アルツハイマー病患者の認知機能障害に対する抗認知症薬の効果

-文献名-
The effect of anti-dementia drugs on Alzheimer disease-induced cognitive impairment: A network meta-analysis.
Cui CC 1 , Sun Y, Wang XY, Zhang Y, Xing Y.
Medicine (Baltimore). 2019 Jul;98(27):e16091. doi: 10.1097/MD.0000000000016091.

-要約-
Introduction:
認知機能障害はアルツハイマー病の主症状である。アルツハイマー病治療のための臨床推奨を提供するためにネットワークメタアナリシスを実施して、
アルツハイマー病患者の認知機能障害に対する様々な抗認知症薬の効果を評価した

Method:
関連するランダム化比較試験はPubmed database, Web of Science, Clinical Trials, Embase,
Cohranne library, Chinese National Knowledge Infrastructure database, CBM databases,
Wanfangを介して見つけられた。合計33の論文が集められ、最も早く集められた論文は2017年2月に発刊された。
集められた論文は厳格なinclusion criteriaとexclusion criteriaによって論文の質をスクリーニングされた。
全ての分析は以前に発行された特定されていないデータに基づいている。それゆえ倫理的承認または患者の同意は必要なかった。
MMSEのスコアで33の論文を11の論文とプラセボ以外の12の薬を特色とした軽度の認知機能障害サブグループ、
17の論文とプラセボ以外に15の内服を特色とした中等度の任地機能障害サブグループ、5つの論文とプラセボ以外に3つの内服を特徴とする重度の認知機能障害サブグループに分類した。
Results:
ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、フペルジン(コグニアップ日本では未承認)は軽度の認知機能障害グループにおいて最も高い有効性を示した(それぞれ平均差5.2,2.5および2.4)。
ドネペジル、フペルジン、リバスチグミン(イクセロンパッチ/リバスタッチ)は中等度の認知機能障害グループにおいて最も有意な結果を示した(それぞれ平均差3.8.2.9および3.0)
重度のサブグループではドネペジルは明らかにメマンチンより優れていた。それ故ドネペジルは認知機能の程度に関わらずアルツハイマー病の認知機能障害に対して効果的であることがわかった。
Conclusion:
ネットワークメタアナリシスを用いた臨床的に一般的な抗認知症薬の評価はアルツハイマー病認知機能障害の緩和にコリンエステラーゼ阻害薬、特にドネペジルの有効性を確認した。
したがってこの研究は、アルツハイマー病の認知機能障害に対しての薬物的介入の選択に対して役立つ可能性がある

【開催日】2019年8月7日(水)

高齢女性における歩数および歩行強度と全死因死亡率との関係

-文献名-
I-Min Lee,MBBS,ScD,Eric J. Shiroma,ScD, Masamitsu Kamada,PhD,et al. Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in older Women. JAMA Intern Med.Published online. May 29,2019.

-要約-
Importance:
1日1万歩を目標に歩くことは健康のために必要だと一般に信じられているが、この歩数は科学的な根拠が限られている。さらに、1日あたりの歩行数にかかわらず、歩行強度がより強い方が健康ベネフィットがあるのかどうかも不明である。
Objective:
1日あたりの歩数および歩行強度と全死因死亡率との関係を研究すること
Design, Setting, and Participants:
この前向きコホート研究には、2011年から2015年までの間で7日間、覚醒時間中に加速度計を装着することに同意したWomen’s Health Studyからの18,289人の米国人女性が参加した。17,708人のがデバイスを装着して返却し、17,466のデバイスからデータが正常にダウンロードされた。このうち、1日10時間以上、4日間以上装着した16,741人のデータが解析に供され、2018年から2019年に解析が行なわれた。
Exposures:
1日当たりの歩数といくつかの歩行強度の尺度(1分間ケイデンスピーク、30分ケイデンスピーク、5分間ケイデンス最大、意図的に歩行した40歩/分以上での歩行時時間)
Main Outcome and Measures:全死因死亡率
Results:
・選択基準を満たした16,474人の女性の平均年齢(SD)は72.0歳(5.7)だった。
・平均歩数は5,499歩/日で、時間割合は0歩/分が51.4%、1-39歩/分が45.5%、40歩/分以上(意図的な歩行)が3.1% だった。
・平均4.3年の追跡期間中に、504人が死亡した。
・各四分位における1日あたり歩数の中央値は、2,718 、4,363、5,905、8,442であった。
・交絡因子を調整後、各四分位の全死因死亡率に関連したハザード比(HR)はそれぞれ、1.00(基準)、0.59(95%CI:0.47-0.75)、0.54(95%CI:0.41-0.72)、0.42(95%CI:0.30-0.60)だった(p<0.01)。
・スプライン解析では、約7500歩/日までは1日当たり平均歩数が増えるにつれてHRが減少したが、それ以上では平坦になった。
・歩行強度については、強度が強いほど死亡率が有意に低かったが、1日あたり歩数を調整後は全ての関連が弱められ、ほとんどが有意ではなくなった。
Limitation
この結果が、より活動的でない集団やもっと活動的な集団にも当てはまるかは明らかでない。

 

【開催日】2019年6月12日(水)

サルコペニアと嚥下障害

―文献名―
Ichiro Fujishima. Sarcopenia and dysphasia. Sarcopenia and dysphagia. 2019; Jan 9.

―要約―
Introduction:
 サルコペニアと嚥下障害については学会や研究会で話題に上がることが多い。しかし、明確な基準や定義はまだ定まっておらず。今後のさらなる研究の発展のためにも、現時点でわかっていることをまとめる必要があると考えられた。メカニズム・診断・治療・今後の展望について統一見解を出すことを目的とする。(日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会の4学会合同で作成)

 サルコペニアは1989年に提案された概念で、骨格筋量の低下に伴う筋力低下による身体機能低下を示している。診断基準は未だまちまちで、骨格筋量は必須項目であるものの、筋肉の機能の評価には筋力低下(握力)と身体機能低下(歩行速度)の両者もしくはいずれかを採択するのかで意見は分かれている。嚥下機能との関連については2012年に最初の報告があり、その後は本邦を中心に研究が重ねられている。サルコペニアの概念は、老化に伴う生理的なもの(内的要因)と運動不足・栄養摂取不足といった外的要因の両者が誘因となって生じる筋萎縮を示しており、原因には中枢神経、筋繊維自体の変化、ホルモンや栄養、生活習慣などが関与している。嚥下筋のサルコペニアについては未だ議論中で、嚥下筋の廃用とサルコペニアの違いや、栄養改善と訓練によって回復可能性があるのかどうかについてさらなる研究が必要である。
 サルコペニアによる摂食嚥下障害のリスク因子としては、サルコペニアそのもの、低栄養、低ADLがあり、予防にはリハビリテーションや栄養管理が有用ではないかと考えられている。
現在、サルコペニアに伴う嚥下障害は2017年に診断フローチャート(Fig.1)があり、嚥下関連筋の筋肉量を評価せずに診断が可能である。これにより、「サルコペニアの嚥下障害とは、全身と嚥下筋関連のサルコペニアによる摂食障害である。全身のサルコペニアをみとめない場合、神経筋疾患によるサルコペニアは除外。加齢・活動低下・低栄養・疾患による二次性サルコペニアは含む。」定義されている。嚥下関連筋の筋肉量はCTやエコーで評価可能と言われており、特にオトガイ舌骨筋のエコーでの筋肉量・輝度による評価が有用と言われており、サルコペニアの診断基準案(Table.1参照)を提示した。
 治療によってサルコペニアによる摂食嚥下障害が改善されたという報告は3例。いずれも摂食嚥下リハビリと同時に35kcal/kg(理想体重)を目標とした栄養管理を行っている。リハビリテーションと栄養改善の併用がやはり重要と言える。

 嚥下筋にサルコペニアが生じた場合の嚥下障害の判定方法は未だ不明瞭。両者の関係性についても引き続き議論を要する。予防や治療については、栄養改善を目指した栄養管理がどこまで予防・治療に効果を及ぼすのかを明らかにしていきたいところ。健常高齢者や加齢に伴う変化を評価していくことや、薬物療法の開発も今後の課題の一つである。

201902佐野1

CC:下腿最大径、DXA:二重エネルギー X 線吸収測定法、BIA:生体インピーダンス法
DXAは全身測定用のものが必要のため、骨密度測定に一般に使われているものは不適切
201902佐野2

【開催日】2019年2月6日(水)

Multimorbidity発生の予測

―文献名―
Luke T.A.Mounce,PhD et al. Predicting Incident Multimorbidity. Ann Fam Med 2018;16:322-329. https://doi.org/10.1370/afm.2271.

―要約―
PURPOSE
多疾患併存は有害な結果に関連するが、その発生の決定要因に関する研究は不十分である。私たちは社会人口統計学的、健康的、個人的な生活習慣(例えば、身体活動、喫煙、BMI)のどのような特徴が多疾患併存の新規発生を予測するかを研究した。
METHODS
10年間のフォローアップ期間を含む英国加齢縦断研究(ELSA)における50歳以上の4,564名の参加者のデータを使用した。慢性疾患がない研究参加者(n=1477)については、2002-2003年から2012-2013年の間の結果とベースライン特性の関連性を別々に調べるための離散時間ロジスティック回帰モデルを構築し、 初期の疾患にかかわらず10年以内の疾患の増加、および多疾患併存の発生に対する個々の疾患の影響を調べた。
RESULTS
多疾患併存の新規発生リスクは、年齢、財産(少ない方がハイリスク)、身体活動低下または外的統制(ライフイベントは自分ではコントロールできないと信じていること)と有意な関連性がある。
性別、教育、社会的孤立に関しては有意な関連性は認められなかった。
疾患が増加した参加者(n=4564)については、喫煙歴のみが追加の予測因子であった。
単一のベースライン疾患(n=1534)を有する参加者にとって、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息および不整脈は、その後の多疾患罹患と最も強い関連性を示した。
CONCLUSIONS
我々の知見は、影響を受けやすいグループの多疾患併存の新規発生予防を目的とした戦略の開発と実施を支援する。このアプローチは、生活習慣要因に対処する行動変容を組み込み、健康関連の統制の所在(Locus of Control)を目標とすべきである。

【開催日】2018年12月5日(水)

プライマリ・ケアにおける高齢者の入院に関連する潜在的な不適切処方の影響:縦断研究

―文献名―
Teresa Pérez, Frank Moriarty, Emma Wallace, Ronald McDowell, Patrick Redmond, Tom Fahey. Prevalence of potentially inappropriate prescribing in older people in primary care and its association with hospital admission: longitudinal study. BMJ (Clinical research ed.). 2018 Nov 14;363;k4524.

―要約―
OBJECTIVE
入院と65歳以上の高齢患者への不適切処方との関連と,入退院前後で不適切な処方が退院後に増加するかどうかについて調べることを目的とする.
DESIGN
 一般(家庭医療)診療所の診療録を後ろ向きに抽出した縦断研究.
SETTING
 2012~2015年にかけて,アイルランドにある44カ所の一般(家庭医療)診療所.
PARTICIPANTS
 診療所を受診した65歳以上の成人.
EXPOSURE
 病院への入院(入院群 v.s. 非入院群,入院前 v.s. 退院後)
MAIN OUTCOME MEASURES
 高齢者の処方スクリーニングツールScreening Tool for Older Persons’ Prescription(STOPP)ver.2の45の基準を用いて,潜在的不適正処方が占める割合を算出し,患者特性で補正を行い,層別化Cox回帰分析(明らかな潜在的不適正処方基準を満たした発生率)と,ロジスティック回帰分析(1人の患者について潜在的不適正処方が1回以上発生したか否かの2項値による)の2通りで分析し,入院との関連を検証した.患者特性と診断名に基づく傾向スコアによりマッチングを行い,感度分析も行った.
RESULTS
 分析には3万8,229例が包含された.2012年時点での平均年齢は76.8歳(SD 8.2),男性が43.0%(1万3,212例)だった.年に1回以上入院した患者の割合は,10.4%(2015年,3,015/2万9,077例)~15.0%(2014年,4,537/3万231例)だった.
 潜在的不適正処方を受けた患者の割合は,2012年の45.3%(1万3,940/3万789例)から2015年の51.0%(1万4,823/2万9,077例)の範囲にわたっていた.
 年齢や性別,処方薬数,併存疾患,医療保険の種類とは関係なく,入院は明らかに潜在的不適正処方基準を満たす割合が高かった.入院補正後ハザード比(HR)は1.24(95%信頼区間[CI]:1.20~1.28)だった.
 入院患者についてみると,潜在的不適正処方の発生率の尤度は,患者特性にかかわらず,退院後のほうが入院前よりも上昇した(補正後OR:1.72,95%CI:1.63~1.84).なお,傾向スコア適合ペア分析でも,入院に関するHRはわずかな減少にとどまった(HR:1.22,95%CI:1.18~1.25).
CONCLUSION
 高齢者にとって入院は,潜在的な不適正処方の独立関連因子であることが明らかになった.入院が高齢者の不適正処方にどのような影響を及ぼしているのか,また入院の潜在的有害性を最小限とする方法を明らかにすることが重要である.

【開催日】2018年12月5日(水)

患者と家族からみたケアの移行,受け渡し(退院支援)

-文献名-
Suzanne E M et.al. Care Transitions From Patient and Caregiver Perspectives. Ann Fam Med 2018; 16: 225-231.

-要約-
<目的】> ケアの移行/受け渡し(退院支援)を効率的に行うために協調的な対策がとられているにも関わらず,病院から自宅(home)への行程/道のりは患者と介護者にとって危険に満ちたものである.患者と介護者がケアの移行/受け渡し(退院支援)の経験や彼らが望むサービス,彼らにとって価値あるアウトカムについてはほとんど知られていない.この研究の目的は(1)ケアの移行/受け渡し(退院支援)における患者と介護者の経験を描写すること,(2)患者と介護者にとって望ましいケアの移行/受け渡し(退院支援)のアウトカムやそれに関連する健康関連サービスの特徴を明らかにすることである.

<方法>
米国内の6つの健康ネットワークから採用された138名の患者と110名の家族介護者にインタビューを行った.34の同質なフォーカスグループ(103名の患者と65名の介護者)と80のkey informant interview(質的研究において「核となる情報提供者」から問題に関する情報を収集するときに行う方法)実施した.録音された記録を文字起こしし,グラウンデッド・セオリーの手法を用いて分析し,複数のテーマとそれらの関係性を明らかにした.

<結果>
患者と介護者によりケアの移行/受け渡し(退院支援)について望まれるアウトカム3つが示された.
(1) 医療職に「Cared for:世話をされた」「Care about:かまってもらった」と感じること
(2) ヘルスケアシステムによる明解で責任ある説明をうけること
(3) ケアプランを実行する上で「準備ができて」「実行可能である」と感じること
5つのケアの移行/受け渡し(退院支援)や医療提供者の行動がこれらのアウトカム実現に関連していた.
(1) 共感的な言葉とジェスチャーを用いること
(2) 自宅(home)におけるセルフケアを支援するために患者のニーズを先読みして手を打つこと
(3) 退院計画を協同で建てること
(4) 実行可能な情報を提供すること
(5) 最小限の受け渡しにより切れ目のないケアを提供すること

<結論>
連続するケアを通じた明解な説明責任,ケアの継続性,ケアの態度が,患者と介護者にとって重要なアウトカムであった.これらのアウトカムが達成されたとき,ケアは素晴らしい,とか信頼に足ると受け止められる.一方,ケアの移行/受け渡し(退院支援)が業務的で安全でないと経験され,患者や家族にヘルスケアシステムから見放されたと感じさせていることも示された.

【開催日】2018年10月17日(水)

マルチモビディティ診療モデルの試作「アリアドネ プリンシパル」

-文献名-
Christiane Muth. The Ariadne principles: how to handle multimorbidity in primary care consultations.
BMC Medicine 2014, 12:223

マルチモビディティは主にプライマリケア診療で扱う健康問題である。包括性、患者中心のアプローチ、患者との長期的な関係性、そしてケアの継続性と協調性に対する責任の結果として家庭医はマルチモビディティの患者を特に上手く管理出来る。しかし疾患志向のガイドラインは複数疾患の相互作用を捉えていないため、ガイドラインを遵守しその治療の負担から生じる衝突はしばしば物議をかもす。マルチモビティティにおける意思決定の道標を提供する為に、指針原則を作成しギリシャ神話の登場人物アリアドネ(迷宮から脱出する道標を担った王女)を引用しアリアドネ プリンシパルと名付けた。この目的のために、2012年10月にドイツ・フランクフルトで国際シンポジウムを2日間にわたって開催した。発表され、議論されている現状の知識背景に照らして、北米、ヨーロッパ、オーストラリアの19人の専門家がパネルディスカッションや小グループ会議でプライマリケアのマルチモビディティ管理における懸案事項を確認し、公式および非公式のコンセンサス方法で合意した。プリンシパルは、多段階フィードバックプロセスが用いられ、事例を用いて議論された。

医師と患者による現実的な治療目標の共有は、アリアドネの原則の中核であり、以下の3つから成り立つ。(図1参考)
(1) 患者の状態、治療、性格、背景の相互作用評価:
• すべての現在の状態のプロブレムリストを保持し、その重症度と影響を評価し、投薬を見直す。
• 依存や睡眠障害、食欲不振、脱水などの非特異的な兆候や症状を含む認知機能の問題、不安、苦痛および抑うつの徴候を積極的にモニタリングする。
• 社会的状況、経済的制約、生活環境および社会的支援、健康リテラシー、機能自律性、対処方法を引き出し、考慮する。
• 患者のケアに関わる他の医師やセラピストをリスト化し、全体の治療負担を評価する。

(2)患者の嗜好を考慮に入れた健康問題の優先順位付け
• 生存、自立、痛み、緩和ケアの必要性を含む症状緩和などのgeneric health outcomeに対する嗜好を引き出し、患者の嗜好と同じでない可能性があるため、自身の(暗黙の)嗜好を自覚する。
• 該当する場合は、非公式の介護者や家族の好みを考慮する。
• 患者(および必要に応じて患者の介護者)との現実的な治療目標に同意する。

(3)診断、治療、予防におけるケアの最善の選択肢を実現するための個別化されたマネジメント
介入(診断、治療、予防)よって期待される利益が患者個別の不利益や害を上回るかどうかが重要である
• 個々の患者のリスクレベルと好みを考慮して、治療(および予防)の期待される利益が起こりうる不利益や有害性を上回るかどうかを吟味する。
• 患者(および必要に応じて介護者)の漸増および複合治療の負担を評価する。
• 患者のニーズと能力に応じて自己管理を検討する。
• 副作用の徴候や適切な管理に関する推奨などのセーフティネットの指示を提供する。
• 目標到達度を評価し、相互作用を再評価するためにフォローアップ受診のスケジュールを患者と同意する。
• 患者に関わる他の医療従事者や非公式介護者に相談する。 理想的には、関係するすべてのヘルスケア提供者は治療決定についての情報を受けたり、情報にアクセスすることができる。

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【開催日】2018年5月23日(水)

高齢者の肥満への介入

-文献名-
Deniss T.Villareal.et.al Aerobic or Resistance Exercise or Both in Dieting Obese Older Adult,N Engl J Med 2017;376:1943-55.

-要約-
【背景】
高齢者の肥満は虚弱(フレイル)の原因となるが,減量は加齢に伴う筋量・骨量減少を加速させ,その結果サルコペニアや骨減少が生じる可能性がある.
【方法】
肥満高齢者 160 例を対象とした臨床試験で,いくつかの運動方法について,フレイルからの回復と,減量による筋量・骨量減少の予防における有効性を評価した.対象者を,体重管理プログラム(食事療法)に,有酸素運動,レジスタンス運動,有酸素運動とレジスタンス運動の組合せのいずれかのプログラムを併用する群と,対照群(体重管理プログラムも運動プログラムもなし)に無作為に割り付けた.主要評価項目は,身体機能テストの点数(0~36 点で,高いほど身体機能が良好であることを示す)のベースラインから 6 ヵ月後の変化とした.副次的評価項目は,その他のフレイルの指標,身体組成,骨密度,身体機能の変化などとした.
【結果】
141 例が試験を完了した.身体機能テストの点数は,組合せ群(27.9 点→33.4 点 [21%上昇])で,有酸素群(29.3 点→33.2 点 [14%上昇])とレジスタンス群(28.8 点→32.7 点 [14%上昇])よりも大きく上昇し(それぞれ Bonferroni 補正後の P=0.01,0.02),いずれの運動群も,対照群と比較して大きく上昇した(いずれの群間比較も P<0.001).最大酸素消費量は,組合せ群(17.2 mL/kg/分→20.3 mL/kg/分 [17%上昇])と有酸素群(17.6 mL/kg/分→20.9 mL/kg/分 [18%上昇])で,レジスタンス群(17.0 mL/kg/分→18.3 mL/kg/分 [8%上昇])よりも大きく上昇した(いずれの比較も P<0.001).筋力は,組合せ群(272 kg→320 kg [18%上昇])とレジスタンス群(288 kg→337 kg [19%上昇])で,有酸素群(265 kg→270 kg [4%上昇])よりも大きく上昇した(いずれの比較も P<0.001).体重は,いずれの運動群でも 9%減少したが,対照群では有意な変化はみられなかった.除脂肪体重の減少は,組合せ群(56.5 kg→54.8 kg [3%低下])とレジスタンス群(58.1 kg→57.1 kg [2%低下])で,有酸素群(55.0 kg→52.3 kg [5%低下])よりも小さく,股関節の骨密度の低下も,組合せ群(1.010 g/cm2→0.996 g/cm2 [1%低下])とレジスタンス群(1.047 g/cm2→1.041 g/cm2 [0.5%低下])で,有酸素群(1.018 g/cm2→0.991 g/cm2 [3%低下])よりも小さかった(いずれの比較も P<0.05).運動関連の有害事象には,筋骨格損傷などがあった.
【結論】
検討した運動法のなかでは,食事療法による減量に有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせる方法が,肥満高齢者の機能状態の改善にもっとも有効であった.(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.LITOE 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01065636)
【限界】
・研究の参加者はライフスタイルプログラムに参加出来る身体能力を有する参加者を選んだため、肥満高齢者全般への適応は不十分
・性別の差異を分析するには十分なサイズではなかった
・参加者の大部分は女性、白人、教育を受けている方であったため一般化の限界がある
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【開催日】2018年3月7日(水)

高齢者の大腿骨頸部骨折:手術すべきか?

―文献名―
van de Ree CLP, et al. Hip Fractures in Elderly People: Surgery or No Surgery? A Systematic Review and Meta-Analysis. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2017 Sep;8(3):173-180.

―要約―
【Introduction】
 大腿骨頸部骨折の患者数は増加しており、同時に高度の合併症も有している。大多数は手術にて治療されるが、周術期死亡のリスクが容認できないほど高く手術が不適切な患者さんの割合も著しく増加している。脆弱でハイリスクな高齢者については、どのような治療が可能か評価するために、治療オプションを考える前に患者さんの骨折前にQOLや将来的な予測について検討すべき。
 ・既知の事実:手術実施は早期のほうがoutcomeがよいと示されている
 ・未知の内容:手術の有無によるoutcome。倫理的な理由でRCTは乏しい。2008年のcochrane systematic reviewでは手術の有無を
        比較しているが、保存的療法(ベッド上安静+牽引)よりも手術療法のほうがよいというには証拠不十分と報告している

【Objective】
 レビューの目的は、65歳以上の大腿骨頸部骨折患者において、手術の有無による死亡率・health-related QOL・機能的outcome・費用の相違を概観すること。

【Method】
 EMBASE, OvidSP, PubMed, Cochrane Central, and Web of Scienceを検索し、手術の有無を比較した観察研究とRCTを選択。研究手法の質はthe Methodological Index for Nonrandomized Studies (MINORS) または Furlan checklistで評価した。

【Results】
 計1189名の患者がエントリーされた7つの観察研究のうち、242名(20.3%)が保存的に治療された。研究手法の質は中等度(mean: 14.7, standard deviation [SD]: 1.5)であり、30日後と1年後の死亡率は保存的療法の群が高かった(odds ratio [OR]: 3.95, 95% confidence interval [CI]: 1.43-10.96; OR: 3.84, 95% CI: 1.57-9.41)。QOLや機能的outcomeや費用面で比較した研究は存在しなかった。

【Conclusion】
 このsystematic reviewとmeta-analysisでは、少数の患者を手術の有無で比較した少数の研究のみで実施した。30日後と1年後の死亡率の有意な高さが明らかとなった。QOLや費用面でのデータは見いだせなかった。高度な合併症や限られた予後の高齢者に関して有効な判断を行いと保存的療法を開始するためには、さらなる探索が必要である。
 <限界>
  ①潜在的な交絡因子(依存症・性別・年齢・精神状態・脆弱度・介入のタイプ)を調整出来ていない
  ②骨折の安定性を識別できていない
  ③この研究はすべての患者に手術可能でない国には一般化が出来ない

<Flow diagram; selection of articles>
安藤先生図1

<Thirty-day mortality>
安藤先生図2

<One-year mortality>
安藤先生図3

【開催日】
 2017年9月6日(水)

嚥下機能低下ととろみ剤

-文献名-
ROBBINS, JoAnne, et al. Comparison of 2 Interventions for Liquid Aspiration on Pneumonia Incidence A Randomized Trial. Annals of internal medicine, 2008; 148(7): 509-518.

-この文献を選んだ背景-
・60歳代、80歳代の嚥下機能が低下した認知症患者に対しとろみ剤を使用する症例が最近あった。その内一例はムセが続いたためさらにとろみを
 足すか相談した。
・また脳梗塞後遺症で嚥下機能が低下した認知症のない80歳男性を嚥下造影検査(VF)など精査目的に紹介し、とろみ剤使用を指導されたが、
 本人が好まずとろみ剤は使用していない。とろみ剤は美味しくなくなると聞くし、仕方がないかな〜と感じた。その後そもそもどれほどの
 効果があるのか気になった。
・PubMedで「Thickened Fluid」「dysphagia」「aspiration」を組み合わせ検索するなかで見つけ読んでみた。

-要約-
【Introduction】
 誤嚥性肺炎は嚥下障害のある虚弱高齢者において良くあることで、多くの人が嚥下障害による栄養失調・脱水症・肺炎・QOL低下のためケアを必要としている。これらの患者の誤嚥防止のための介入は日常的に用いられているが、その介入の有効性についてはほとんど知られていない。

【Method】
 ランダム化並行群間比較試験。期間は1998年6月9日から2005年9月19日までのうちの3ヶ月間。
 47の急性期病院および79の亜急性期住居施設(subacute residential facilities)の515人で、スプーン3mlのサラサラな液体を嚥下するとき、あるいは、嚥下造影検査時や嚥下時に 特に介入なしに誤嚥をみとめられた際に研究へ登録された。誤嚥は、声帯下に観察されたバリウムとして定義された。顎を引いた姿勢でサラサラ液体、ニュートラルな頭位でネクター様の液体、ニュートラルな頭位でハチミツ様の液体の3群にラムダムに割り当つけられた。
貴島先生図1

Inclusion criteria:50歳〜95歳の認知症あるいはパーキンソン病患者。
Exclusion criteria:過去一年の喫煙、現在のアルコール乱用、頭頸部癌の既往、20年以上のインスリン依存性の糖尿病、経鼻胃管、
         進行性や感染性の神経疾患、6週以内の肺炎。

参加者は、誤嚥が疑われた場合、嚥下造影検査を受けた。

一時アウトカム:明らかな肺炎(胸部レントゲンによる診断、あるいは38度以上の持続する発熱、聴診所見、白血球を認める痰のグラム染色、
        呼吸器病原菌を認める痰培養の4つのうち3つ以上を満たすもの)
        疑わしい肺炎とは、上記の胸部レントゲンでの診断以外の4つのうち2つ満たすものと定義。
二次アウトカム:明らかな肺炎あるいは死亡

【Result】
 対象者:515人がランダム割り付けされ顎を引いた姿勢でサラサラ液体259名、とろみ液体は256名でその内訳はネクター様の液体133名、
     ハチミツ様の液体123名です。

貴島先生図2

貴島先生図3
Figure 2 顎を引いた姿勢ととろみ液体による肺炎の累積罹患率

貴島先生図4

一次アウトカム:カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎の累積罹患率は、
 顎を引く姿勢0.098(24事例)、とろみ液体0.116(28事例)(hazard ratio [HR], 0.84 [95% CI, 0.49 to 1.45]; P = 0.53)
とろみ液体のネクターとハチミツ様とでも比較しているが、
 ネクター様液体0.084(10事例)、ハチミツ様液体0.150(18事例)( [HR], 0.50 [95% CI, 0.23 to 1.09]; P = 0.083)

二次アウトカム:カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎あるいは死亡の累積罹患率は、
 顎を引く姿勢0.180(46事例)、とろみ液体0.183(46事例)(HR, 0.98 [95%CI, 0.65 to 1.48]; P = 0.94)
とろみ液体のネクターとハチミツ様とでも比較しているが、カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎あるいは死亡の累積罹患率は、
 ネクター様液体0.163(21事例)、ハチミツ様液体0.205(25事例)(HR, 0.76 [CI, 0.43 to 1.36]; P = 0.36)

貴島先生図5

貴島先生図6

貴島先生図7

Table2は 顎引き姿勢、とろみ(ネクター様・ハチミツ様)液体のそれぞれの群での有害事象、入院、死亡をまとめた表です。
少なくとも1回の脱水、尿路感染、発熱を発症した患者は、とろみ群で顎を引く群よりも多く9%対5%([CI, 0.3 to 9 %]; P = 0.055))であった。

【Discussion】
・老人ホームの脳卒中・認知症・パーキンソン病における罹患率は20〜40%ですが、登録患者全員の3ヶ月肺炎の累積罹患率は11%と低かった。
 無治療群のサンプルがないため、介入の結果が表しているこの低い比率か他のケアがもたらす変化かどうか判断できない。
・肺炎の罹患率ですが、ネクター様液体0.084(10事例)、ハチミツ様液体0.150(18事例)( [HR], 0.50 [95% CI, 0.23 to 1.09]; P = 0.083)
 ハチミツ様液体の患者の肺炎時入院期間の中央値がより長く、ネクター様液体はハチミツ様液体より気道からの除去が容易であるかもしれない。
 液体が粘性であればあるほどより安全に摂取するという前提はベッドサイドや嚥下造影検査に基づいている。(目の前で誤嚥を生じていないだけ。
 粘度が高ければ、目の前で誤嚥しないよね。しかし、ゆっくり誤嚥しているよね。ってことを言っている?)
・嚥下障害があっても、サラサラな液体で味や食感を楽しめる顎を引いた姿勢は選択肢になる。
 あるいは嚥下プロセスのトレーニングや監視を要さないネクター様の液体も合理的な選択である。

【開催日】
 2017年2月1日(水)