDR-SBスコアは両群とも約3.2であった。18ヶ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量は、レカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(差-0.45;95%CI、-0.67~-0.23;P<0.001)。698人の参加者を対象としたサブスタディでは、レカネマブの方がプラセボよりも脳アミロイド蓄積の減少が大きかった(差-59.1センチロイド;95%CI、-62.6~-55.6 ※注2)。ADAS-cog14スコアでは-1.44(95%CI、-2.27~-0.61、P<0.001)、ADCOMSスコアでは-0.050(95%CI、-0.074~-0.027、P<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコアでは2.0(95%CI、1.2~2.8、P<0.001)であった。レカネマブ投与により26.4%に急性注入反応(インフュージョンリアクション)が、12.6%にアミロイド関連画像異常;ARIA-E(頭部MRIでの浮腫性変化)が認められた。 (結論)レカネマブは、早期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月後の認知機能と機能の測定においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしたが、有害事象と関連していた。早期アルツハイマー病におけるレカネマブの有効性と安全性を明らかにするために、より長期間の試験が必要である。(資金提供or研究協力:エーザイ(日)、バイオジェン(米)) ※注1:日本語版CDR(0.5点をMCI、1点以上を認知症として捉えることが多い。各スコアの合計=CDR-SB)
※注2:センチロイドはPETにおけるアミロイド集積量の評価法。若年正常陰性を0、軽度~中等度の典型的アルツハイマー型認知症の平均レベルを100として表現。50センチロイド以上がアルツハイマー型認知症確定診断病理例に相当すると推定されている。

【Introduction】
・アミロイドの除去が認知症の進行を遅らせることが示唆されている。
・抗アミロイド抗体の一つ(アデュカヌマブ、米国商品名:アデュヘルム)は、米国FDAから早期承認を受けている。
・レカネマブ(米国商品名:レケンビ)はヒト化モノクローナル抗体で、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合する。
・早期アルツハイマー病患者を対象に、レカネマブの安全性と有効性を検討する第3相試験を実施した。

【Methods】
・早期アルツハイマー病患者を対象とした18ヶ月間の多施設共同・二重盲検・プラセボ比較試験。
・レカネマブ群(10mg/体重kgを2週ごと投与)とプラセボ群に1:1に無作為割り付けした。
層別化:アルツハイマー病による認知機能障害、抗認知症薬の使用、アポリポ蛋白Eε4キャリアの有無、地理的特性。
・アルツハイマー病および統計学の専門家によるモニタリング委員会が、盲検化されていない安全性データをレビューした。
独立した医療チーム(試験割り当てグループを知らない)がARIA、輸液関連反応、過敏性反応を検討した。
臨床評価者は、安全性評価および試験割り当てグループを知らなかった。
・適格基準:アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症を有する50~90歳。アミロイド陽性はPETまたは脳脊髄液によるAβ1-42測定により判定した。
・評価項目:省略(Abstract参照)
・統計解析:無益性や有効性に関する中間解析は計画されなかった。有効性の解析は修正ITT解析(レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与され、ベースライン評価およびCDR-SB測定を少なくとも1回実施)により実施した。安全性の解析は、レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与された参加者集団で評価された。ARIA(アミロイド関連画像異常)は9, 13, 27, 53, 79, 91週目のMRIでモニタリングされた。

【Result(参加者)】 (Figure 1、Table 1参照)
・スクリーニング5967人、無作為化1795人(レカネマブ群898人、プラセボ群897人)、北米・欧州・アジアの235施設にて。
・追跡完了はレカネマブ群729人(81.2%)、プラセボ群757人(84.4%)。修正ITT解析は1734人で実施。
・ベースライン時の参加者の特徴は2群で概ね類似(平均71歳、CDR-SB 3.2/18点、MMSE 25.5点)。非白人が20%強。
【Result(評価項目)】 (Figure 2、Table2参照)※Table2は本ファイルでは省略
・主要評価項目であるCDR-SBはベースラインで約3.2点、18ヶ月後の変化量の補正平均はレカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(-0.45、95%CI、-0.67~-0.23、p<0.001)。 ※「認知症の進行を27%抑制」の数的根拠と思われる。 ・副次評価項目に関して、18ヶ月後の平均変化量は以下の通りであった。  (1) PETでのアミロイド蓄積:レカネマブ群-55.48センチロイド、プラセボ群3.64センチロイド(95%CI:-62.64~-55.60、p<0.001)  (2) ADAS-cog14スコア:レカネマブ群4.14点、プラセボ群5.58点(95%CI:-2.27~-0.61、p<0.001)  (3) ADCOMS:レカネマブ群0.164点、プラセボ群0.214点(95%CI:-0.074~-0.027、p<0.001)  (4) ADCS-MCI-ADL Score:レカネマブ群-3.5点、プラセボ群-5.5点(95%CI:1.2~2.8、p<0.001)

【Result(安全性)】(Table 3参照)
・死亡:レカネマブ群0.7%、プラセボ群0.8%。研究担当医によりレカネマブに関連すると判断された死亡例はなし。
・重篤な有害事象:レカネマブ群14.0%、プラセボ群11.3%。
→急性注入反応(インフュージョンリアクション)(レカネマブ群1.2%/プラセボ群0%)、ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常)(同0.8%/0%)、心房細動(同0.7%/0.3%)、失神(同0.7%/0.1%)、狭心症(0.7%/0%)。
・全ての有害事象:両群で発生率は同程度であった。
・投与中止に至った有害事象:レカネマブ群で6.9%、プラセボ群で2.9%。
・レカネマブ群で多かった有害事象は以下の通り。
・急性注入反応(インフュージョンリアクション):レカネマブ群26.4%、プラセボ群7.4%。大部分は軽度~中等度で、初回投与時。
・ARIA-H(出血性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群17.3%、プラセボ群9.0%
・ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群12.6%、プラセボ群1.7%
・頭痛:レカネマブ群11.1%、プラセボ群8.1%
・転倒:レカネマブ群10.4%、プラセボ群9.6%
・ARIA-Eの91%は軽度~中等度で、78%は無症状で、81%は発見後4ヶ月以内に消失した。
ただし参加者の2.8%に症候性ARIA-Eが認められた(症状:頭痛、視覚障害、錯乱など)。

※急性注入反応(インフュージョンリアクション):分子標的薬などの点滴時に一過性の炎症・アレルギー反応が起こされる病態。サイトカイン放出によると考えられている。主な症状は発熱、悪寒、頭痛、発疹、嘔吐、呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーショックなど。
※ARIA(Amyloid-related imaging abnormalities):頭部MRIでのアミロイド関連画像異常のこと。浮腫性変化を伴うものをARIA-E(edema/Effusion)、出血性変化を伴うものをARIA-H(Hemosiderin deposition)と呼ぶ。

【Discussion】
・主要評価項目であるCDR-SBの18ヶ月後の変化量はレカネマブ群でプラセボ群より有利であった。副次評価項目も同様であった。
・CDR-SBスコアの臨床意義については確立されていないが、プロスペクティブに定義された治療差の目標を上回っていた。
・認知症ステージの進行のハザード比についても、プラセボよりもレカネマブが有利であった。
・レカネマブ群におけるARIA-Eの発症率は12.6%、ARIA-Hの発症率は17.3%であった。
ARIA-Eは一般に最初の3ヶ月間に発生し、軽度で無症状であり、4ヶ月以内に消失することが多かった。
ARIA-E(症候性・全て)の発生率は、いずれもApoE ε4ホモ接合体で最も高かった。
・研究限界:18ヶ月間の治療データしか含まれていない。COVID-19流行に伴う介入不実施、評価の遅延、疾患の併発などがあり、脱落率は17.2%に上った。ARIAの発生に関して、参加者や治験担当医師が試験群の割り付けを認識していた可能性がある。
・現在、各種の追加試験が計画・実施されている。
・結論:早期アルツハイマー病患者において、レカネマブは脳アミロイド蓄積を減少させ、18ヶ月後の認知機能および各種の評価項目についてプラセボと比較して中等度の低下・抑制を示したが、有害事象を伴った。早期アルツハイマー病患者におけるレカネマブの有効性と安全性を決定するためには、より長期間の試験が必要である。

【開催日】2023年9月13日(水)

犯罪被害者の心理とその援助について

―文献名
前田真比子, and マエダマイコ. “犯罪被害者の心理とその援助について.” 大阪大学教育学年報 4 (1999): 115-126.

―要約
【要 旨 】
犯罪は、被害者に対して身体的、経済的、社会的に様々な被害を与え、とりわけ精神面での被害は極めて大きく、深刻な問題を生じている。更に周囲の不適切な対応で、被害者は事件後も二重三重の被害にさらされ続けることになる。このような犯罪被害者に対する援助、特に心理的援助を行なうための研究や実践は、欧米に比べて日本は立ち後れている。                                                                 本論文では、第一に犯罪被害者の心理について、被害者のこうむる二次的被害と被害後の心理的反応を中心に述べ、第二に犯罪被害者に対する心理的援助について、まず被害者の回復過程を説明した上で、心理的援助の方法や自助グループの役割について論じている。今後被害者を取り巻く司法、医療、報道などの機関や被害者支援のボランティア組織など、様々な機関において、二次的被害を防ぎ、被害者の回復を援助するための活動が、十分に展開されていくことが望まれる。        

【被害者の心理】
A被害者化-
第一次被害者化、
第二次被害者化(周囲の誤った対応で精神的、社会的に傷つけられること)
第三次被害者化(事件を契機に社会生活を送るのに精神的、物質的に支障をきたすこと)             
B精神的被害―
PTSD、恥、自責、服従(無力となり卑小になってしまった感覚)、加害者に対する病的な増悪、
逆説的な感謝(加害者に向けられる愛情・同一化)、汚れてしまった感じ、性的抑制、諦め、二次受傷、社会経済状況の低下     

【被害者の心理的援助】

A回復の過程 
・知的認識と喪失の説明 → 情緒的受容 → 新しいアイデンティティーの獲得
・安全(身体の統御、ついで環境の統御)→ 想起と服喪追悼(外傷ストーリーを十分語り、その作業によって外相記憶が形を変え、被害者の生活史に統合される段階) →  再結合   
・社会対処モデル:対処レパートリー、問題状況の定義、対処過程、結果、フィードバック過程

B心理的援助の方法
   *被害者の方のニーズによる:経済的援助、精神的援助、情報提供なのか・・・
   ・理不尽な出来事について、繰り返し繰り返し話すことができる(ただし、話したいという時と、触れられたくないという時がある)
   ・悲しみ、怒り、苦しみ、憤りなど、すべての感情を否定されることなく、受け入れてもらえること
    ・同じ境遇や苦痛を切り抜けてきた人と一緒に、心置きなく感情を分かち合い、話し合えること 

C自助グループの役割 

《開催日》2023年6月14日(水)

高齢者における健康的なライフスタルと記憶力低下の関連性:10年間の集団ベースの前向きコホート研究

―文献名-
Jianping Jia,1 Tan Zhao,1 Zhaojun Liu, et al.
Association between healthy lifestyle and memory decline in older adults: 10 year, population based, prospective cohort study.
BMJ. 2023; 380: e072691

―要約-
【背景】
わかっていること:記憶力は日常生活の基本機能であり、年齢が上がるにつれて継続的に低下する。 記憶力低下の 多因子にわたる生物学的原因を考えると、遺伝的に記憶力が低下しやすい人であっても、最適な効果を得るためには、 健康的なライフスタイルの要因の組み合わせが必要かもしれない。記憶に影響を与える可能性のある因子として、加 齢、アポリポ蛋白 E(APOE)ε4 遺伝子型、慢性疾患、生活パターンなどの研究が行われている。

今回わかったこと:APOEε4 対立遺伝子を持つ人を含め、認知的に正常な高齢者において、健康的でポジティブな行 動の組み合わせは、記憶の低下速度を遅くすることと関連している これらの結果は、高齢者を記憶の低下から守るため の公衆衛生上の取り組みに重要な情報を提供するかもしれない。

【目的】 高齢者における記憶力低下を予防するための最適なライフスタイルプロファイルを明らかにする。
【デザイン】 母集団に基づく前向きコホート研究。
【設定】 中国の北、南、西の代表的な地域から参加者を集めた。
【参加者】 60 歳以上で認知機能が正常であり、2009 年のベースライン時に APOE 遺伝子型判定を受けた個人。
【主なアウトカム評価】 参加者は、死亡、中止、または 2019 年 12 月 26 日まで追跡調査された。健康的なライフス
タイルの 6 つの要因を評価した:
①健康的な食事(対象食品 12 品目のうち少なくとも 7 品目の推奨摂取量を遵守)、
②定期的な身体運動(中強度の 150 分以上または強度の 75 分以上、週あたり)、
③活発な社会接触(≧週 2 回)、
④活発な認知活動(≧週 2 回)、
⑤喫煙をしない、またはしたことがない、
⑥アルコールを飲まない。
参加者は、健康的なライフスタイルの要因が 4〜6 個あれば好ましいグループに、2〜3 個あれば平均的なグループに、0
〜1 個あれば好ましくないグループに分類された。記憶機能は WHO/University of California-Los Angeles Auditory Verbal Learning Test(AVLT※)で、グローバル認知機能は Mini Mental State Examination で 評価した。線形混合モデルを用いて、研究対象者の記憶に対する生活習慣要因の影響を調査した。

※AVLT:即時再生、短期遅延自由再生(3 分後)、長期遅延自由再生(30 分後)、長期遅延認識の測定を 行う。テストでは、評価者が 15 個の名詞からなる単語リストを読み、その直後に、参加者はできるだけ多くの単語を繰り 返してもらう。即時再生の得点は 0〜60 点、その他のテストの得点は 0〜15 点であった。標準 z スコアは、それぞれの 平均値と標準偏差のテストスコアに基づいて計算される。記憶機能の複合 z スコアは、各テストの z スコアを平均すること によって構成される。

【結果】
29,072 名の参加者(平均年齢 72.23 歳、女性 48.54%(n=14113)、APOE ε4 キャリア 20.43%
(n=5939)) が対象となった。10 年間の追跡期間(2009-19 年)において、好ましいグループの参加者は好まし くないグループの参加者に比べて記憶の低下が遅かった(0.028 ポイント/年、95%信頼区間 0.023-0.032、P< 0.001)。APOE ε4 のキャリアの中では、好ましいライフスタイル群(0.027、95%信頼区間 0.023 から 0.031)お よび平均的ライフスタイル群(0.014、0.010 から 0.019)は、好ましくないライフスタイルの人々よりも遅い記憶力低 下を示していた。APOE ε4 のキャリアでない人々では、好ましい群(0.029 ポイント/年、95%信頼区間 0.019〜 0.039)および平均群(0.019、0.011〜0.027)で、好ましくない群の参加者と同様の結果が観察された。APOE ε4 の状態とライフスタイルのプロファイルは、記憶力の低下に対して有意な相互作用を示さなかった(P=0.52)。 記憶力低下に対する各生活習慣構成要素の寄与を評価した。その結果、健康的な食事が記憶に対して最も強い影響を与え(β=0.016、95%信頼区間 0.014〜0.017、P<0.001)、次に活発な認知活動(β=0.010、 0.008〜0.012、P<0.001)、規則正しい身体的運動(β=0. 007, 0.005〜0.009, P<0.001)、活発な社 会的接触(β=0.004, 0.002〜0.006, P<0.001)、喫煙をしないまたはしたことがない(β=0.004, 0.000〜 0.008, P0.026)、飲酒しない(β=0.002, 0.000〜0.004, P0.048)の順だった(サプリメント表 6)。 【ディスカッション】 強み:この大規模な研究は、異なるライフスタイルプロファイル、APOE ε4 の状態、およびそれらの相互作用が、10 年 間の追跡期間にわたって縦断的な記憶の軌跡に及ぼす影響を推定した、我々の知る限り初めての研究である。その結 果、遺伝的に記憶力が低下しやすい人を含め、認知的に正常な高齢者では、健康的なライフスタイルが記憶力の低下 速度の緩やかさと関連していることが明らかになった。 このような変化のメカニズムは本研究では明らかにされていないが、脳血管リスクの低減、認知予備能の向上、酸化スト レスや炎症の抑制、神経栄養因子の促進などが考えられる。 弱み: ①ライフスタイル要因の評価は自己報告に基づいており、したがって測定誤差が生じやすい。 ②数名の参加者は、データの欠損やフォローアップ評価のために戻ってこないという理由で除外され、選択バイアスにつな がった可能性がある。 ③不健康な人は研究に参加しにくいので、不健康なライフスタイルを持つ人の割合は、我々の研究では過小評価された かもしれない。 ④我々の研究デザインの性質上、健康的なライフスタイルの維持が、研究への登録時点で既に記憶に影響を与え始め ていたかどうかを評価することはできなかった。 ⑤我々は、記憶機能全体を包括的に反映していない単一の神経心理学的検査を用いて記憶を評価した。 【結論】 健康的なライフスタイルは、APOE ε4 対立遺伝子がある場合でも、より緩やかな記憶力の低下と関連してい る。この研究は、高齢者を記憶力低下から守るための重要な情報を提供するかもしれない。

【開催日】2023年2月8日(水)

コロナウイルス感染症の非入院ワクチン接種患者におけるニルマトルビルおよびリトナビルの経口投与について

―文献名―
Sarju Ganatra, Sourbha S Dani, Javaria Ahmad, Ashish Kumar, Jui Shah, George M Abraham, Daniel P McQuillen, Robert M Wachter, Paul E Sax, Oral Nirmatrelvir and Ritonavir in Nonhospitalized Vaccinated Patients With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19), Clinical Infectious Diseases, 2022;, ciac673

―要約-
Introduction:
COVID-19の治療にニルマトレルビルとリトナビル(NMV-r)を併用することで、入院していないワクチン接種を受けていないハイリスク患者を治療すると、重症化するリスクが減少しました。ただし、ワクチン接種を受けた患者における NMV-r の潜在的な利点は分かっていません。

Method:
TriNetX 研究ネットワークを用いて、比較後方視的コホート研究を実施した。ワクチン接種を受け、少なくとも1ヶ月後にCOVID-19を発症した18歳以上の患者を対象とした(2021年12月1日から2022年4月18日の間)。診断後 5 日以内の NMV-r の使用に基づいてコホートを作成した。主要複合転帰は,30 日の追跡調査時の全原因救急室(ER)受診,入院,死亡とした.副次的転帰には,主要転帰の個々の要素,多系統の症状,COVID-19 に関連する合併症,診断検査の利用が含まれた.(複合主要エンドポイントである全原因ER受診、入院、死亡の各要素。COVID-19の診断から30日以内のさまざまな全身および非特異的症状(体質、心肺、消化器、神経系および筋骨格系症状、におい/味覚変化)、全身合併症(心血管系、呼吸器、消化器、気分障害)、診断検査(放射線診断検査、心血管診断検査[心エコー図および心臓リズムモニター])実施率)。Figure1

COVID-19を発症した非入院ワクチン接種患者を,診断後5日以内のNMV-rの使用に基づいて2つのコホートに分けた.NMV-rを使用したコホートとNMV-rを使用しなかったコホートである.連続変数については独立標本のt検定を用いてコホートを比較し、平均値(範囲)として報告した。カテゴリー変数はカウント(%)で報告し、カイ二乗(χ2)検定で比較した。患者コホートのベースラインの違いを制御するために、0.1プールの標準差(SD)のキャリパーで貪欲な最近傍アルゴリズムを使用する組み込みアルゴリズムを活用して、臨床的に関連性のある特性について1:1 PSMが実行された。コホート間の標準化平均差が0.1より小さい特性は、よくマッチしているとみなされた。傾向マッチング後、関連性の尺度としてχ2検定を用い、主要アウトカムと副次アウトカムについて95%信頼区間(CI)付きのオッズ比(OR)を算出した。相対的リスク低減は、治療群(NMV-r)と対照群(非NMV-r)の間の絶対リスク低減を対照群の絶対リスクで割ったものとして算出した。生存解析は、ログランク検定によるKaplan-Meier曲線のプロットとハザード比(HR)の算出により、2つのコホートを比較した。統計的有意性は、両側P値が0.05未満とした。統計解析は、R for statistical computing(R Foundation for Statistical Computing)を使用したTriNetXオンラインプラットフォームで完了した。

感度分析として、観察研究における未測定の交絡因子や省略された共変量によるバイアスに対する頑健性を確認する指標であるE値を、主要アウトカムと副次アウトカムの両方について測定した[13]。E値が高いほど、共変量の効果推定値を否定するために、より強い未測定の交絡因子が必要であることを意味し、因果関係の可能性が高くなる。

患者のベースライン特性をtable1に示します。PSM の後、2 つのグループのベースライン特性は類似しており、残留不均衡は見つかりませんでした (含まれる共変量の標準差 <0.1)

Results:
主要アウトカム
NMV-r コホートの 89 人 (7.87%) の患者と非 NMV-r コホートの 163 人 (14.4%) の患者で、30 日間のすべての原因による ER 訪問、入院、または死亡の主要な複合結果が発生しました (OR: .5; 95% CI: .39–.67; P  < .005)、45% の相対リスク低下と一致します(Table 2)。さらに、NMV-r を投与された患者は、30 日間の無病生存率が高かった (88.15% vs 84.16%; HR: .67; 95% CI: .52, .87; P  = .002) (Figure 2).

副次的アウトカム
全原因、ER訪問(82 vs 142; OR: .55; 95% CI: .41-.73; P < .05)および入院(10 vs 23; OR: .43; 95% CI: .2-.9; P = .02)は、COVID-19患者においてNMV-rを受けた群に有意差がみられた。10人の死亡が認められたが、すべてNMV-rを投与していないコホートで、NMV-rを投与した群では死亡はなかった(P < .05)(Table 2)。NMV-rを投与された患者では、体質、心肺、胃腸、神経、筋骨格系の症状が少なかった。また、嗅覚・味覚の変化については、2つのコホート間で有意差は認められませんでした。全体として、下気道感染症、不整脈、不安・気分障害などの全身性合併症は、NMV-rのコホートでは非NMV-rのコホートに比べてより少ない頻度でみられた。胃腸炎、大腸炎、下痢の発生には差がなかった。さらに、NMV-rを投与された患者は、NMV-rを投与されなかった患者に比べ、放射線診断検査の利用が少なかった。心血管診断検査は、両コホートでほぼ同じであった(Table 2, Figure 3)。

Discussion:本研究にはいくつかの限界がある。最も重要なことは、傾向マッチングを用いて治療群と非治療群のベースラインの差を慎重にコントロールする努力をしたにもかかわらず、測定不能な交絡が結果に影響を及ぼす可能性があるということである。したがって、感度分析を行った結果、この知見は測定不能な交絡因子によるものである可能性は極めて低いことが示された。電子カルテから収集されたレトロスペクティブなデータは必ずしも正確ではないが、より客観的な臨床検査結果を入手することができた。ワクチンや臨床結果を含む臨床データは、この研究ネットワークに参加している医療機関以外の患者でも発生した可能性があります。もしそうであれば、そのような患者は誤って分類された可能性がある。しかし、この制限は、おそらく治療群と未治療群の両方に適用されるでしょう。COVID-19に直接関連する入院を扱ったEPIC-HR試験とは異なり、ここでは原因別の転帰ではなく、全原因入院、ER訪問、死亡率を評価した。これらの結果は,COVID-19に関連しない疾患によって生じた可能性もあるが,臨床の現場でも,特にウイルス感染が病状を不安定にすることが知られている内科的合併症を持つ患者において,COVID-19が入院に寄与しているのか,偶発的な所見なのかを評価することは困難な場合がある。ERへの訪問はプライマリーケアへのアクセスに影響される可能性があり、場合によっては患者がNMV-rの処方を受けた場所かもしれないため、入院または死亡のみを対象とした感度分析でもNMV-rの有益性は同等であることが示された。

以上より,COVID-19合併症のリスクが高いワクチン接種患者におけるNMV-rの評価は,治療とER訪問,入院,死亡のリスク低減との間に強い関連を示した.COVID-19の症例は,ワクチン接種の普及にもかかわらず依然として発生しており,これらのデータは,ワクチン接種の有無にかかわらず,この脆弱な集団に抗ウイルス療法を実施することを支持するものである.さまざまな患者集団におけるNMV-rの継続的な前向き臨床試験により、治療の利点と危険性がより正確に定義されるでしょう。

 

Figure 1

TriNetX 研究ネットワーク (n=88,651,969 ; HCO 59)
2021年12月1日~2022年4月18日にSARS-CoV-2感染またはCovid-19を発症した患者(接種後少なくとも1ヶ月以上経過した患者)のうち、対象基準を満たさない患者(n=88,404,729)
≧18歳以上のワクチン接種者がワクチン接種後1ヶ月以上経過した時点でSARS-CoV-2感染陽性またはCovid-19と診断された場合(n=231,098、HCOs 40)
初回入院が必要な患者、または回復期血漿、モノクローナル抗体、モルヌピラビルによる治療を受けた患者(n=119,510)
入院せずにワクチン接種を受け,SARS-CoV-2感染またはCovid-19の検査で陽性となり,5日以内にNMV-rによる治療を受けなかった者(n=110,457; HCO 37)
入院せずにワクチン接種を受け、SARS-COV-2感染またはCovid-19が陽性で、5日以内にNMV-rによる治療を受けた患者(n=1,131、HCO 12)

 

Table 1 Baseline Characteristics
こちらのリンクより)

Table 2.
Outcomes Comparison at 30 Days

Figure 3. This forest plot demonstrates the odds ratios with 95% confidence intervals for primary and secondary …

【開催日】2023年2月1日(水)

医学的な疾患のある患者における、セルフコンパッションが心理社会的及び臨床的アウトカムに与える影響:システマティックレビュー

-文献名-
The Effect of Self-Compassion on Psychosocial and Clinical Outcomes in Patients With Medical Conditions: A Systematic Review.
Misurya I, Misurya P, Dutta A. Cureus. 2020 Oct 17;12(10):e10998. doi: 10.7759/cureus.10998. PMID: 33209554; PMCID: PMC7669250.

-要約-
Introduction:
以前の研究では、セルフ・コンパッションは、幸福、不安の軽減、うつ病、ストレス、生活の質の向上など、心理的健康の多くの要因に関連していることが示されています。メタアナリシスでは、セルフコンパッションが高い人ほど、より良い状態にあると報告されています。セルフコンパッションが高い人は、低い人に比べて、精神的健康と生活の質が高いです。さらに、Neff と McGehee は、セルフ・コンパッションがレジリエンスと相関していることを示しました [11]。別の研究では、不安に対するセルフコンパッションの保護的役割が実証されました。
セルフ・コンパッションが医療の世界でより大きく、より顕著な意味を持つ可能性があることを示唆する確固たる証拠があります。 したがって、このシステマティックレビューは、医学的に病気の患者の心理社会的および臨床的アウトカムに対するセルフコンパッションの影響を調査することを目的としました。

Method:
2020年8月10日までのいくつかのデータベースの包括的な検索を、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analysis) ガイドラインに基づいて実施しました [13]。データベースは、Ovid MEDLINE(R) および Epub Ahead of Print、Ovid Embase、Ovid Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Litereature(CINAHL)。適格基準は、1)セルフコンパッションに関して調査していること 2)18歳以上で医学的な疾患を持つ患者が対象であること 3)患者のセルフコンパッションの、心理社会的または臨床的なアウトカムを扱っていること。

Results:
<Baseline Characteristics>Table 1参照(※)
19件の研究が含まれ、そのうち4件は英国、5件は米国、4件はオーストラリア、2件はニュージーランド、3件はイラン、1件は中国からの研究でした。2,713 人の患者が含まれ、そのうち 1,989 人が女性で、年齢は 26 ~ 64 歳でした。 含まれる疾患は、糖尿病 (n=5)、乳がん (n=3)、多発性硬化症 (n=1)、二分脊椎 (n=1)、セリアック病 (n=1)、HIV (n=1) 、脳損傷 (n=1)、片頭痛 (n=1)、筋骨格痛 (n=1)、外陰痛 (n=1)でした。 研究は主に横断的研究 (n=14) であり、ランダム化比較試験 (n=2)、混合法 (n=1)、縦断的研究 (n=1)、準実験的研究 (n=1) が続きました。

<心理社会的アウトカム>Table 2参照(※)
18個の研究は、セルフ・コンパッション・スケール(SCS)アンケートを使用して、セルフ・コンパッションの結果を示しました。 5 つの研究では、1 ~ 5 のすべてのサブスケールの平均に基づいてセルフコンパッションの値が提供されました。 セルフコンパッション値の範囲は 2.8 ~ 3.46 でした。 3 つの研究では、SCS を使用して特定のサブスケールを調べました [16,18,30]。 Ambridge、Fleming、Henshall による研究では、Self-Compassion Scale-Short-Form (SCS-SF) を調べており、スコアは5.69 ± 1.15 でした [16]。 ブラウンらによる研究では、自己への親切: 2.74 ± 0.94、共通の人間性: 3.11 ± 0.93、マインドフルネス: 3.18 ± 0.83、内省: 1.70 ± 0.61 [18]でした。 最後に、Skelton らによる研究。 思いやりのある関与と行動のスコアは 64.12 ± 19.48 でした [30]。 残りの研究では、SCS は 18 ~ 80 の範囲の合計スコアの平均として報告されました。

<重要な相関関係>Table 2参照(※)
含まれているすべての研究で、うつ病、不安、ストレス、回復力、恥ずかしさ、生活の質、およびその他の結果などの他の重要な心理社会的結果とのセルフコンパッションの相関関係が評価されました。 9件の研究で、セルフコンパッションとうつ病との相関関係が評価されました[16,18,20-23,26,29,33]。 すべての研究で、医学的疾患を持つ個人の自己への思いやりが高いほど、うつ病のレベルが低いという相関関係があることがわかりました。
5つの研究では、セルフコンパッションと不安の相関関係が調べられており、そのうちの 2 つは以前に HADS アンケートを使用して議論されていました。残りの 3 つの研究では、さまざまな種類のアンケートを使用しましたが、セルフコンパッションスコアが不安と負の相関関係にあることが明らかになりました [23,29,33]。
「セルフコンパッションと恥」[16,30]。 1つの研究では、自分への思いやりのレベルが上がるにつれて、恥が減ることが示されましたが、もう一つでは、相関関係は示されませんでした。
「セルフコンパッションと生活の質」 [19,21,28,30]。 2つの研究では、セルフ・コンパッションの増加が生活の質を改善することが示されましたが、2つでは相関関係は示されませんでした。
「自己への思いやりとストレスのレベル」[21-23,26]。4 つの研究のうち 3 つは、セルフコンパッションと糖尿病の苦痛スコア (DDS-17) を調査し、セルフコンパッションが増加すると、DDS が減少することを示しました [21,22,26]。 他の研究では、セルフコンパッションレベルが高いほどストレスレベルが低いことが示されました[23]。
「セルフコンパッションとレジリエンス」Hurwit、Yun、および Ebbeck による 1 つの研究では、自己への思いやりが高いほど回復力が高いことが示されました [28]。
「セルフコンパッションとアドヒアランス」:セルフコンパッションは、HIV患者のアドヒアランス行動の増加と関連していないことを実証しました[30]。 一方、ダウドとユングは、ベースラインでのセルフコンパッションが、セリアック病患者のグルテンフリー食へのアドヒアランスを予測できることを示しました[19]。

<臨床的アウトカム>Table 3参照(※)
HbA1cと血糖値を伴う糖尿病の臨床転帰に対するセルフコンパッションの効果を調査した研究は2つだけでした[22,24]。 カラミらの研究では、ベースライン時および介入完了後の対照群と比較して、介入群(セルフ・コンパッション・プログラム)にいた患者の血糖値の改善を示しました[24]。ベースラインの血糖値は介入群:272.75 ± 21.96、対照群:271 ± 35.88 でした [24]。 介入後 (8 週間後)は、介入群:205.25 ± 12.55、対照群:267 ± 28.98 でした [24]。 同様に、もう一つのFriis らによる研究も 対照群と介入群の間でのHbA1cレベルを比較することを目的とました[22]。 彼らは、HbA1c値が介入後と 3 か月のフォローアップ時に、介入群で有意に改善したことを示しました (介入群:ベースライン: 74.25 ± 15.11; 介入後: 71.44 ± 18.34; フォローアップ: 64.03 ± 16.25)(コントロール群:ベースライン: 64.04 ± 13.32; 介入後: 66.03 ± 14.20; フォローアップ: 62.32 ± 12.41) [22]。

Discussion:
このシステマティック レビューには、さまざまな医学的疾患に苦しむ 2,713 人の患者を対象とした 19 の研究が含まれていました。 セルフコンパッションスコアの心理社会的結果は低く、うつ病、不安、ストレス、恥、回復力、生活の質などの他のパラメーターと相関していました。 さらに、2 つの研究では、病気の管理にセルフコンパッションに基づく介入を取り入れることのプラスの影響が示されました。
医学的疾病管理におけるセルフ・コンパッションのもう1つの重要な役割は、健康増進行動の増加に関連するものです。自己管理行動は、長い間、症状管理の中心的な要素であり、慢性疾患における疾患の経過と転帰を改善してきました [38]。最近の 2019 年の新型コロナウイルスのパンデミックは、あらゆる健康分野に影響を与えています。 メンタルヘルスも例外ではなく、その結果、認知的苦痛、不安、および人前に出ることへの恐怖が報告されています[39]。 セルフコンパッションは、これらを管理する上で非常に効果的なツールであることが証明されるかもしれません.
以前の研究でも、セルフコンパッションと自己管理行動との関連性が実証されています [3,4]。 Sirois によるメタ分析では、15 の研究で 3,252 人の個人をプールし、より高いセルフコンパッションが慢性疾患の健康増進行動へのより良い関与と正の相関があることを発見しました [40]。これらの行動には、より良いストレス管理、服薬遵守、ライフスタイルの変更、睡眠の質の改善が含まれていました. これは、私たちのレビューのデータと一致しており、2 つの研究のうちの 1 つで、自己管理行動がセルフコンパッションの増加に伴って増加したことが示されました。
セルフ・コンパッションに基づくトレーニングと介入は、医学的疾患を経験している個人のより良い臨床アウトカムに関連しています。 これらの介入には、思いやりに焦点を当てた療法(CFT:compassion-focused therapy)と思いやりのある心の訓練(CMT:
compassionate mind training)が含まれます[41]。 以前の研究では、健康を促進する行動を実践することで、自分自身を受け入れてケアをするという、これらの的を絞った介入の成功が実証されています [42]。 Leaviss と Uttley による 14 の研究を含むレビューでは、CFT は特に自己批判が激しい人にとって効果的な介入であることが示されました [43]。 臨床転帰の改善におけるセルフ・コンパッションの役割に関するデータは限られていますが、病状の治療の改善におけるセルフ・コンパッション療法の効果について有望な結果が得られています [44,45]。 このレビューの 2 つの研究で示されているように、プラセボと比較したセルフコンパッション介入は、HbA1c や血糖値などの糖尿病パラメーターの臨床転帰に真に影響を与える可能性があります [22,24]。
このレビューでは、これらの研究は、短期間の糖尿病の臨床転帰に対するセルフ・コンパッションの効果を 3 か月間調査しました。 心理社会的アウトカムと臨床的アウトカムの両方に違いをもたらすには、少なくとも12週間、複数のセッションを通じて自己思いやりの介入を提供する必要があるという証拠が増えています[46]。 Philips と Hine による研究では、自己管理行動に影響を与え、心理的成果を改善し、身体的健康を向上させるためには、複数回のセッションでのセルフコンパッション介入が重要であると強調されています [46]。 したがって、セルフ・コンパッションの介入と複数のセッションを 6 か月以上組み合わせることで、医学的疾患を持つ個人の疾患管理に対するセルフ・コンパッションの影響力を高めることができます。
セルフコンパッション的な介入を導入することは、この領域の始まりにすぎません。 ただし、そのような介入の影響を最大化するには、医療従事者によるセルフコンパッションの実践が必要です。 研究は、医療業界の労働者が患者の行動に影響を与える可能性があることを示しています[47]。 したがって、患者のより良いコミュニケーション、理解、および疾患管理を促進するために、思いやりのある環境を育むことが重要です[48,49]。 この継続的なトレーニングとサポートは、患者の自己効力感と自分自身への思いやりを高め、健康増進行動への取り組みに対する態度を改善する環境を育みます [50]。

<制限>
まず、この調査には英語の出版物のみが含まれていました。 第二に、研究間のデータ表示には大きなばらつきがありました。 たとえば、各研究で使用されるアンケートはさまざまでした。 さらに、同じセルフ・コンパッション・アンケートが使用されたにもかかわらず、各研究は、アンケートからさまざまな項目を削除することにより、異なる方法でスコアを計算していました. そのため、これは、メタ分析を実施し、心理社会的および臨床的結果に対するセルフコンパッションの影響の範囲を把握する能力を妨げました. 最後に、臨床転帰に対するセルフ・コンパッション介入の役割を報告した研究は 2 つだけであったため、セルフ・コンパッション・プログラムを使用することが医学的に病気の個人の臨床転帰と疾患の経過に影響を与えるかどうかを特定する能力は制限されていました。

結論
結論として、このシステマティックレビューは、相関関係と心理社会的結果への影響に関して、セルフコンパッションの役割を強調しています。 さらに、サンプルサイズが小さいにもかかわらず、この研究は、医学的疾患の管理におけるセルフコンパッションプログラムの統合の重要性を示しました. したがって、病気の治療に取り組むためのツールとして、セルフ・コンパッションを使用する差し迫った必要性があります。 疾患管理の役割におけるその重要性を強調するために、セルフコンパッションに基づく介入の長期的な結果を評価するには、さらなる研究が必要です。

※各Table資料はこちらよりご確認いただけます。

【開催日】2023年1月11日(水)

成人の不眠症治療薬のネットワークメタアナリシス(NMA)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
De Crescenzo F, D’Alò GL, Ostinelli EG, et al. Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2022 Jul 16;400(10347):170-184.

-要約-
Introduction:不眠症は一般人口に非常によくみられる疾患で、慢性的な経過をたどり、患者および医療制度に大きな負担をかけている。 非薬理学的介入と薬理学的介入の両方が利用できるが、薬物はかなりの有害事象(すなわち、転倒[特に高齢者])と関連しているにもかかわらず、利用しやすいためしばしば処方される。薬理学的治療は、ほとんどがプラセボ対照試験で調査されているため、その比較効果についてはほとんど情報がありません。科学文献の中で、我々は5つのネットワークメタ分析を見つけたが、これらは非常に特定の集団(例えば、高齢者または自己免疫疾患と診断された人)にのみ焦点を当てているか、重要な方法論の制限(例えば、プラセボ対照試験のみまたは薬理療法の小さなサブセットを含む)があった。このギャップを埋めるために、我々は、急性および長期治療の不眠症障害に対する認可および非認可薬を含む体系的レビューとネットワークメタ分析を行った。

Method:この系統的レビューおよびネットワークメタ分析では,データベース開設から2021年11月25日までにCochrane Central Register of Controlled Trials,MEDLINE,PubMed,Embase,PsycINFO,WHO International Clinical Trials Registry Platform,ClinicalTrials.gov および規制機関のウェブサイトを検索し,公開および未発表のランダム化対照試験について明らかにした。特定の診断基準で診断された成人(18歳以上)の不眠症障害に対する治療として、薬物療法またはプラセボを単剤で比較した研究を対象とした。NMAではクラスター無作為化試験またはクロスオーバー試験、および二次性不眠症(精神疾患または身体的な併存疾患による不眠症、薬物またはアルコールなどの物質による不眠症)患者が含まれる試験は除外した。信頼性ネットワークメタ解析(CINeMA)フレームワークを用いて、エビデンスの確実性を評価した。主要アウトカムは、急性期治療と長期治療の両方で、有効性(すなわち、任意の自己評価尺度で測定した睡眠の質)、何らかの理由および特に副作用による治療中止、安全性(すなわち、少なくとも1つの有害事象を示した患者数)であった。標準化平均差(SMD)およびオッズ比(OR)は、ランダム効果によるペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析を用いて推定した。本研究はOpen Science Framework, https://doi.org/10.17605/OSF.IO/PU4QJ に登録されている。システマティック・レビューには170試験(36介入、4万7,950例)、ネットワーク・メタ解析には無作為化二重盲検比較試験154試験(30介入、4万4,089例)が組み込まれた。

Results:
・急性治療においてベンゾジアゼピン系(短時間作用型、中間作用型、長時間作用型)、ドキシラミン、エスゾピクロン、レンボレキサント、ゾルピデム、ゾピクロンは、プラセボより有効であり、SMD(標準偏差(SD)の単位として介入効果を表す)は0.36から0.83の範囲だった(証拠の確実性は中程度から高度である)。
・長期治療では、エスゾピクロンおよびレンボレキサントはプラセボよりも有効であった(エスゾピクロン。SMD 0.63 [95% CI 0.36-0.90;非常に低い]、レンボレキサント 0.41 [0.04-0.78; 非常に低い])。
・直接比較では、投与4週間後、短時間作用型ベンゾジアゼピンはダリドレキサント、レンボレキサント、ザレプロンより効果が高く(SMDs 0.47-0.64[高〜中])、エスゾピクロンとゾルピデムはザレプロンより効果が高く(エスゾピクロン: 0.33[0.08-0.58; 中]、ゾルピデム: 0.27 [0.08-0.45; 中]、図3)、短時間作用型ベンゾジアゼピンは、ザレプレクサントに比べ有効でした(SMDs 0.42[1.42])。
・急性期治療において、中時間作用型ベンゾジアゼピン系、長時間作用型ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロンは、ラメルテオンよりも何らかの原因による中止が少なかった(図3)。 (中作用型ベンゾジアゼピン系。OR 0.72[95%CI:0.52-0.99;中程度];長時間作用型ベンゾジアゼピン。0.70[0.51-0.95;中等度]、エスゾピクロン:0.71[0.52-0.98;中等度])
・長期投与では、エスゾピクロンとゾルピデムはラメルテオンよりも投与中止が少なかった(エスゾピクロン:OR0.43[95%CI]、ゾルピデム:OR0.98[95%CI])。OR 0.43[95%CI0.20-0.93;非常に低い]、ゾルピデム:0.43[0.19.0.95;非常に低い]、図3)。
・ゾピクロンとゾルピデムは、治療4週間後にプラセボよりも有害事象による脱落が多かった(ゾピクロン:2.00[1.28-3.13、非常に低い]、ゾルピデム:1.79[1.25-2.50、中等度])。
・ゾピクロンでは、エスゾピクロン、ダリドレキサント、スボレキサントに比べて有害事象による脱落が多かった(エスゾピクロン1.82[1.01-3.33]、低)(ダリドレキサント3.45[1.41-8.33、低)(スボレキサント3.13[1.47-6.67、低])、図4)。
・試験終了時に副作用を報告した患者数では、ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロン、ゾルピデム、ゾピクロンが、プラセボ、ドクセピン、セルトレキサート、ザレプロンより副作用の報告が多く( OR 範囲 1.27-2.78 [high to very low] )、ゾピクロンもレンボレキサント、メラトニン、ラメルテオン、スボレキサントより多くなりました (図4)

Discussion:
・急性期および長期治療におけるすべての結果を考慮すると、レンボレキサントとエスゾピクロンは有効性(臨床的に関連する主要アウトカムである睡眠の質)、受容性(何らかの原因による中止)、および忍容性(何らかの有害事象による中止)の点で最高のプロファイルを有していた。しかし、エスゾピクロンはかなりの有害事象を引き起こす恐れがあり、レンボレキサントに関する安全性(少なくとも1つの有害事象)データは結論に至っていない。ベンゾジアゼピン系薬剤(短時間作用型、中間作用型、長時間作用型)は急性期の治療には非常に有効であるが、忍容性と安全性のプロファイルは好ましくない。最も重要なことは、長期間の試験データがないため、これらの薬剤の臨床効果を適切に評価することができないことであった。
・我々の分析では、レンボレキサントは短期、長期ともに睡眠を改善する最も有効なオレキシン拮抗薬であり、セルトレキサントとスボレキサントはより良い忍容性プロファイルを有していた。
[限界]
・CINeMAによると、特に長期のタイムポイントでは、多くの比較を質が低いか非常に低いと評価し、多くの試験が無作為化と割付隠蔽に関する十分な情報を報告していないため、これらの結果の解釈には限界がある。
・身体的併存疾患および治療抵抗性不眠症の患者を除外したため、これらの臨床サブグループへの結果の適用性が制限されるかもしれない。
・我々は平均的な治療効果のみを分析し、個々の患者レベルでの治療反応の潜在的に重要な臨床的および人口統計学的修飾因子(例えば、性別、症状の重症度、および罹病期間)を調査することができなかった。また、正式な費用対効果分析は行わず、特定の有害事象に関するデータは個々の研究間で一貫して報告されていませんでした。このことは、患者や臨床医が治療の有効性や受容性だけでなく、副作用の発生率や重篤度も考慮して自ら判断するため、重要な制約となります。

【開催日】2022年9月7日(水)

COVID-19罹患後の精神障害について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Xie Y, Xu E, Al-Aly Z. Risks of mental health outcomes in people with covid-19: cohort study. BMJ. 2022;376:e068993. Epub 2022 Feb 16.

-要約- 
【Introduction】
・短期間の追跡調査(6カ月未満)に限定し、精神的な健康状態のアウトカムを狭く選択した研究では、covid-19患者は不安やうつ病のリスクが高い可能性があることが示された。
・1年後のcovid-19患者における精神的な健康状態の包括的な評価はこれまでになされていない。
【目的】Covid-19急性期の生存者における精神疾患発症リスクを推定すること。

【デザイン】コホート研究
【セッティング】米国退役軍人省
【対象者】2020年3月1日から2021年1月15日の間にSARS-CoV-2のPCR検査結果が1回以上陽性だった患者で、感染後30日間生存した153,848人と、2つの対照群:SARS-CoV-2の証拠がない現代群(n=5,637,840)とcovid-19パンデミック以前の歴史的対照群(n=5,859,251)からなるコホート群。 追跡開始日はcovid-19群で検査結果が陽性となった日とし、追跡終了日は2021年11月30日とした。主なアウトカム評価項目は、1年後の1000人当たりのハザード比および絶対リスク差として算出された、事前に規定された精神衛生上の転帰のリスク、およびそれに対応する95%信頼区間。事前に定義された共変量とアルゴリズムで選択された高次元の共変量は、逆重み付けによってcovid-19群と対照群のバランスを取るために使用された。

【結果】
まとめ:
・Covid-19感染者は、精神健康障害(例:不安障害、うつ病性障害、ストレスおよび適応障害、オピオイド使用障害、その他の物質使用障害、神経認知機能の低下)の発症リスクが上昇していることが示された。
・精神健康障害のリスクは、入院していない人でも明らかであり、病気の急性期にcovid-19のために入院した人で最も高かった。
・covid-19患者は、季節性インフルエンザ患者よりも高い精神健康障害のリスクを示した。
・covid-19で入院した患者は、他の原因で入院した患者と比較して、精神健康障害のリスクが高いことが示された。

詳細:
・covid-19群は現代対照群と比較して、以下の発生リスク上昇を示した。(Fig 2)
不安障害(ハザード比1.35(95%信頼区間1.30~1.39),1年後の1000人当たりのリスク差11.06(95%信頼区間9.64~12.53)),
鬱病(同 1.39(1.34~1.43),15.12(13.38~16.91) ),
ストレス・適応障害(1.38(1.34~1.43)、1.29(11.71~14.92)),
抗うつ薬の使用(1.55(1.50~1.60)、1.59(19.63~23.60)),
ベンゾジアゼピンの使用(1.65(1.58~1.72), 10.46(9.37~11.61))
オピオイド処方(1.76(1.71~1.81)、35.90(33.61~38.25))、
オピオイド使用障害(1.34(1.21~1.48)、0.96 (0.59~1.37))、
その他の(オピオイド以外の)物質使用障害(1.20(1.15~1.26)、4.34(3.22~5.51))
神経認知機能の低下(1.80(1.72~1.89)、10.75(9.65~11.91))
睡眠障害(1.41(1.38~1.45)、23.80(21.65~26.00))
メンタルヘルスにおける何らかの診断や処方のリスクも増加した(1.60(1.55~1.66);1年後1000人当たり64.38(58.90~70.01))。(Fig 3)
・各リスクは,入院していない人でも増加し,covid-19の急性期に入院した人で最も高かった。
・上記の結果は、歴史的対照群における結果とも一致した。
・精神疾患の発症リスクは、covid-19で入院しなかった人と季節性インフルエンザで入院しなかった人、covid-19で入院した人と季節性インフルエンザで入院した人、covid-19で入院した人とその他の原因で入院した人を比較すると、いずれもcovid-19群で一貫して高かった。 (Fig 8)

【考察】
強み:
・covid-19患者の大規模な全国コホートを選択し、2つの対照群(SARSCoV2感染の証拠がない現代のグループおよびパンデミック以前の歴史的グループ)と比較して、事前に指定した精神保健アウトカムの包括的セットのリスクを推定した。
・Covid-19群では、入院した人と入院しなかった人のリスク推定値を提供し、これらの集団におけるリスクの大きさをより理解しやすくしている。
・covid-19 と季節性インフルエンザを比較し,covid-19 で入院した人とそれ以外の理由で入院した人を分けて,精神的な転帰のリスクを比較した.
・高度な統計手法を用い,診断コード,処方記録,臨床検査結果などの高次元のデータ領域から,これまでの知見に基づいて選択した定義済みの共変量と,アルゴリズムで選択した100個の共変量を逆確率重み付けによって調整した.
・複数の感度分析で結果を精査し、ポジティブおよびネガティブアウトカムコントロールを適用して、我々のアプローチがテスト前の予想と一致する結果を生み出すかどうかを評価した。

弱み:
・コホートの人口統計学的構成(ほとんどが高齢の白人男性)は、研究結果の一般化可能性を制限する可能性がある。
・コホートの選択に米国退役軍人省の膨大な全国電子医療データベースを使用し、いくつかのデータ領域にわたって事前に定義されアルゴリズムで選択された高次元変数について研究群のバランスをとるために有効な結果定義(診断コードおよび処方記録を含む)および高度統計手法を使用したものの、誤分類バイアスおよび残留交絡を完全に排除することはできない。
・Covid-19群を、SARS-CoV-2検査陽性後最初の30日間にCovid-19で入院した者と入院しなかった者に分類した。入院しなかった参加者の疾患の重症度のスペクトラム(例えば、Covid-19の症状があるかないか)を考慮したものではなかった。
・精神的なアウトカムの重症度については調査していない。
・ベースライン時の医療資源利用によって研究グループのバランスをとり、追跡調査中の医療資源利用の時間的変化を調整するために感度分析を行ったが、covid-19患者への関心が高まった結果、現代および過去の対照群と比較して、精神衛生状態の確認が多くなった可能性を完全に排除することはできない。
・パンデミックが進化し続け、ウイルスの新しい亜種が出現し、急性期のcovid-19の治療戦略が改善し、ワクチンの接種量が増加するにつれて、covid-19の急性期後の精神衛生上の成果の疫学も時間的に変化する可能性がある。

【結論】本結果は、covid-19の急性期を生き延びた人々は、さまざまな精神健康障害の発症リスクが高いことを示唆している。covid-19の生存者における精神的健康障害への取り組みは優先されるべきである。

【開催日】2022年7月6日(水)