Comfort Feeding Only

-文献-
Eric J. palecek, et al. Comfort Feeding Only: A Proposal to Bring Clarity to Decision- Making Regarding Difficulty with Eating for Persons with Advanced Dementia. J Am Geriatr Soc. 2010 March ; 58(3): 580–584.

-要約-
体重減少につながる経口摂取・食事の困難は、認知症進行期において一般的である。このような問題が発生すると、家族はしばしば胃瘻造設に関する意思決定に直面する。
観察研究に基づく既存のエビデンスは、経管栄養が生存率を改善したり、誤嚥のリスクを低下させたりしないことを示唆しているが、認知症患者では経管栄養が広く行われており、施設入居者の大部分は人工的水分・栄養補給法に関する希望について文書による事前指示を得られていない。
理由の1つは、人工的水分補給・栄養法を差し控える指示が「経口摂取させない」と誤って解釈され、その結果家族の抵抗感を生むためである。
さらに、施設は体重減少に対する当局の監査を恐れており、経管栄養の使用は可能なことがすべてが行われていることを意味すると誤って信じている。
これらの課題は、患者のケアの目標を強調する明確な言語を作成することで克服できる。
個別の食事ケア計画を通じて患者の快適性を確保するためにどのような措置を講じるべきかを示す新しい指示「Comfort Feeding Only」を提案する。
慎重な食事介助による可能な範囲での快適な経口摂取に注力することは、経管栄養に代わる明確な目標指向の代替手段を提供し、人工的水分・栄養補給を放棄する現在の指示によって課せられることになる見かけの「ケアする」「ケアしない」の二分法を排除する。

【開催日】2019年11月6日(水)

サルコペニアと嚥下障害

―文献名―
Ichiro Fujishima. Sarcopenia and dysphasia. Sarcopenia and dysphagia. 2019; Jan 9.

―要約―
Introduction:
 サルコペニアと嚥下障害については学会や研究会で話題に上がることが多い。しかし、明確な基準や定義はまだ定まっておらず。今後のさらなる研究の発展のためにも、現時点でわかっていることをまとめる必要があると考えられた。メカニズム・診断・治療・今後の展望について統一見解を出すことを目的とする。(日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会の4学会合同で作成)

 サルコペニアは1989年に提案された概念で、骨格筋量の低下に伴う筋力低下による身体機能低下を示している。診断基準は未だまちまちで、骨格筋量は必須項目であるものの、筋肉の機能の評価には筋力低下(握力)と身体機能低下(歩行速度)の両者もしくはいずれかを採択するのかで意見は分かれている。嚥下機能との関連については2012年に最初の報告があり、その後は本邦を中心に研究が重ねられている。サルコペニアの概念は、老化に伴う生理的なもの(内的要因)と運動不足・栄養摂取不足といった外的要因の両者が誘因となって生じる筋萎縮を示しており、原因には中枢神経、筋繊維自体の変化、ホルモンや栄養、生活習慣などが関与している。嚥下筋のサルコペニアについては未だ議論中で、嚥下筋の廃用とサルコペニアの違いや、栄養改善と訓練によって回復可能性があるのかどうかについてさらなる研究が必要である。
 サルコペニアによる摂食嚥下障害のリスク因子としては、サルコペニアそのもの、低栄養、低ADLがあり、予防にはリハビリテーションや栄養管理が有用ではないかと考えられている。
現在、サルコペニアに伴う嚥下障害は2017年に診断フローチャート(Fig.1)があり、嚥下関連筋の筋肉量を評価せずに診断が可能である。これにより、「サルコペニアの嚥下障害とは、全身と嚥下筋関連のサルコペニアによる摂食障害である。全身のサルコペニアをみとめない場合、神経筋疾患によるサルコペニアは除外。加齢・活動低下・低栄養・疾患による二次性サルコペニアは含む。」定義されている。嚥下関連筋の筋肉量はCTやエコーで評価可能と言われており、特にオトガイ舌骨筋のエコーでの筋肉量・輝度による評価が有用と言われており、サルコペニアの診断基準案(Table.1参照)を提示した。
 治療によってサルコペニアによる摂食嚥下障害が改善されたという報告は3例。いずれも摂食嚥下リハビリと同時に35kcal/kg(理想体重)を目標とした栄養管理を行っている。リハビリテーションと栄養改善の併用がやはり重要と言える。

 嚥下筋にサルコペニアが生じた場合の嚥下障害の判定方法は未だ不明瞭。両者の関係性についても引き続き議論を要する。予防や治療については、栄養改善を目指した栄養管理がどこまで予防・治療に効果を及ぼすのかを明らかにしていきたいところ。健常高齢者や加齢に伴う変化を評価していくことや、薬物療法の開発も今後の課題の一つである。

201902佐野1

CC:下腿最大径、DXA:二重エネルギー X 線吸収測定法、BIA:生体インピーダンス法
DXAは全身測定用のものが必要のため、骨密度測定に一般に使われているものは不適切
201902佐野2

【開催日】2019年2月6日(水)

アドバンス・ケア・プランニングの効用

―文献名―
Karen M. Detering The impact of advance care planning on end of life care in elderly patients: randomised controlled trial. BMJ. 2010; 340: c1345.

―要約―
【目的】
 高齢患者に対する人生の最終段階におけるケアに対するアドバンス・ケア・プランニングの影響を調べること

【方法】
 デザイン:Prospective randomised controlled trial.
 セッティング:オーストラリアメルボルン大学の単一施設研究
 参加者:80歳以上の医療入院患者309名を対象とし6ヶ月もしくは死亡するまで追跡調査した
 介入 :参加者は通常ケアか通常ケア+アドバンス・ケア・プランニング(the Respecting Patient Choices model 文献12のトレーニングを受けた
     看護師またはヘルスケアワーカーが主治医などの協力のもと実施)を受けるため無作為に割り付けられた。アドバンス・ケア・プランニング
     は患者が患者の目的、価値観、信念を将来の治療選択の考慮と代理意思決定者の任命と希望の文章化に反映することのサポートを目的として
     いる。
 アウトカム測定:主要アウトカムは患者の人生の最終段階における希望が知られており尊重されているかどうかであった。他の結果には、入院患者
         および家族の満足度、および死亡した患者の親族におけるストレス、不安、うつ病のレベルが含まれていた。
 
【結果】
 309名のうち154名が介入群に無作為に割り付けられた。125名(81%)にアドバンス・ケア・プランニングが実施され、108名(84%)が希望を表明したか代理意思決定者を指名した。6ヶ月で死亡した56名のうち介入群(25/29,86%)はコントロール群(8/27,30%;P<0.001)に比べ人生の最終段階における希望がより知られ、従われる傾向にあった。介入群では亡くなった患者家族のストレス(介入群5、コントロール群15、P<0.001)、心配(介入群0、対照群3、P=0.02)、抑うつ(介入群0、対照群5、P=0.002)がコントロール群と比較して有意に少なかった。患者と家族の満足度は介入群と比較してより高かった。
 
【結論】
 調整されたアドバンス・ケア・プランニングは人生の最終段階におけるケアを改善する。アドバンス・ケア・プランニングは遺族の不安、抑うつ、心的外傷後ストレスを軽減する。アドバンス・ケア・プランニングは入院後の患者と家族の満足度を改善する。
 
【Discussion】
 ・意思表示能力がない患者(認知症など)のアドバンス・ケア・プランニングについては評価していない
 ・単一施設研究のため地域の文化的、システム的な影響があるかもしれない
 ・6ヶ月以内での追跡は出来たがそれ以降の追跡は出来ていない

村井先生図1

村井先生図2

村井先生図3

村井先生図4

村井先生図5

【開催日】
2018年11月7日(水)

ホスピスケアの平均余命

―文献名―
Todd Eichelberger. Life Expectancy with Hospice Care. Am Fam Physician. 2018 Mar 1;97(5)

―要約―
-Evidenve-Based Answer-
ホスピスケアを受けている肺癌、膵臓癌、転移性黒色腫の終末期患者は、寿命が最小限に延長される。少なくとも1日のホスピスケアを受けると、平均余命は3ヶ月まで延長される可能性がある。(Recommendation:B)

▶2007年の後ろ向きコホート研究(n = 4,493)は、末期診断を受けた患者の生存期間を測定した。すべての患者は、診断から3年以内に死亡した。ホスピスケアを受けたのはおよそ2分の1(2,095人)だった。研究は、乳癌、結腸癌、肺癌、膵臓癌、前立腺癌終末期の診断の患者を含む、疾患特異的コホートから構成された。サブグループ分析では、ホスピスケアを受けた肺癌および膵臓癌の患者は、ホスピスケアを受けていない患者と比較して平均余命が延長した。(肺癌患者では279日対240日、P 1. Connor SR, Pyenson B, Fitch K, et al. Comparing hospice and nonhospice patient survival among patients who die within a three-year window. J Pain Symptom Manage. 2007;33(3):238–246.

JC神田20180801

(原著(上記添付)を参照すると、平気余命を最も延長したのは慢性心不全患者群。研究の限界として、ホスピス入院の決定に関連する要因が結果に影響するかは正確にはわからないと記載あり。この研究によりホスピスケアが死を早めるという誤解を払拭する情報を提供したいらしい。)

▶2015年の台湾の末期肺癌患者に関する後ろ向きコホート研究は、少なくとも1日でもホスピスケアを受けた患者(n = 566)とホスピスケアを受けていない患者(n = 2,833)の生存率を比較した。(20歳未満の患者は除外)ホスピスケアは診断後の生存期間を延長した。(中央値= 0.86年対0.61年、P <.001)
2. Chiang JK, Kao YH, Lai NS. The impact of hospice care on survival and health care costs for patients with lung cancer: a national longitudinal population-based study in Taiwan. PLoS One. 2015;10(9):e0138773.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4583292/

▶2014年の後ろ向きコホート研究は、転移性黒色腫を有する65歳以上の患者(n = 862)のホスピスケアの生存効果およびコスト効果を調べた。ホスピスケアを受けていない患者(n =225例)、3日以内のホスピスケアを受けた患者(n =523例)、3日以上のホスピスケアを受けた患者(n =114例)がいた。終末期の診断から死亡までの平均生存期間は、ホスピスケアを受けていない患者では6.1ヶ月、3日以内のホスピスケアを受けた患者では6.5ヶ月、3日以上のホスピスケアを受けた患者では10.2ヶ月であった(P <.001)。4日以上のホスピスケアを受けた患者は、3日以内の患者よりも平均生存期間が3.3カ月長い(ハザード比= 0.66; 95%信頼区間0.54〜0.81)
3. Huo J, Lairson DR, Du XL, et al. Survival and cost-effectiveness of hospice care for metastatic melanoma patients. Am J Manag Care. 2014;20(5):366–373.
https://www.ajmc.com/journals/issue/2014/2014-vol20-n5/survival-and-cost-effectiveness-of-hospice-care-for-metastatic-melanoma-patients

 

【開催日】2018年8月1日(水)

病院における終末期患者の治療目標に対する意志決定の障壁因子について

-文献名-
Barriers to Goals of Care Discussions With Seriously ill Hospitalized Patients and Their Families A Multicenter Survey of Clinicians
ohn J. You, MD, MSc1,2; James Downar, MDCM, MHSc3,4; Robert A. Fowler, MDCM, Epi5,6; et al
JAMA Intern Med. 2015;175(4):549-556. doi:10.1001/jamainternmed.2014.7732

-Introduction-
終末期の入院患者に対して、ケアの目標に対するコミュニケーションと意志決定がEOL(end of life)のケアの質を向上させる優先事項である。EOLのケアの質を改善するためには既存の障壁を取り除く必要がある。ただ、今までこれらに対する病棟の臨床家の見解を明らかにした論文はなかった。目的としては病院臨床家の観点から1終末期患者とその家族とのケアの目標を阻害する因子について、2臨床家がこのプロセスに従事する意欲と受け入れについて調査することである。

-Method-
カナダの5つの州の教育施設である13の病院で勤務している内科スタッフ、内科レジデント、看護師を対象とし、医師、看護師で個別性を持つアンケートを3段階で作成した。アンケートの内容に関しては、最初のセクションは臨床問題(Box)を読んでもらい、その中で患者と意志決定を議論する上での21の障壁(家族、患者因子に関わるものが10個、臨床医の要因が4つ、システムに関する要因が7つ)の重要性について、主要アウトカムとして7点スケール(1重要でない7非常に重要)で評価するように回答。
次のセクションではケアの目標に対する様々な側面について調査しています。ディスカッションの会誌、情報交換、コーチング(価値の明確化、治療のオプションなど)、延命を希望するかしないかについての最終的な意志決定についてです。それぞれ参加者はどの程度意欲的に取り組んでいるのか、看護師は職場環境でどのくらいこれらに関わっているのか尋ねられた。これも7点スケール(1意欲がない、7きわめて意欲的である)で評価。紙ベースとWebベースの両方で出来るよう対応。結果は研究調整センターで分析された。
解答に関してはスタッフ医師、レジデント、看護師に分けて記載。カテゴリ変数はカウントとパーセンテージ、連続変数は平均と標準偏差で記載。平均と障壁における95%信頼区間が全試験サンプルで報告。専門科での各障壁に対する重要度の違いも評価した。

JC20180523安達1

JC20180523安達2

JC20180523安達3

-Results-
2012年9月から2013年3月の期間で、1617人の対象者のうち1256人がアンケート調査を受け解答した。全体の回答率は77.7%(646人の看護師のうち512人[79.3%]、634人のうち484人[76.3%]、337人のスタッフ医師[ 77.2%])。
Figure1はすべての参加者によるケアの目標を決める際の障壁と感じるものの重要性です。
障壁の重要性の順位付けは3グループともに同様であり、家族、患者に関連した因子が最大の障壁となっているとの答えであった。
(家族、患者が短い予後を受け入れられない、治療の限界や合併症の理解が難しい、家族間の合意の欠如、本人の意志決定能力
の欠如)。臨床家は自分達のスキル不足、要因はあまり重要ではないと考えていた。また、障壁の順位は類似していたが各重要度は看護師が最も高かった。
Figure2は意志決定の目標を達成する意欲と支持について記載されている。スタッフ医師が最も意欲的であり、次はレジデントであった。
看護師は目標達成の意欲、職場環境のサポートともに高くはなかった。
Figure3はコミュニケーションと意志決定における様々な専門職との関わりの重要性について記載されている。
スタッフ医師とレジデントは意志決定に非常に重要であると評価された、一方でスタッフ医師、レジデントは看護師と比較して、看護師、SW、他の医療スタッフが意志決定に関わることはあまり重要ではないと評価していた。

【開催日】2018年5月23日(水)

終末期緩和ケア患者の感染症に対する抗菌薬の使用について

―文献名―
Joseph H. Rosenberg, Jennifer S. Albrecht, Erik K. Fromme, et al. Antimicrobial Use for Symptom Management in Patients Receiving Hospice and Palliative Care: A Systematic Review
J Palliat Med. 2013 Dec 1; 16(12): 1568–1574

―要約―
Introduction
 米国でも高齢化により緩和ケアの必要性が高まっている。終末期患者は高い感染のリスクがあり、約27%の患者が死亡する週に抗菌薬が投与されている。この状況にも関わらず終末期患者における抗菌薬の投与が、予後の延長と症状緩和に寄与するかについては明らかではない。2002年に終末期患者に対する感染のSystematic Reviewがあったが、その中では症状の改善に関する論文は1つだけであった。この10年で終末期患者における抗菌薬の使用を検討するいくつかの論文が発表されている。今回はそれらの文献を体系的にレビューし、症状の改善に対する既存のデータを要約した。これにより今後の終末期患者の抗菌投与の有無の判断について役立てることが目的である。

Method
 PubMedで2001年1月1日~2011年6月30日までの間に発表された終末期患者の抗菌薬使用についての文献のSystematic Reviewであり、palliative care、infection 、antibiotic等の文字で検索した。癌を含む終末期患者における、抗菌薬使用率と使用後の症状の改善を測定した文献に限定して分析した。創傷、口腔ケア、衛生環境、薬物動態に焦点を当てたものは除外としている。対象としている論文は記述研究である。データベース以外の検索はしておらず、funnel plotなし。文献の評価については、1人目の著者は文献が基準を満たしているのかを評価し、2人目、3人目の著者が選ばれた文献をレビューし、4人目の著者が評価者の内容に偏りがないかチェックしている。

Results
 PubMedで984の文献を検索し、基準を満たす文献は11個であった。table1は患者数、主病名、療養環境、国、研究方法、反応性、抗菌薬使用率について記載している。table2は抗菌薬に対する症状の改善について記載されており8個の文献が当てはまっている。全体での抗菌薬による治療の効果については、21.4%(95%CI:13.2%-31.7%)~56.7%(95%CI:52.7%-60.6%)と様々であった。点滴投与のみの研究は2つあり、効果はそれぞれ52.9%(95%Cl27.8~77.0%)、75.9%(95%Cl:52.7~60.6%)であった。また臓器別の抗菌薬の効果について記載された論文が3つあり、その中の2つの文献によると尿路感染症では60~92%、呼吸器感染症では0~53%、菌血症では0%の効果であった。

Discussion
 今回の研究の課題としては、抗菌薬使用群と非使用群との比較対照した研究ではない。抗菌薬の使用状況と症状の改善を同時に測定している事に異質性がある。現時点ではランダム化比較試験の研究はない。症状の改善という点でも有効な症状測定ツールを使用しておらず、主観的な評価を用いている(ただ、症状の評価自体が主観的であり測定が難しい)。解熱剤等の抗菌薬以外の治療の効果が除外されていないので、抗菌薬の独立した効果かは不明。抗菌薬の副作用についても考慮していない。
ホスピスでは感染症の診断自体があいまいな場合が多い。今回の研究では数が限られているため
ファネルプロットを用いた出版バイアスの評価も行わなかった。
今回の研究結果はこの分野における質の高い研究の必要性を再確認するものであった。
今後研究を行う際は、有効な症状測定ツールを活用する。抗菌薬治療群と非治療群とを分けて評価する。感染症を定義付ける。副作用も調査する。他の薬剤使用等の症状管理状況の交絡因子をきちんと除いたプロスペクティブな研究が必要である。

【開催日】
 2017年5月24日(水)

末期癌患者の在宅死の実現に影響を与える要因

―文献名―
S.Fukui, et.al.Late referrals to home palliative care service affecting death at home in advanced cancer patients in Japan: a nationwide survey.Annals of Oncology 2011;22:2113-2120.

―要約―
【背景】
多くの患者が在宅での死を希望しながら希望した場で死を迎えられていない。

【目的】
病院から在宅への紹介のタイミングに焦点を当て、在宅緩和ケアを受ける患者の死亡場所に影響を与える要素を明らかにする。

【方法】
日本全国の在宅ケア施設から無作為に選ばれた1000施設(訪問看護)に直近の在宅緩和ケア患者1名について回答を依頼する質問紙を用いた横断研究。合計568(名の患者について)の回答が解析された(有効回答率は69。1%)。

【結果】
多変量ロジスティック回帰分析により以下が在宅緩和ケアの死亡場所に影響を与えることが明らかになった(Table3 表示)。
(1) 患者特性
家族介護・看護者が在宅ケアを希望していること、家族介護・看護者が娘か義理の娘であること、紹介時の身体機能が完全に寝たきりであること
(2) 病院における退院前のサポート
早期の紹介(退院前8日以上)、病院のスタッフによる退院し在宅で生活し亡くなることに関する明解な説明
(3) 在宅ケアへ移行後のサポート
在宅緩和ケアチームに含まれる医師が(病院医ではなく)家庭医であること、医師や看護師が患者に対して24時間の支援を保証する契約を結ぶこと、退院後最初の1週間、訪問看護師が3回以上医師と訪問すること

【結論】
病院側のスタッフによる早期かつ丁寧にコーディネートされた円滑に機能する退院支援システムと在宅ケアチームによる退院直後の質の高い支援は患者の在宅死を増やす可能性がある。

【開催日】
2014年11月5日(水)

終末期における、家庭医の認められた役割 ~入院の予防とガイド~

―文献名―
Thijs Reyniers .The Family Physician’s Perceived Role in Preventing and Guiding Hospital Admissions at the End of Life: A Focus Group Study.Annals of Family Medicine.2014;Vol12:441-446.

―要約―
【目的】
家庭医は終末期ケアを提供する際に、そして終末期の患者が住み慣れた環境で亡くなっていく際に重要な役割を担っている。この研究の目的は、終末期における、入院を予防したり進めていったりする際の役割と困難さについての家庭医の認識を探る事である。

【方法】
5つのフォーカスグループが開かれた。参加した家庭医はベルリンの家庭医で39人。 議論はテープ起こしされ、constant comparative approach※1で分析された。

【結果】
終末期における、入院の予防と案内での5つの重要な役割が分かった。①未来のシナリオを予想するケアの計画者; ②助言するという形での急変時の決断をする役割;③終末期ケアの提供者(これは能力と態度が重要である);④特に急変時に対応できるという支援の提供者;⑤総合的な責任を担う意思決定者

【結論】
終末期における入院の予防と案内の際、家庭医は多様で複雑な役割と困難さに直面する。 病院医療へのゲートキーパーとして家庭医の役割を向上させたり、家庭医にもっと終末期ケアのトレーニングをさせたり、家庭医をサポートする方法を発展・拡大すれば、終末期における入院の割合を減らせるかもしれない。

※1:constant comparative approach;データの収集,コーディングとカテゴリ化,理論構築の作業を、データ収集ごとに分析の結果を絶えず比較し,それをまたデータ収集に反映することを繰り返す

―考察とディスカッション―
この研究で導き出された5つの役割は、どれも納得できるものであった。あくまで終末期における「入院」に関わる家庭医の役割ではあるが、かなりの部分が網羅されていると思われる。

①皆さんはこの結果を見て納得できるか?
②終末期ケアにおける家庭医の役割として、皆さんが抱えている悩み、疑問はどんなものがあるか?
③「終末期ケアにおける家庭医の役割は?」というクリニカルクエッションに対し、この研究に更に上乗せするとしたら、どのような切り口で研究を構成していくか?

【開催日】
2014年10月22日(水)

進行がん患者の化学療法の効果に対する期待

– 文献名 –

 Jane C. Weeks, et al.Patients’ Expectations about Effects of Chemotherapy for Advanced Cancer
N Engl J Med 2012; 367:1616-1625

– この文献を選んだ背景 –
 
 栄町に赴任してから在宅で6名の患者さんをお看取りさせていただいた。そのうち癌で看取ったのは4人いらっしゃるが、御家族の反応としてまったく悔いなくお看取りができたと考えている家族や、民間療法を行った方が良かったのではないかと考えている家族、癌が見つかった段階でもっと治療を受けさせた方がよかったのではないかと考えている家族などそれぞれの思いがあった。
 私自身は医師でありもし自分や家族が進行がんと診断された場合にとるであろう行動はイメージできるが、それぞれの家族の反応を見て改めて同じステージの癌でも患者さんやご家族が考えることは個別性のあるものであることを実感した。
 そうしていたところ、このような文献を見つけたので読んでみることとした。

– 要約 –

 背景:転移性肺癌あるいは転移性大腸癌は、化学療法によって生存期間が数週間から数ヶ月延長し、症状が緩和される可能性がある。ただ、癌の治癒そのものが得られるわけではない。

 方法:癌治療転帰調査サーベイランスCancer Care Outcomes Research and Surveillance(CanCORS)研究(アメリカのプロスペクティブ観察コホート研究)の参加者で、癌診断後4ヶ月の時点で生存しており、新た に診断された転移性肺癌または転移性大腸癌に対して化学療法を受けた1193人を対象とした。
 化学療法によって治癒する可能性があるという期待をもっている患者の割合を同定し、この期待に関連する臨床的因子、社会的因子、医療制度因子を検証した。診療録の再検討だけでなく、専門の面接者によって患者情報を得た。

 結果:1193人(肺癌710人、大腸癌483人)が登録された。全体で、肺癌患者69%と大腸癌患者81%が、化学療法によって癌が治癒する可能性が全くない ことを理解しているという回答をしなかった。多変量ロジスティック回帰では、化学療法に関する誤った考えを報告するリスクは、大腸癌患者のほうが肺癌患者 よりも高く(OR1.75; 95% CI, 1.29 to 2.37)、非白人患者やヒスパニック系患者では非ヒスパニック系白人患者よりも高く(ヒスパニックOR2.82; 95% CI, 1.51 to 5.27; 黒人OR 2.93; 95% CI, 1.80 to 4.78)、医師とのコミュニケーションについてとても良好であると評価した患者では、あまり良好でないと評価した患者よりも高かった(OR for highest third vs. lowest third, 1.90; 95% CI, 1.33 to 2.72)。
 社会的教育水準、身体的機能状態、意思決定における患者の役割と、化学療法に関する過度の誤認との関連はなかった。

130816

結論:
  化学療法を不治の癌に対して受けている患者の多くは、化学療法によって癌が治癒する可能性は低いことを理解していない可能性がある。ゆえに十分な情報に基 づいて、自身の意向に沿った治療を決定する能力に欠けている可能性すらある。医師は患者の理解を深めることが可能であるが、ただしこれが患者満足度の低下 という代償を伴うおそれもある。

– 考察とディスカッション –

 今回の研究で進行がん患者が化学療法の限界に対して正しく認識していない可能性があることがわかった。しかし、治癒は期待できなくても予後の延長や症状緩和への期待はできることから進行がん患者の治療の選択としては有用である場合があるため、患者との決断の共有が非常に重要になると思われる。
 また、医師患者関係が良い方があまり良好でないと答えた群よりも化学療法に関する誤った報告をするリスクが高いことは非常に驚いた。医師患者関係が良好であるほど患者が楽観的になる傾向があるかもしれないし、医師もシビアな情報を提供しにくいと考えてしまうかもしれないと感じた。
 地域でケアを受けている患者に誤解が少なかったとの結果もあり、他職種と連携しながら患者のアプローチをするなど地域特有の距離感などが有用であるかもしれないと感じた。患者との関係性を維持しながら終末期の患者に対して適切な時期に効果的な終末期ケアを導入できるように努力する必要があると感じた。

開催日:平成25年8月14日

認知症患者の予後

-文献名-
 平原佐斗司(著).第3章 認知症の緩和ケア.非がん疾患の緩和ケア.南山堂2011年
 
 
-この文献を選んだ背景-
 最近グループホームの訪問診療数が増えてきており認知症患者と関わる機会が多い。グループホームの訪問診療の際に、スタッフからアルツハイマー型認知症の患者さんが終末期ではないかと質問を受ける場面を経験した。これまでアルツハイマー型認知症の終末期について学習する機会が少なかった。本書に認知症終末期に関するレビューがまとまっていたためを読んでみた。
 
 
-要約-
 
1認知症の終末期の定義

 ・米国のホスピス導入基準における末期の定義では、アルツハイマー型認知症の重症度分類であるFunctional Assessment Stage分類(FAST分類)を利用している。

 ・7-cより進んだ状態で着衣不可、時折の尿・便失禁、簡単な言葉を喪失し、意味のある会話が出来ない状態、歩行が出来ないなどの医学的状況のうち一つがあれば末期と診断されている。特に上記判断基準を満たしても、歩行が改善した認知症患者は6ヶ月以上生存することが証明されており、歩行障害が特に重視されている。
(7-a:最大限約6語に限定された言語機能の低下、7-b:理解しうる語彙はただ一つの単 
 語、7-c:歩行能力の喪失、7-d:着座能力の喪失、7-e:笑う能力の喪失、7-f:混迷お 
 よび昏睡の各段階)  
 
2認知症患者の予後と死因
 ・英国の5つの地域で14年間に渡って行われた前向き調査で、認知症患者は診断後平均4.5 
年で死亡していることがわかっている(1)。米国のアルツハイマー型認知症521例の追跡調査では診断後の生存平均期間は男性4.2年、女性5.7年で、予後に与える因子としては年齢、性別、診断時の重症度、身体機能、合併症が指摘されている(2)。
 ・認知機能が重度のアルツハイマー型認知症では肺炎での死亡が多く、認知機能が軽度のアルツハイマー型認知症では心疾患や脳卒中での死亡が多いことが指摘されている。(3)
 ・アルツハイマー型認知症以外の認知症(脳血管性、レビー小体型、前頭側頭葉型認知症)の予後に関する報告は少ないが、アルツハイマー型認知症と比較するとやや短い。
 
3認知症の延命治療の効果
 ・重度認知症の経管栄養の有用性については、倫理的な理由から、RCTは実施出来ず、胃瘻 
増設後の生存期間を後ろ向きにみた物が主であり、本書では進行認知症には経管栄養を実施すべきではないという欧米のコンセンサスが形成されるようになった報告が紹介されている。
 ・Finucaneらが重度認知症の経管栄養に関する総説の中で、PEG造設後の中央生存期間は7.5ヶ月であること、63%は1年以内に、81%は3年以内に死亡しているという規模の大きな2つの研究データを紹介し、著名な延命効果は証明されないと解説している。(4) 
 
4認知症の予後予測
 ・2つの予後予測スケールが紹介されている。
 ・Mortality
Risk Index(MRI)(5):米国のNursing Home(NH)に入居している重度認知症患者を対象とした研究から開発された認知症患者の半年予後について評価するスケール。12のリスクファクターを評価し加算することで半年以内の死亡率を予測できる。
 ・Advanced
Dementia Prognostic Tool(ADEPT)(6):MRIが米国の2つの州のNH入居者のデータに基づいているなどの限界を修正したスコアで、全米のNHの重度認知症患者222,405人の対象に大規模な後ろ向きコホート研究を行い作成した。
 
(1)  Survival time in people with dementia:analysis from population based cohort 
Study with 14 year follow up BMJ,336:258-262,2008
(2)  Survival after Initial Diagnosis of Alzheimer Disease.Annals of Internal 
Medicine,140(7):501-509,2004
(3)  Causes of death associated with Alzheimer disease:variation by level of cognitive impairment before death.J Am Geriatr Soc,42(7):723-6,1994
(4)  Tube feeding in patients with advanced dementia A review of evidence.JAMA,282(14):1365-1370,1999
(5)  Estimating Prognosis for Nursing Home Resident with dementia,JAMA 291(22)
:2734-2740,2004
(6)   The advanced Dementia Prognostc Tool:A risk score to Estimate Survival in 
       Nursing Home Residents with Advanced Dementia.JPSM,40(5):639-651,2010 
 
 
-考察とディスカッション-
 
 アルツハイマー型認知症患者の予後予測スケールがあることを初めて知った。また重度認知症患者に対する胃瘻造設の欧米のコンセンサスやそのもととなった報告についても勉強になった。認知症患者の家族に食べられなくなった際にどうするか方針を決定する機会があるが,Shared decision makingを行う上でこれらの予後スケールや胃瘻造設予後のエビデンスの提示は有用になり得ると感じた。

 
開催日:2013年5月1日