学部医学教育における臨床推論カリキュラムの内容に関するコンセンサス・ステートメント

―文献名―
Cooper, Nicola, et al. "Consensus statement on the content of clinical reasoning curricula in undergraduate medical education." Medical Teacher 43.2 (2021): 152-159.

―要約―
導入:安全な患者ケアのためには、効果的な臨床推論が必要である。卒前・卒後の医学生は、効果的な臨床推論に必要な知識、スキル、行動を、経験や現場での見習いを通して暗黙のうちに学ぶことがほとんどである。医学部では、最新のエビデンスに基づいた体系的なアプローチを採用し、各学年のコースに明示的に統合された形で臨床推論を教えるべきだという合意が作られつつある。しかし、臨床推論に関する文献は「断片的」であり、医学教育者がアクセスすることは困難である。この論文では、すべての医学部に役立つ実践的な提言を行うことを目指す。

・臨床推論とは?
本論文では以下の定義を採用している。「臨床医が患者を診断・治療するために、データを観察・収集・解釈する技術、プロセス、または結果。臨床推論には、意識的および無意識的な認知的活動が必要であり、患者固有の状況や好み、診療環境の特徴などの文脈的要因と相互作用する。」
・臨床推論教育の現状:教育に関連した科学におけるエビデンスを踏まえた教育的アプローチを用いて、診断プロセスについての教育を扱うカリキュラム(例:診断検査の正確な解釈、問題の表象の形成(診断の正確さと相関する)、決断の共有)の必要性が指摘されつつあるが、現状ではカリキュラムの中では診断推論は必ずしも明示して扱われてはいない。また、教えるべき内容および教育に適した方略の両方を網羅したカリキュラムについての報告もほとんどない。
何を教えるべきか:clinical reasoningの5つの領域:Table1参照。
1病歴聴取と身体診察:
UKではコミュニケーションのカリキュラムの内容についてのconsensus statementがある(Noble et al. 2018)
それに加えて、以下の内容が含まれる:患者本人以外の情報源から病歴を取る技術の重要性、仮説に基づいた合目的的な情報収集、仮説の生成あるいは否定を目的にした身体診察、両者から得られた情報の統合と疫学に基づいた疾患の可能性を踏まえた見積もり、古典的な疾患像および多くの患者がそういった像を呈しないことの理解
2診断的検査の選択と解釈:
概念の理解:事前確率、感度、特異度、検査後確率、疾患の有病割合、尤度比
疾患以外で検査結果に影響する因子、高頻度で用いる検査の特徴
多くの検査結果は、臨床所見に合わせて解釈を要し、臨床推論中にその知識の適用を要する
個々の検査が、どんな問いに答えることができるかの知識、エビデンスに基づいたガイドラインとdecision aidsの利用
3問題同定とマネジメント:
正確に問題を表現し、それに基づいて優先すべき鑑別診断を構築する能力
Semantic qualifierと正確な医学用語を用いた問題のencapsulatationが診断を考慮する前に行う能力
診断の不確実性の対応する能力
4適切なマネジメント計画の作成
患者の好み、併存疾患、リソース、コスト、ローカルの規則など、影響する因子を考慮する能力
メタ認知と批判的思考を用いて自らのパフォーマンスを改善する能力
5決断の共有
他者の価値観を同定し理解するための効果的なコミュニケーション
学習者は、現実世界では、知識とは自分の頭の中にあるものではなく、環境、つまり人々、コンピューター、書籍、他のツールや道具を通して広がっているものであると理解する必要がある(他にも記述があるが今回は省略)

どうやって教えるべきか:Table2、Literature reviewの詳細および結果のoverviewはsupplement2参照
同定された研究の概略:
意思決定の原則の教育、認知バイアスからのエラーを減らそうとする教育はいずれも診断推論の能力を改善しなかった。
一方で、イルネススクリプトの教育、思考過程を声に出したり、ブレインストーミングする方略、構造化した省察、ケースに基づいた実践+フィードバック、については改善が見られた。つまり、思考の仕方自体の教育(dual process theoryやバイアスを避けるように教える教育)は、臨床推論の能力が改善するというエビデンスには乏しく、思考能力や思考の方法を教えるアプローチは効果がない。しかし、具体的な知識や理解を構築する方略は効果があることがわかっている。

個別の戦略について:
・自己説明・自己精緻化(Self explanation/elaboration)
教育者が説明するよりは、学習者が説明するよう促す方が、学習者が活性化する認知プロセスが異なり、学習者が新たな知識と自分の事前知識との結び付けを強化するため、効果がある
メカニズムの理解が診断的能力を改善するため、単なるrecall=思い出しではなく、理解を促進する方法を使うべき

・Structured reflection(※)を用いた方略
学習者のレベルより複雑な事例を用いたときに最も効果が出る
※例として、事例を提示した後に、学習者に最も考えられる診断を挙げさせ、その鑑別診断について幾つかの質問に答える形を取る(具体例を知りたい方は別資料文献1参照:Mamede et al. – 2012)

・症例を用いた練習+修正のフィードバック
練習だけでは不十分であり、その練習に直接フィードバックがあることが重要。ただしフィードバックが機能するには、議論の中で間違えることが後押しされ、不確実性があることが認知されるような雰囲気作りが重要
具体的な知識があることよりも、その知識の構成の方が重要であるため、illness scripts (Schmidt et al. 1990)が学習者の中で作られるよう促すことが(知識の記憶を促すより)重要。
なお、初学者が相手の場合は、症例の情報を少しずつ順番に出すよりは、一度に全て出して学習させる方が有用である (Schmidt and Mamede 2015).

・臨床問題に特異的な概念について、知識の構成を促す方略
臨床推論について高いパフォーマンスを見せる者は、低い者と比べて、知識の量よりは、その構成の仕方が質的に異なる (Coderre et al. 2009)。よくある臨床問題に特異的な知識をお互いに関連づける方略(概念図やdecision treeを、関連する知識とセットで書かせる)が適切である

・Retrieval practiceを促す方略
努力して情報を思い出させるような戦略が診断能力を改善するというエビデンスがある。
具体例:structured reflection (Norman et al. 2017; Prakash et al. 2019:知りたい方は別資料文献1参照:Mamede et al. – 2012), low stakes quizzing (Green et al. 2018; Larsen et al. 2009), spaced practice (Kerfoot et al. 2007:時間をあけて思い出してもらう・考えてもらうこと) and contrastive learning (Ark et al. 2007) (類似した事例を比較対称して学ぶやり方)

相手の学習段階に応じて教育方略を変える重要性
教育方略における情報提示は、複雑度と現実の再現度が低い事例を用いて、綿密に手順のサポートを行う方略から、複雑さと現実の再現度が高い事例を用いて、サポートを最小限にして行う方略まで段階に応じて調整する必要がある。最終的には、特に手を加えていない(=現実のままの)事例に対応させて、構造化したでブリーフィングを行う形が良い

【開催日】
2021年11月10日(水)

プライマリ・ケアにおける 「レガシー処方」 の現状

―文献名―
Dee Mangin, Jennifer Lawson, et al. Legacy Drug-Prescribing Patterns in Primary Care. Ann Fam Med 2018;16:515-520.

―要約―
【目的】
ポリファーマシーは、プライマリ・ケアにとって重要な臨床課題である。3ヵ月以上処方する可能性があるがしかし無期限で処方すべきではない薬剤が適切に中止されないと、ポリファーマシーの原因となるため,著者らはこのような処方をレガシー処方と名付けた。レガシー処方となり得る薬剤としては、抗うつ剤、両剤併用療法、プロトンポンプ阻害剤(PPI)などが挙げられる。本研究では,これらの薬剤群におけるレガシー処方の割合を評価した。

【方法】
カナダ・オンタリオ州ハミルトンにあるMcMaster University Sentinel and Information Collaboration(MUSIC)Primary Care Practice Based Research Networkよりプロスペクティブに収集したデータを用いて,集団ベースの住民を対象としたレトロスペクティブコホート研究を行った。2010~2016年にMUSICデータセットに登録されたすべての成人患者(18歳以上)を対象とした(N=50,813)。抗うつ薬(15か月以上の処方)、ビスフォスフォネート(5.5年以上)、PPI(15か月以上)のレガシー処方の割合を算出した。これらの薬剤群それぞれの処方期間の設定はエビデンスに基づき設定した.

【結果】
調査期間中にレガシー処方を受けていたことのある患者の割合は,抗うつ薬で46%(8,119名中3,766名),ビスフォスフォネートで14%(1,592名中228名),PPIで45%(6,414名中2,885名)であった(Table1)。これらの患者の多くは調査時点においてもレガシー処方を継続していた(抗うつ薬61%,PPI65%,ビスフォスフォネート77%)。レガシー処方全体の平均処方期間は、非レガシー処方に比べて有意に長かった(P<.001)。抗うつ薬とPPIが同時に処方されているレガシー処方が多く,処方カスケードの可能性を示唆していた(Table2)。 【結論】
レガシー処方という現象の存在が明らかになった。これらのデータは、レガシー処方が不必要なポリファーマシーの原因となる可能性を示しており、プライマリ・ケアにおけるシステムレベルでの介入の機会を提供し、患者に大きなな利益をもたらす可能性がある。

【開催日】
2021年10月13日(水)

高齢者の社会的孤立と患者体験

―文献名―
Takuya Aoki, Yosuke Yamamoto, et al. Social Isolation and Patient Experience in Older Adults. Ann Fam Med.2018;16(5):393-398.

―要約―
【背景】
社会的孤立とは、個人が社会的な帰属意識を持たず、他者との関わりを持たず、社会的な接点が少なく、質の高い人間関係を築けていない状態と定義されている。社会的孤立は,特に高齢者において大きな健康問題として認識されている。また社会的孤立は、全死亡、冠状動脈性心臓病や脳卒中による死亡、再入院、転倒、認知機能の低下、自殺による死亡のリスクを高めることがわかっている。一方で、患者経験は、治療へのアドヒアランスや医療資源の使用など患者の行動を通じて健康アウトカムに影響を与えることが知られており、これまでの研究で患者の経験には社会経済的な差異があることが報告されている。

【目的】
本研究では,高齢者のプライマリ・ケア患者における社会的孤立と患者経験との関連を検討した。

【方法】
2015年10月から2016年2月にかけて日本のプライマリ・ケア診療所ネットワーク(28診療所)を対象とした横断的研究である。社会的孤立については,Lubben Social Network Scale(略式)を用いて評価し,スコアが12点未満の患者を社会的に孤立していると分類した。またプライマリ・ケアに関する患者の経験については,プライマリ・ケア評価ツール(JPCAT)日本語版を用いて評価した。JPCATは,近接性,継続性,協調性,包括性(受けられるサービス),包括性(実際に受けたことがあるサービス),地域志向の6つの領域から構成されている。線形混合効果モデルを用いて,診療所内でのクラスタリングと個々の共変量を調整した。

【結果】
1939名の成人患者の中で調査に回答した644名のうち、65歳以上のプライマリ・ケアを受けている高齢患者465名のデータを解析した。表1は会的に孤立している参加者とそうでない参加者の特徴を比較している。研究参加者の特徴としては、女性(54.4%)、70歳以上(71.8%)、大学以下の学歴(79.3%)、複数の疾患を持つ患者(74.8%)が大半を占めた。また、社会的に孤立している患者の割合は27.3%であった。JPCAT100点満点中、最も得点の高かった領域は「継続性」で81.2点、最も得点の低かった領域は「包括性(実際に受けたことがあるサービス)」で45.8点だった。また社会的に孤立している参加者は、JPCATスコアとSF-36のMental Health Indexスコアが低いことを示唆する傾向が見られた。表2は社会的孤立と,プライマリ・ケアにおける患者体験の指標であるJPCATスコアとの関連を調べた線形混合効果モデルの結果である。交絡因子と診療所内のクラスタリングを調整した結果,社会的孤立はJPCATの総合スコアと負の関係にあった(平均差=-3.67;95%CI,-7.00~-0.38)。JPCATのドメインスコアのうち、社会的孤立は、継続性、包括性(実際に受けたことがあるサービス)、地域志向性のスコアと有意に関連していた。特に「包括性(実際に受けたことがあるサービス)」は社会的孤立と最も強い関連を示した(平均差=-7.58;95%CI、-14.28~-0.88)。

【研究の限界】
患者体験や社会的ネットワークの質が低い患者は、本研究の調査に回答する可能性が低かったと考えられ、もしそうであれば本研究における社会的孤立と患者体験との関連性が過小評価される原因となる可能性がある。

【結論】
社会的孤立は,高齢者のプライマリ・ケア患者のネガティブな患者体験と関連していた。プライマリ・ケア提供者の患者のソーシャル・ネットワークに関する意識を高め,社会的に孤立した高齢患者に対して,プライマリ・ケアの経験,特に継続性,包括性,地域志向に関する経験を改善することを目的とした介入を行うことが望まれる。

【開催日】
2021年10月13日(水)

Inappropriate treatments for nursing home patients at the end of life / May 2021

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
Honinx E, Van den Block L, Piers R, et al. Potentially Inappropriate Treatments at the End of Life in Nursing Home Residents: Findings From the PACE Cross-Sectional Study in Six European Countries.J Pain Symptom Manage. 2021;61(4):732-742.e1. doi:10.1016/j.jpainsymman.2020.09.001

―要約―
Introduction
ヨーロッパでは、65歳以上の高齢者の最大38%が老人ホームで亡くなっている。ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランドの老人ホームでPACE(Palliative Care for Older、高齢者のための緩和ケア)の横断的研究を行った。

目的
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合を推定し、国による違いを分析すること。

Method
研究デザインとサンプリング
老人ホームの死亡した入居者を対象とした横断的な調査を、2015年に6つのヨーロッパの国(ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランド)で、比例層化無作為抽出法を用いて実施した。各国の老人ホームは、地域(州やその他の大きな地域)、種類、ベッド数(国の中央値以上/以下)で層別され、国全体をカバーするように無作為にサンプリングされました。

データ収集
過去3カ月間に死亡した入居者の概要と、それぞれの主要な回答者(スタッフ、すなわち、ケアに最も関与している看護師/ケアアシスタント、管理者/運営者、GP)のリストを各施設が提供した。これらの人々には、匿名コードと、完全な匿名性と守秘性を保証する添付文書が付いた紙のアンケート用紙が送られ、アンケート用紙はエクセルファイルを使ってモニターする研究者に直接返却された。自分が知っている限りで、これらの治療が人生の最後の週に行われたかどうかを尋ねられました。

測定方法
本研究で、不適切な治療とは、期待される健康上の利益(寿命の延長や痛みの軽減など)よりも、負の影響(死亡率や症状の重さなど)が大きい」治療や投薬を指す。
人工経腸栄養(経腸栄養、経管栄養TPN)、輸液、蘇生、人工呼吸、輸血、化学療法・放射線療法、透析、手術、抗生物質、スタチン、抗糖尿病薬、新規経口抗凝固薬を対象とした。

Results
調査対象者の特徴
死亡時の平均年齢は、ポーランドで81歳、ベルギーとイギリスで87歳となっていた(表1)。入院者はほとんどが女性で、ポーランドの63.5%からイングランドの75%までの範囲であった。入所者は主に老人ホームで死亡した(ポーランドでは80%、オランダでは89.3%)。認知症は、フィンランドで最も多く(82.5%)、イングランドで最も少なかった(60.2%)。死亡時の疾患としては、悪性がん(42.9%)であったイングランドを除き、すべての国で重度の心血管疾患が最も多く報告されました(ベルギー34.7%~ポーランド55.7%)。機能的および認知的状態が最も悪かったのはポーランド(BANS-S平均スコア21.9)で、最も良かったのはイングランド(BANS-S平均スコア17.5)であった。

6カ国における、人生の最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合の違い
最後の1週間に少なくとも1つの不適切な治療を行った割合は、ベルギーの19.9%からポーランドの68.2%まで差があった(p<0.001)。人工的な栄養補給や水分補給は、ポーランドで最も多く(54.3%)、オランダでは最も少なかった(2.7%、p<0.001)。ポーランド(48.6%)とイタリア(24.5%)では輸液が最も多く使用されていた(p<0.001)。経腸栄養剤は主にポーランド(17%;p>0.001)で投与されていたのに対し、経管栄養はイタリア(21.5%;p>0.001)で多く使用されていました。すべての治療法のうち、抗生物質の使用が最も多く、ベルギーの11.3%からポーランドの45%まで、すべての国で使用されました(p<0.001)。
リスク因子調整の結果、これらの差は住民の特性によるものではなく、各国の適切なケアの違いを反映したものであると考えられた。

Discussion
ほとんどの治療法の存在割合は、国によって統計的に有意に異なっていた。

研究の強み
医療制度や緩和ケアの文化が異なる欧州6カ国の322の老人ホームの1,384人の入居者のデータを含めることができた。リスク調整を行うことで、本研究の結果が国ごとの存在割合の違いを反映しており、入居者の特性の違いに影響されていないことが確認されました。

研究の限界
①調査データから、特定の治療法が「不適切」な場合を推測することはできず、治療が行われた時点では、ある治療が不適切であるとは考えられなかったかもしれない。
②データは看護師個人から収集したため、リコールバイアスの可能性があります。
③治療の開始時期や臨床的な適応についての情報を収集していない。
④治療法によっては大量の欠損データ(最大で24%)があった。 → 不完全な症例と完全な症例の回帰帰納法による感度分析を行いました。その結果、主に同様の結果が得られ、欠損データの影響は小さいことがわかりました。
⑤入居者が病院で死亡した場合、老人ホームは人生最後の1週間の病院での治療に関する情報を持っていない可能性があり、これが過小評価につながる可能性があります。→ 病院で死亡した入居者は全体の15%に過ぎないことから、これによるバイアスの可能性は小さいと思われます。

臨床的意義
国による違いが大きいことから、文化的な違いを考慮して、介護施設のスタッフやGPが治療の意思決定や終末期の認識を行う際に役立つガイドラインを作成する必要がある。介護施設における事前のケアプランは、入居者、親族、介護者が将来のケアの目標や好みを話し合うのに役立つ可能性があるため、より大きな注意を払う必要がある。最後に、終末期のケアに関する会話や終末期のケアの身体的側面に関するスタッフのトレーニングが必要である。今回の結果は、政策立案者やその他の意思決定者が、老人ホームにおける終末期ケアの適切性を向上させるための公衆衛生政策や介入策を策定する際に利用することができ、また、国境を越えて優良事例を交換することができます。

Conclusion
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における不適切と思われる治療の存在割合は、抗生物質の使用が一般的であったことを除いて、ほとんどの調査対象国で低かった。イタリアとポーランドでは,すべての治療がより多く行われており,特に人工栄養・輸液と抗生物質の投与が多かった。これらの違いは、法律、ケア組織、文化、緩和ケアに関する介護施設スタッフの知識や技術など、国ごとの違いを反映している。

【開催日】
2021年10月6日(水)

Maintenance or Discontinuation of Antidepressants in Primary Care

―文献名―
Gemma Lewis, et al. Maintenance or Discontinuation of Antidepressants in Primary Care. The New England Journal of Medicine 2021; 385:1257-1267. (DOI: 10.1056/NEJMoa2106356)

―要約―
BACKGROUND
プライマリ・ケアの実践で治療されているうつ病の患者は,長期間抗うつ薬を服用する可能性がある.この設定で抗うつ薬療法を維持または中止した場合の影響に関するデータは限られている.

METHODS
英国内の150の一般診療所で治療を受けていた成人を対象としたランダム化二重盲検試験を実施した.すべての患者は,少なくとも2回のうつ病エピソードの病歴があるか,2年以上抗うつ薬を服用しており,抗うつ薬の中止を検討するのに十分な意思があった.シタロプラム,フルオキセチン,セルトラリン,またはミルタザピンを投与された患者は,現在の抗うつ療法を維持する維持群,または対応するプラセボを使用してそのような療法を漸減および中止する中止群に,1:1の比率でランダムに割り当てられた.一次アウトカムは,イベントまでの時間分析で評価された52週間の試験期間中におけるうつ病の再発だった.二次アウトカムは,抑うつおよび不安症状,身体化症状および離脱症状,生活の質,抗うつ薬またはプラセボ中止からの時間,全般的な気分尺度で評価した.

RESULTS
合計1466人の患者がスクリーニングを受けた.これらの患者のうち,478人が試験に登録された(維持群238人,中止群240人).患者の平均年齢は54歳で,73%は女性だった.試験課題のアドヒアランスは,維持群で70%,中止群で52%だった.52週間までに再発は維持群の928人中92人(39%),中止群の240人中135人(56%)で発生した(ハザード比2.06; 95%信頼区間1.56〜2.70; P <0.001 ).二次アウトカムは,一般的に一次アウトカムと同じ方向だった.中止群の患者は,維持群の患者よりもうつ病,不安,離脱の症状が多かった.

CONCLUSION
抗うつ薬治療を中止するのに十分な意思があったプライマリ・ケアの患者の中で,投薬を中止するように割り当てられた患者は,現在の治療を維持するように割り当てられた患者よりも52週間までにうつ病の再発のリスクが高かった.

DISCUSSION
本試験で抗うつ薬の服用を中止するように割り当てられたグループの患者は,52週間のフォローアップを通して薬を服用し続けるように割り当てられた患者よりもうつ病の再発の頻度が高かった.SF-12の身体的健康要素とトロントの副作用スケールのスコアを除いて,二次アウトカムは一般的に一次アウトカムと同じ方向だった.試験の終わりまでに,中止群の患者の39%が臨床医によって処方された抗うつ薬の服用に戻っていた.これは,52週における最後のフォローアップで二次アウトカムの群間差の証拠がなかった理由を説明している可能性がある.
ミルタザピン(ノルアドレナリン作動性および特定のセロトニン作動性抗うつ薬)とともに,同様の薬理学的プロファイルおよび同様の活性メカニズムを有する3つのSSRIのみを調査したため,他のクラスの抗うつ薬に調査結果を一般化することはできない.本試験のもう1つの限界は,エスシタロプラムを服用している患者と,英国の維持療法の通常の用量とは異なる用量の試験薬を服用している患者を除外したことが挙げられる. さらに試験に採用された患者のごく一部のみが最終的に参加し,これが試験サンプルにバイアスをもたらした可能性がある.重要な制限は,今回の調査結果は,投薬を中止する準備ができていると感じた患者にのみ関係するということである.うつ病の再発を決定する方法は,一部には過去12週間にわたって患者に症状を遡及的に評価させる必要があるため,試験の目的のために従来のデータから採用された.本試験の集団は,民族の多様性に欠けており,すべての患者が英国の医療制度で治療されていたため,白人以外の患者や他の医療制度に結果を一般化することはできない.
抗うつ薬を何年も常用している患者を募集し,うつ病の病歴とその治療法を思い出してもらった.想起バイアスが本試験の結果の妥当性に影響を与える可能性は低いが,患者が提供した情報の正確さに影響を与える可能性がある.また,当時,抗うつ薬を処方するための当初の臨床的決定に関する詳細な情報や診断情報もなかった.
うつ病の治療を受け,抗うつ薬の投与を中止する意思のあるプライマリ・ケアの患者では,52週間の期間中,うつ病の再発リスクは,維持群の患者よりも中止群の患者の方が高かった.生活の質のスコア,うつ病,不安神経症,禁断症状は,抗うつ薬治療を中止した患者では一般的に悪化した.

【開催日】
2021年10月6日(水)

ワクチン接種におけるプライマリ・ケアの歴史的役割とCOVID-19予防接種プログラムにおける潜在的役割

―文献名―
Leah Palapar, et al. Primary Care Variation in Rates of Unplanned Hospitalizations, Functional Ability, and Quality of Life of Older People. Ann Fam Med. Jul-Aug 2021;19(4):318-331.

―要約―
【目的】
COVID-19のパンデミックの回復には、感染検査、免疫判定、ワクチン接種のための広範で協調的な取り組みが必要となる。いくつかのCOVID-19ワクチンが登場したことで、全国的にCOVID-19の予防接種を普及させ、提供することに懸念が生まれている。これまでの予防接種の実施パターンから、国民全員に予防接種を行うための包括的で持続可能な取り組みの重要な要素が見えてくるかもしれない。

【方法】
2017年のMedicare Part B Fee-For-Serviceデータと2013-2017年のMedical Expenditure Panel Surveyを用いて,予防接種の提供を提供者のタイプ別に列挙した。これらのサービスの提供は,サービス,医師,および訪問レベルで検討した。

【結果】
2017年のMedicare Part B Fee-For-Serviceでは,予防接種のサービスを提供しているのはプライマリ・ケア医が最も多く(46%),次いで集団予防接種者(45%),そしてナースプラクティショナー/フィジシャンアシスタント(NP/PA)(5%)の順であった(Table.1)。2013-2017年のMedical Expenditure Panel Surveyでは、プライマリ・ケア医が予防接種のために最も多くの診療を行っていた(54%)(Table.2)。

【結論】
2012年から2017年の間に、プライマリ・ケア医は、高齢者を含む米国の人々に予防接種を提供する上で重要な役割を果たしている。これらの知見は、米国における今後のCOVID-19の復興と予防接種の取り組みにおいて、プライマリ・ケアの診療がワクチンのカウンセリングと提供の重要な要素となる可能性を示している。

【考察】
歴史的に見て、プライマリ・ケアの診療所はワクチンの提供において重要な役割を果たしてきた。多くの患者がプライマリ・ケアの診療所でワクチン接種を受けているので、COVID-19の予防接種の普及と提供には、同じ診療所が重要な役割を果たすかもしれない。新しいワクチンは、他のワクチンに比べて、ワクチンに対する躊躇、誤った情報、拒否などに直面する可能性がある。プライマリケア医は、信頼できる医療情報源とみなされることが多い。プライマリ・ケア医は、実際にワクチンを提供することに加えて、ワクチンのカウンセリング、地域社会の信頼構築、COVID-19ワクチンに関する科学的知識の供給源として、さらに重要な役割を果たしていると考えられる。プライマリ・ケア医は、患者がCOVID-19検査や免疫判定の結果を解釈したり、ワクチンに関する質問に答えたりするための臨床指導を行うことができる。プライマリ・ケアは、予防接種のカウンセリングやワクチンの提供において歴史的に重要な役割を果たしてきたことから、公衆衛生機関や地域の医療機関と協力して、COVID-19の回復に向けた早急かつ持続的な保健活動を行うことが不可欠である。

【開催日】
2021年9月8日(水)

訪問看護と当日の救急外来受診の関連性に対する時間外プライマリ・ケアへのアクセスの影響

―文献名―
Aaron Jones, et al. Effect of Access to After-Hours Primary Care on the Association Between Home Nursing Visits and Same-Day Emergency Department Use. The Annals of Family Medicine. 2020; 18 (5): 406-412.

―要約―
Introduction
理論的には、時間外のプライマリ・ケア(※定義はMethod参照)へのアクセスを増やすことで、緊急性の低い患者が救急外来を受診することを抑制することができる。しかし、この仮説を検証した既存の文献では、時間外のプライマリ・ケアへのアクセスを増やすことが救急部受診者の減少に関連するという研究もあれば、差がないという研究もあり、相反する結果が出ている。
これまでの調査では、カナダ・オンタリオ州の在宅看護患者は、訪問看護を受けた日の午後5時以降に救急外来を受診するリスクが高いことがわかっている。オンタリオ州の訪問看護は、タスク中心、訪問中心のモデルで運営されており、看護師が事前に決められたタスクを超えて行動する柔軟性が制限され、包括的な診療が妨げられ、当日の救急外来受診のリスクが高まる原因となっていると考えられる。このような受診の場合、時間外のプライマリ・ケアへのアクセスを増やすことで、当日の救急外来受診のリスクを減らすことができる可能性がある。
我々は,この関連性が時間外のプライマリ・ケアへのアクセスの良さによって変化するかどうかを検討した.

Method
2014~2016年にカナダ・オンタリオ州の在宅介護患者(19歳以上)を対象に、集団ベースのケースクロスオーバー研究を行った。緩和的な在宅ケアを受けている患者は、専門的な看護ケアを受けているため、コホートから除外した。
午後5時以降の救急部受診をケース期間として選択し,同一患者内で,前週内のコントロール期間とマッチさせた。週末と休日は除外した。訪問看護の訪問と同日の救急部受診との関連を条件付きロジスティック回帰で推定した。時間外のプライマリ・ケアには、平日の午後5時以降に医師のオフィスまたは患者の自宅で行われたプライマリ・ケアが含まれ、午後5時以降の予定された診療時間内に行われたケアも含まれる。時間外のプライマリ・ケアへのアクセスは、患者レベルと診療所レベルで測定し、交互作用項のアプローチを用いて効果の修正を検証した。解析は、すべての救急外来受診者と、入院していない緊急性の低いサブセットに分けて行った。

Results
Table 1)
合計11,840人の患者が解析に参加した。

Figure 1)
過去1年以内に時間外プライマリ・ケアの利用歴のある患者は、時間外診療を受けていない患者と比較して、当日の時間外救急外来受診のリスク増加が小さかった(OR = 1.18; 95% CI, 1.06-1.30 vs OR = 1.31; 95% CI, 1.25-1.39)。修飾効果は、入院していない救急外来受診者でより強かった(OR = 1.11; 95% CI, 0.97-1.28 vs OR = 1.41; 95% CI, 1.31-1.51)。
なお、診療所レベルの時間外診療の提供状況を四分位に分類している。

Figure 2)
プライマリ・ケア医の診療形態、地域性、患者の身体機能、同居介護者の有無による潜在的な修飾効果を調整したもの。結果は同様だった。

Discussion
今回の結果は、時間外のプライマリ・ケアへのアクセスを拡大することが有益であることを示唆しているが、同時に多くの疑問も提起している。
診療所レベルでの時間外診療の提供を検討したところ、因果関係の典型である一貫した用量反応関係は観察されなかった。このように診療所レベルで一貫性がないのは、時間外のプライマリ・ケアが利用できるかどうかの好みや意識など、患者レベルの要因が重要であるためと考えられる。今後の研究では、診療所レベルでの時間外診療の提供状況が救急部の利用に及ぼす影響についてさらに検討する必要があると思われる。

研究の限界:
①どの救急外来患者がプライマリ・ケアでより適切に診察を受けることができるかを判断する正確な方法がない。
②請求ベースのデータを使用したため、時間外のプライマリ・ケアへのアクセスの測定は利用したかどうかの調査のみとなっている。
③今回の研究では訪問看護の後の救急外来受診という非常に特殊な問題を検討している。このことは調査結果を救急部の利用全体に一般化できないことを意味する。しかし、本研究で得られた知見は、新たな健康問題が特定される可能性のある、他のヘルスケア臨床医との面会後の救急外来受診に一般化されると考えるのが妥当だろう。

【開催日】
2021年9月8日(水)

Guideline on behavioral and psychological treatments for chronic insomnia in adults (April 2021)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
Edinger JD, Arnedt JT, Bertisch SM, Carney CE, Harrington JJ, Lichstein KL, Sateia MJ, Troxel WM, Zhou ES, Kazmi U, Heald JL, Martin JL. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine systematic review, meta-analysis, and GRADE assessment. J Clin Sleep Med. 2021 Feb 1;17(2):263-298.

―要約―
はじめに
成人の慢性不眠症の行動療法や心理療法を活用する臨床ガイドラインを裏付けるエビデンスを提供することが、このシステマテックレビューの目的である。

方法
米国睡眠医学学会は9人の睡眠医学と睡眠心理学の専門家による研究班を組織した。成人の慢性不眠症の治療のための行動療法、心理療法に関するRCTの同定のためシステマテックレビューが行われた。切実で重要なアウトカムにおける臨床的に有意な改善を生み出す治療法かどうか同定するため、統計解析が行われた。最終的には、治療法を推奨するエビデンスを評価するGrading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation process(GRADEアプローチ) が使われた。

結果
1244件の文献が検索され、124件が組み入れ基準に合い、89件が統計解析に耐えうるデータを提供した。認知行動療法、ブリーフセラピー、刺激管理法2)、睡眠制限療法3)、リラクゼーション訓練4)、睡眠衛生5)、バイオフィードバック6)、逆説志向、集中的睡眠再訓練、マインドフルネス、のエビデンスが示された。エビデンスの質、利点と害のバランス、患者の価値観と好み、資源利用への配慮に関する要約も提示した。

*2 刺激管理法 例)寝室は寝るだけ、起きたら部屋から出る、TVや本を寝室で見ない
*3 睡眠制限法 例)日誌等から平均睡眠時間から逆算して、就寝時間を遅くする
*4 リラクゼーション 例) 腹式呼吸、筋ストレッチ、自律訓練法
*5 睡眠衛生 例)食事、運動、嗜好品の適切指導、光、音、気温の環境調整、加齢と睡眠時間の説明
*6 バイオフィードバック 例)前頭筋の筋電図をモニタリングして、リラックス法をみにつける
*7 逆説志向
夜、眠ろうとして眠れない経験を多くの人がもっています。眠ろうと思えば思うほど、眠れなくなるのです。眠ろうとする自分に意識が向きすぎる「過剰な自己観察」のために余計に睡眠が遠のいていきます。そこでフランクルは、眠れない夜は眠ることを諦めるように勧めます。「今夜はちっとも眠りたくない、ひとつ今夜は体を休ませながら、あれやこれやを考えてみたい。この前の休暇のことや、つぎの休暇のことをなど」本来であれば避けたい眠れない状況を、ユーモアをもって自ら望むことによって逆に睡眠を求める過剰な意識が薄れて眠りが訪れるというのです。
参照:https://diamond.jp/articles/-/176280?page=3
*8 集中的睡眠再訓練 例)脳波が測定できる部屋で、寝ても3分以内に起こされる(30分1セットで5時間)

【開催日】
2021年9月1日(水)

宗教的な話題の特徴

―文献名―
McCord G, Gilchrist VJ, Grossman SD, et al. Discussing Spirituality With Patients: A Rational and Ethical Approach. The Annals of Family Medicine. 2004;2(4):356-361. doi:10.1370/afm.71

―要約―

Introduction
 医療におけるスピリチュアルな問いかけについては、議論の余地がある。患者のスピリチュアリティや宗教性は、罹患率や死亡率の低下、身体的・精神的健康の向上、より健康的なライフスタイル、必要な医療サービスの減少、対処能力の向上、幸福感の向上、ストレスの減少、病気の予防などと相関することが示されている。これらの研究の多くは批判されているが、ほとんどの医師はスピリチュアリティが患者の身体的・精神的幸福にプラスの影響を与えると考えている。患者は医師とのスピリチュアルな話し合いを望み、スピリチュアルな健康は身体的な健康と同様に重要であると考えているが、スピリチュアルな話し合いはほとんど行われていないと報告されている。外来患者を対象とした研究では、13%から73%の患者が、自分のスピリチュアルな信念や宗教的な信念を医師に知ってもらいたいと考えていることが分かっている。医師の問題点としては、確立された専門分野を離れて非医学的な課題を推進すること、スピリチュアリティに関するトレーニングの欠如、医師がパストラル・カウンセラーとして活動することの倫理性、危害を加える可能性、時間的制約、プライバシーの侵害、どの患者が話したいのかを判断することの難しさなどが挙げられる。本研究では、医師がスピリチュアルおよび宗教的信念の全体的な評価を患者中心に行えるようにするため、(1)幅広い臨床場面でのスピリチュアルな話し合いの受け入れ、(2)患者が自分の信念について医師に知ってほしいと思う理由、(3)患者がこの情報を使って医師にしてほしいこと、(4)スピリチュアルな話し合いを望む可能性の高い患者を予測するモデルについて調査した。

※パストラルケア=スピリチュアルケア+宗教的ケア(スピリチュアルケアを広義におこなっていて宗教的ケアを含む場合はほぼ同じ意味)

Method
 訓練を受けたリサーチアシスタントが、オハイオ州北東部にある4つの家庭医研修施設と1つの民間グループ診療所の待合室で、同意した患者と同伴の成人を対象に質問票を実施した。人口や地域の情報、本人と家族の一般的な健康状況、SF-12、医療に関するスピリチュアルな信念、宗教の状況、および医師がスピリチュアルな信念や宗教的信念について議論する際の適切な状況、理由、および期待に関する参加者の評価をアンケート調査で得た。
 可能な限り多くの人を対象とするため、本調査ではスピリチュアリティの定義は特に回答者に伝えなかった。スピリチュアリティに関するすべての質問は、”精神的または宗教的な信念 spiritual or religious beliefs”という言葉で表現された。Koenigによるとアメリカ人の多くがスピリチュアリティと宗教を区別していないと考えられる。

RESULT
 921名(患者798名、付添い人123名)がアンケートに答え、492名が拒否し、回答率は65%だった。回答者のベースラインはtable1に示す。SF-12の身体的要素のサマリースコア(平均値=47.0)および精神的要素のサマリースコア(平均値=48.0)は、回答者の健康状態が米国の一般人口の平均値(身体的50.1、精神的50.0)と比較して有意差はなかった。リサーチアシスタントは、参加を拒否した人の年齢を推定した。この推定によると、60歳以上の方の参加拒否率が高くなった
回答者の17%は自分のスピリチュアルな信念について質問されたくないと答え、63%は状況に応じて質問されたいと答え、20%は常に自分の信念について医師に知ってもらいたいと答えた。また、以前に医師から質問を受けたことがあると答えた人はわずか9%で、18%は質問されずに医師に伝えたと答えました。
 自分の信念について「いつも」もしくは「ときどき」医師に知ってもらいたいと思うと答えた回答者には、医療場面のリストを提示し、スピリチュアリティに関する会話が歓迎されるかどうかを尋ねた(table2)。スピリチュアルな話が最も歓迎される状況は、命にかかわる状態、重篤な病気、愛する人の死であった。歓迎されない場面としては、健康診断や検診の際の問診、軽い病気の受診などが挙げられた。
 信仰について「いつも」もしくは「ときどき」医師と話し合いたいと答えた人は、スピリチュアルな信念について医師に知ってもらいたい理由として、87%が自分の信仰が病気への対処法にどのような影響を与えているかを医師に理解してもらいたいと考えており、85%が自分を人としてよりよく理解してもらいたいと考えており、83%が自分の意思決定を医師に理解してもらいたいと考えていた(table3)。思いやりの提供、現実的な希望の奨励、病気になったときのケアの仕方のアドバイス、治療法の変更、スピリチュアル・カウンセラーの紹介などは50%以上が支持した。医師と一緒に祈る(33%)、医師に「ただ聞いてもらう」(22%)は、好まれない行動であった。
 ロジスティック回帰モデルの結果をtable4に示す。スピリチュアルな話し合いを望む傾向が強かったのは、30〜64歳の回答者(オッズ比[OR]=2.1)、スピリチュアルな信念が医療上の決定に影響すると評価した回答者(OR=3.0)、病気の時に信念が希望を与えると答えた回答者(OR=4.5)、1〜5のスケールで自分をよりスピリチュアルだと評価した回答者(このスケールが1ポイント上がるごとにOR=1.3)であった。
 アンケートには3つの自由形式の質問があった。「あなたの宗教的・スピリチュアル的信念が、あなた自身やあなたの身近な人が関わる医療上の決定に対処する方法に影響を与えた経験や状況を思い浮かべることができますか」という質問に対して、377名の回答者ができると答え、340名(41%)が例を挙げました。これらの回答の大部分は、スピリチュアルな信念からのサポートを見つけたという側面がありました。また、85人の回答者が「祈り」を具体的に挙げています。避妊、中絶、出生前検査などの治療法の決定については、22人が言及しており、手術は8人、投薬は5人、輸血は5人でした。死に直面したときの信仰の役割については、多くの回答者が言及していますが、生命維持装置を導入するか見送るかの判断については、46人の回答者が具体的に言及しています。2つ目の自由形式の質問、「あなたの医療上の決定に影響を与えるようなスピリチュアル的、宗教的な信念がありますか?267人の回答者が「はい」と答え、235人(88%)が例を挙げました。回答のほとんどは、「常に神の導きを求める」などの一般的なコメントでしたが、中絶反対の意見が46件、終末期の決断について38件、祈りについて26件、輸血を拒否すると答えた人が9件ありました。3つ目の自由記述の質問は、アンケートの最後に、質問やコメントを求めるものでした。その結果、13件の回答がありましたが、いずれも重要な情報はありませんでした。

DISCUSSION
 今回の結果は先行研究ともよく一致する。
 今回の研究では、人々がスピリチュアルな情報を医師にどのように伝え、それが医療にどのような影響を与えるのかを明らかにしたことが大きな貢献である。最も重要なテーマは、「理解」、「思いやり」、「希望」であることがわかった。この研究のもう一つの貢献は、話し合いを望む人の予測因子を検討したことだ。以下の4つの予測因子が見つかった。(1)病気の時に希望を与える信念を持っている、(2)医療上の決定に影響を与える信念を持っている、(3)年齢が30〜64歳である、(4)自分をよりスピリチュアルであると評価している。これらの要素に基づいた簡単なアンケートが、スピリチュアルな評価を構成する可能性がある。
 今後の研究では、受診時に日常的に質問を行うことが患者と医師の双方にどのような影響を与えるかを調査し、その受け入れ可能性を判断することが考えられる。
 この研究では60歳以上の人は参加を拒否する傾向があることが示唆されたが、先行研究も含めて参加を拒否する、つまりスピリチュアルな話し合いを避けうる理由は分かっていない。

【開催日】
2021年8月11日(水)

COVID-19パンデミック時に精神医療を提供したプライマリケアチームの経験:質的研究

―文献名―
Primary care teams’ experiences of delivering mental health care during the COVID-19 pandemic: a qualitative study.Rachelle Ashcroft, Catherine Donnelly, Maya Dancey, Sandeep Gill, Simon Lam, Toula Kourgiantakis, Keith Adamson, David Verrilli, Lisa Dolovich, Anne Kirvan, Kavita Mehta, Deepy Sur & Judith Belle Brown.BMC Family Practice volume 22, Article number: 143 (2021)

―要約―
【背景】
アメリカの研究ではCOVID-19のパンデミックによって平時の3倍の患者がうつと不安障害を発症している.また10人に1人が新たに何らかの物質濫用を発症している.プライマリ・ケア・チームは、COVID-19パンデミックの際に生じるメンタルヘルス・ケアのニーズをサポートするのに理想的な立場にある。COVID-19がプライマリケアのメンタルヘルスケアにどのような影響を与えたかを理解することは、パンデミックの後期以降における将来の政策と実践の決定に不可欠である。

【目的】
COVID-19パンデミックがプライマリケアチームのメンタルヘルスケアの提供に与えた影響を明らかにすること。

【方法】
カナダ・オンタリオ州のプライマリ・ケア・チームを対象に、フォーカス・グループを用いた質的研究を行った。フォーカスグループのデータはテーマ分析を用いて分析した。

※プライマリ・ケアチームについて補足
ファミリー・ヘルス・チーム(FHT)は、カナダで最も人口の多いオンタリオ州におけるチームベースのプライマリーケアのモデルの一つです[24]。FHTは、「メディカルホーム」[25]の一種であり、医療チームにさまざまなタイプの専門家を含めることで、身体的、精神的、その他の行動上の健康サービスを統合しています。オンタリオ州には186のFHTがあり、カナダで最大のチームベースのプライマリーケアモデルであり、州の約25%にサービスを提供しています[26]。各FHTでは提供者の構成が異なりますが、一般的にチームは、家庭医、ナースプラクティショナー、看護師、薬剤師、栄養士、およびその他の種類の提供者で構成されています[24]。ほとんどのFHTには、ソーシャルワーカー(FHTの92%)、心理士(25%)、一般のメンタルヘルスワーカー(13%)など、メンタルヘルスケアに特化したプロバイダーが含まれています[27]。各FHTの規模、家庭医やその他の専門家間で提供されるサービスの種類や数は、FHTによって異なります[26]。

オンタリオ州の(西、中央、トロント、東、北)の5つのオンタリオ州保健局の各地域からFHTを募集しました[28]。これらの5地域から代表者を集めることで,i) 農村部と都市部という地域の違いを考慮し,ii) これらの地域の人口の多様性を反映し,iii) 州全体の理解を得ることを目指しました。

【結果】
10のプライマリ・ケア・チームと11のフォーカス・グループを実施し、合計48名.

1)メンタルヘルスケアへの高い需要
危機の増加:ほとんどのフォーカスグループでは、COVID-19のパンデミックの際に自殺傾向が高まったと述べています。さらに、ほとんどのフォーカスグループ、特に農村地域で行われたフォーカスグループでは、患者の物質使用に関する危機が増加していることが指摘されました。
「私たちのコミュニティでは常に依存症の問題を抱えていましたが、今ではより明らかになっています……病院では過剰摂取で入院する人が増えています……過剰摂取の話はよく聞きますが、今では実際に起こっていることを知っています」

孤立感、疲労感、恐怖感:パンデミックの状況は、患者の孤立、疲弊、恐怖を助長した。
フォーカスグループでは、ある家庭医が、医療従事者や患者にとって、これまでの対処法やストレス解消法に頼れないことがいかに困難であるかを詳しく説明した。すべてのフォーカスグループが、患者が疲弊している様子を見ていると述べ、パンデミックが長引くにつれて、そのことがより明らかになったと指摘した。「パンデミックが長引けば長引くほど、患者にとっての試練は増し、患者は疲れを感じ、戦略やリソースを使い果たしてしまうのです」(FG7、ソーシャルワーカー)。

リスク集団:フォーカスグループでは、パンデミック時にメンタルヘルスが悪化するリスクのある患者として、高齢者、若者、農村部に住む人などが挙げられました。ある参加者は、「他の人よりも苦労しているのは、おそらく社会的に孤立しやすい人たちで、高齢者や幼い子どものいる人……そして以前に精神衛生上の(懸念)問題を抱えていた人たちは、通常よりも苦労していると言えるでしょう」と述べました(FG7、家庭医)。同様に、別のフォーカスグループでは、「年配のクライアントが何人かいるが、孤独感が大きな要因となっており、暗い考えに傾いている人もいる」(FG11、メンタルヘルスセラピスト)と指摘されました。

多くのフォーカスグループでは、パンデミックの際に若者が経験した精神的な問題について話しています。「多くの子どもたちが不安を抱えていました。多くのOCD(強迫性障害)、パンデミック前後の一般的な不安」(FG3、家庭医)。
農村地域で行われたフォーカスグループでは、パンデミックの間、農村地域に住む人々は特に孤立しており、その結果、精神衛生上の困難に陥るリスクが高まっているという懸念が示されました。フォーカスグループの中には、農村部や北部の患者層がCOVID-19に関連するスティグマを経験し、それがさらなる孤立につながっていると説明する人もいました。例えば、「田舎のコミュニティでは、都市部よりもCOVIDに対する一般的なスティグマがあるようです…他の田舎のコミュニティでは、COVIDを取得した人がコミュニティに持ち込んで、かなり嘲笑されたという話を聞いたことがあります」(FG8、ソーシャルワーカー)。

紹介者の増加と長い待機者:メンタルヘルスサービスへの需要が高まるにつれ、ほとんどのフォーカスグループでは、待機者が問題となっていることに同意しました。「ニーズは確実に高まっています。先月はたくさんの紹介がありましたので、今まで待ち行列はありませんでしたが、今後は間違いなく待ち行列ができるでしょう。参加者は、パンデミックの影響で地域のメンタルヘルス・リソースへのアクセスが低下したため、メンタルヘルス・サービスを受けるための待機者が増えたと説明しました。「地域のリソースがサービスを縮小しているため、人々をつなぐことや、地域のリソースにつなげることが難しくなっています」(FG3、家庭医)。

2)バーチャルケアへの急速な転換
すべてのフォーカスグループは、パンデミックの発生時に、電話やビデオによるアポイントメントなどのバーチャルケアを迅速に導入したことを長々と語りました。「私たちのチームは、週末を利用して、バーチャルなメンタルヘルスケアを提供し、個人セッションのために電話ベースのコールセッションを行うという素晴らしい仕事をしました」(FG5、メンタルヘルス・セラピスト)。別の参加者は、「すべて電話で行われているので、セラピー・セッションも電話で行われています」と説明しています(FG10、プログラム・コーディネーター)。一方、フォーカスグループの中には、たまにビデオアポイントメントを利用することがあると言う人もいました。例えば、「医師として、私はビデオ通話を利用することができます…もし、特定のメンタルヘルスの予約であることがわかっていれば、私はビデオ訪問をして、実際に顔を合わせて会話をすることができます」(FG3、家庭医)などです。

多くのフォーカスグループでは、バーチャル・ケアへの移行の際に遭遇した課題について話し合われました。例えば、すべての治療がバーチャル・ケアに容易に対応できるわけではありません。「以前は、対面式の不安・抑うつグループを行っていましたが、これをオンラインで行うのは困難です」(FG7、ソーシャルワーカー)。すべてのフォーカスグループで提起された課題の一つは、バーチャルケアの手法を使用するための教育やトレーニングが不足していることでした。

ケアの質への影響:すべてのフォーカスグループにおいて、バーチャル・ケアを利用することで、一部のプロバイダーがより多くのサービスを提供できるようになり、アクセスが改善されました。バーチャル・ケアでは、患者が予約のために移動する必要がないため、アクセスしやすくなります。バーチャル・ケアは、患者がケアに参加する能力を向上させました。すべてのフォーカスグループは、バーチャル・ケアが不安を抱える患者のアクセスを向上させると指摘しました。フォーカスグループの中には、バーチャル・ケアによって患者がスティグマの恐怖を感じなくなり、メンタルヘルス・サービスへのアクセスが向上したという意見もありました。「私も何人かの患者さんから、電話で行う方がスティグマになりにくいと言われたことがあります…患者さんは、誰かに会うことを心配する必要がないと言っています」(FG2、ソーシャルワーカー)。さらに、多くのフォーカスグループは、バーチャル・ケアがケアの継続性を高めるのに役立つと述べています。

3) プロバイダーへの影響
医療従事者の役割:
①新たな専門家としての責任:ほとんどのチームが、患者へのチェックインコールを開始しました。「パンデミックが始まったとき、私たちは患者の健康状態をチェックしていました……電話をかけて、メンタルヘルスや患者の状態をフォローしていました」(FG3、ソーシャルワーカー)。
②仕事量の増加:パンデミック以降、ほとんどの参加者は、「自宅に居ながらにして予約を取ることができるようになったので、無断欠席が減った」と述べています(FG3、ソーシャルワーカー)。
③革新的であることの必要性:あるフォーカスグループは、需要が高かったため、メンタルヘルスサービスのトリアージプロセスを見直したと説明しています。あるチームは、メンタルヘルスに関するさまざまなトピックを取り上げた非同期型のビデオを患者向けに作成しました。

個人のウェルビーイング:すべてのフォーカスグループでは、圧倒的に個人的な犠牲を経験したことが語られ、疲労感や孤独感を感じたと述べられました。「COVIDの疲労感を実感していると思います。現場の人たちは、ずっと患者さんを助けてきたし、仕事のやり方も変えてきました。そういったことを始めたばかりの頃は、エネルギーが爆発するような感じがします。(FG7, 看護部長)」

【ディスカッション】
本研究では,パンデミックの初期に,すべてのプライマリ・ケア・チームが,最も弱いと思われる患者をターゲットにして,患者に手を差し伸べた.私たちの研究は、プライマリ・ケア・チームが、健康増進のためのアウトリーチ活動を協調して迅速に実施する能力を示しています[45]。
今回の研究では、パンデミック時にメンタルヘルスサービスを提供するためのバーチャルケアとして、電話予約が最も多く利用されたことが明らかになりました。
今回のフォーカスグループでは、COVID-19のパンデミックの際に、プライマリケアチームもかなりのストレスを経験したことが明らかになりました。

【結論】
COVID-19パンデミックの発生当初から、プライマリーケアは患者のメンタルヘルスケアに対する需要の高まりに迅速に対応していた。バーチャル・ケアへの急速な移行に伴い、数々の課題に直面したものの、プライマリ・ケア・チームは粘り強く取り組んだ。このような要求がプロバイダーに与えた負担を、政策や意思決定者が考慮することが不可欠である。パンデミックの期間中はもちろん、それ以降も、精神的なケアに対するプライマリーケアの能力を高めることが早急に求められている。

【開催日】
2021年8月11日(水)