果物、野菜の消費量と死亡率の関係

―文献名―
Fruit and vegetable consumption and mortality from all causes, cardiovascular disease, and cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ. 2014 Jul 29;349:g4490.

―要約―
【背景】
果物や野菜の消費量を増やすと、心血管疾患やがんによる死亡リスクが低下することを示すエビデンスが増えている。しかし、結果は必ずしも一致していない。

【分析対象】
前向きコホート(全ての原因、心血管、癌での果物と野菜の消費量のレベルで死亡のリスクを推定した)

【結果】
16のコホート研究がこのメタ分析に適していた。4.6-26年のフォローアップ期間中、833234人の参加者の中で56423人が死亡(心血管11512人、癌16817人)を含む。果物や野菜の高い消費が全死因の死亡リスクの低さと関連していた。全死因における死亡率のプールハザード比は、1日1盛り(1皿)の果物と野菜の増加で0.95 (95%信頼区間0.92-0.98、P=0.001)、果物だけで0.94(95%信頼区間0.90-0.98、P=0.002)、野菜で0.95(95%信頼区間0.92-0.99、P=0.006)。敷居値は5盛り(5皿)の果物と野菜で、その後は全ての原因の死亡のリスクは下がらなかった。心血管死亡率は有意な逆相関が見られたが(1日に果物と野菜のそれぞれを追加したハザード比は0.96、95%信頼区間0.92-0.99)、一方で癌の死亡リスクは果物や野菜の消費量が高くても関連はなかった。※ 1盛り:野菜77g   果物80g

全死因による平均死亡リスクは、1日の果物や野菜消費量が1皿増えると5%低下し、心血管死のリスクは果物や野菜が1皿増えるごとに4%減少。

【考察・結論】
研究チームは「適切な量の果物や野菜を食べるアドバイスを提案するだけではなく、肥満・運動不足・喫煙・アルコール摂取量の多さががんのリスクに与える悪影響をさらに強調すべきだ」と示唆している。本研究結果は、健康と長寿を促進するために果物や野菜の消費を高める現在の勧告を支持するものである。

【開催日】
2014年8月20日(水)

家族歴の把握

―文献名―
Jon D. Emery, et al. Development and validation of a family history screening questionnaire in Australian primary care. Annals of family medicine. 2014, vol. 12, no. 3, p. 241-249. 

―要約―
【目的】
オーストラリアのプライマリ・ケアにおいて、乳癌、卵巣癌、大腸癌、前立腺癌、メラノーマ、虚血性心疾患、2型糖尿病のリスクが高い人を同定するための家族歴スクリーニング票の効果を実証することを目的とした。

【方法】
オーストラリア、パースにある6つの診療所にて前向きに調査を行った。対象者は、受診したことのある診療所から一通の招待状を受け取り、参加を表明した20~50歳代の526人の患者である。対象者は15項目からなる調査票に記入し、その後、調査票に書かれた内容を知らない遺伝カウンセラーにより参照基準となる3世代の家系情報を聴取される。この家系情報を基準(reference standard)として調査票の診断能について統計解析を行った。 

【結果】
7つの疾患いずれかのリスクが増加するかどうかを調べるためには、9つの質問の組み合わせが以下の診断能を有していた。Area under the receiver operating characteristic curve 84.6%(95%CI  81.2%-88.1%)、感度95%(92%-98%)、特異度54%(48%-60%)。男女別に5-6疾患のいずれかのリスクが増加するか調べるための質問の組み合わせでは、男性;感度92%(84%-99%)、特異度63%(28%-52%)、女性;感度96%(93%-99%)、特異度49%(42%-56%)。陽性予測値は男性;67%(56%-78%)、女性;68%(635-73%)、偽陽性率は男性;9%(0.5%-17%)、女性;9%(3%-15%)であった。

【結論】
家族歴があることで疾患のリスクが高くなる、プライマリ・ケア領域の患者を同定するために、簡単な家族歴スクリーニング票が有効であることがわかった。プライマリ・ケアにおいて個々人に合わせた疾病予防を行っていくための包括的アプローチの一部として活用できるだろう。

【開催日】
2014年8月20日(水)

ルシファー効果とは? ~普通の人がダークサイドへ堕ちるとき~

―文献名―
フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか. TED2008・23:16・Filmed Feb 2008 
著者はアメリカの心理学者で、スタンフォード大学の名誉教授。
 http://www.ted.com/talks/philip_zimbardo_on_the_psychology_of_evil?language=ja
 (内容理解のために、以下のジンバルド氏のインタビューサイトも参考にした。
  ・人が悪魔になる時――アブグレイブ虐待とスタンフォード監獄実験(1)~(2) )

―要約―
<善良な人が悪人に変貌することはいかに簡単かを理解すべきである>
 善悪の境界線は不動で、むこうとこちらには多きな隔たりがあると信じている人が多いが、その境界線は可変性があり、浸透性が存在する。エッシャーの素晴らしいだまし絵は、白に集中すると天使が見えるが、じっくり見ると悪魔が見える。
 神のお気に入りの天使はルシファーであったが、神に従わず権限への究極の抵抗を始め、天国から追放された。そしてルシファーはサタンとなり悪魔となった。いわば悪を保管する場所をつくったのは神である。この「天使から悪魔」の宇宙的変貌の物語には、普通の善良な人間が悪の根源へ変貌する人間性を理解するためのヒントがある。

<個人の属性帰属ではなく、外部要素にこそ悪に堕ちるシステムが存在する>
 「アブグレイブ事件(2004)の非公開写真」や「スタンフォード監獄実験(1972)」からの考察。アブグレイブ事件では普通のアメリカ兵が信じがたいような虐待を行っていた。また自分が過去に行ったスタンフォード監獄実験でも、瓜二つの減少があった。いずれからも立てた仮説は「関わった人は通常は善良な人で、原因は”腐った樽(環境)”」ということであった。決して「環境が正常で、”腐ったリンゴ”のような人間が混ざっていただけ」ということではない。
 アブグレイブ事件では、職務として多数の調査報告を読み、兵士の鑑定人として面会し精神鑑定を行った。そこでわかったことは、関わった兵士は、もともと本来の任務の訓練を受けておらず、虐待の場所が軍事情報の中心地にも関わらず情報が無いまま、周囲の取り調べの上官から「犯罪者の意思を砕け、尋問に備えるために弱らせて、自己制御をはずさせろ」と圧力をかけられ、一線を越えさせられてしまったこと。この複数の状況の力は時に強大で、感情移入や利他主義、道徳性が機能しなくなり、普通の人どころか善良な人までもが悪に手を染めてしまう。ただし、あくまでその状況下のみ。個人の属性帰属ではなく、外部要素にこそ悪に堕ちるシステムが存在する。

<ルシファー効果とは、普通の人にある複数の条件が揃ったときに恐るべき行動を取る仕組み>
 その中で発見した『ルシファー効果』は、善人が悪人に変貌する過程である。
●その悪が”(やむを得ない)強烈な状況の産物”であると証明されると、その状況の中にいる人間の自由な意志や責任能力が減退 [例:アブグレイブでは囚人の暴動が起き、手当たりしだいの拘束が始まり、収容所の人数も定員200名に1000名と看守たちの限界を超えていた]
●同時に強い恐怖やストレスがベースに持続していると意思決定能力と責任能力を喪失 [例:アブグレイブの周囲では砲撃戦が続き、働く兵士は皆、強い恐怖とストレスに晒され、また看守たちは12時間勤務で週7日休日なしの勤務であった]
●そのベースから(通常は制限されている行為が無条件となるように)ある制限が解除(一線を越えることが容認)されると人間性が喪失、情緒的な衰弱状態に転落 [例:犯罪の中核の看守はそうなる前には『精神に異常を来たしたもの、結核の患者、大人と子供が混ざっていて監獄の管理上どうか』と疑義を呈していたが、上官から『ここは戦地だ。自分の任務を果たすため、必要なことは何でもやれ』と命ぜられた。また『収容者の抵抗を打ち砕くために、通常は憲兵に許されていないことを実行する許可を与える』と言明された。]
●この傾向は、無力感を持った(苦痛を受けた)人間が、誰かを支配する(苦痛を与える)人間になるときに顕著
 [例:虐待した看守たちは任務ための特別な訓練を受けていない予備役であり、軍隊の最下層の集団として扱われており、自らも本当の兵士では無いと自覚している。無力感を持っている人間が、誰かを支配する力を握ったとき、その地位に値する人間であると証明するように力を乱用する。]

<悪を予防するための、悪と紙一重の英雄的な精神と想像力>
 予防や対処としては、現状が道徳的に間違っていると周囲と同意形成すること。(悪魔になる人も元々は英雄で)その英雄的な精神や英雄的な想像力を戻してもらう(我にかえる)ことが必要。
 英雄的行為も悪魔的行為と同様で、普通の人の非日常的な行為である。英雄的に振舞うことは、群衆から離れて異なったことをするということで追放のリスクが伴う。アブグレイブの虐待を止めた下等兵も告発後は3年間隠れないといけなかった。英雄は孤立するリスクを減らすため同意形成した複数人集まることが重要。
 状況には力があり、同じ状況が悪意の想像力をかきたて悪の加害者にすることもあれば、英雄的な想像力を刺激し英雄に押し上げることもある。違いは「1.周囲が受け身の時にこそ行動を起こす、2.常に自分中心ではなく社会中心に行動する」こと。

【開催日】
2014年8月13日(水)

高齢者における低い機能的健康リテラシーと死亡率の関連:縦断的コホート研究

―文献名―
Sophie Bostock, Andrew Steptoe, Association between low functional health literacy and ortality in older adults: longitudinal cohort study, BMJ, 2012;344:e162

―要約―
Objective 
 To investigate the association between low functional health literacy (ability to read and understand basic health related information) and mortality in older adults.

Design 
 Population based longitudinal cohort study based on a stratified random sample of households.

Setting
 England.

Participants
 7857 adults aged 52 or more who participated in the second wave (2004-5) of the English Longitudinal Study of Ageing and survived more than 12 months after interview. Participants completed a brief four item test of functional health literacy, which assessed understanding of written instructions for taking an aspirin tablet.

Main outcome measure
 Time to death, based on all cause mortality through October 2009.

Results
 Health literacy was categorised as high (maximum score, 67.2%), medium (one error, 20.3%), or low (more than one error, 12.5%). During follow-up (mean 5.3 years) 621 deaths occurred: 321 (6.1%) in
the high health literacy category, 143 (9.0%) in the medium category, and 157 (16.0%) in the low category. After adjusting for personal characteristics, socioeconomic position, baseline health, and health behaviours, the hazard ratio for all cause mortality for participants with low health literacy was 1.40 (95% confidence interval 1.15 to 1.72) and with medium health literacy was 1.15 (0.94 to 1.41) compared with participants with high health literacy. Further adjustment for cognitive ability reduced the hazard ratio for low health literacy to 1.26 (1.02 to 1.55).

Conclusions
 A third of older adults in England have difficulties reading and understanding basic health related written information. Poorer understanding is associated with higher mortality. The limited health
literacy capabilities within this population have implications for the design and delivery of health related services for older adults in England.

【開催日】
2014年8月13日(水)

ソーシャルキャピタルとは

―文献名―
イチロー・カワチ 「命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の世界が注目する授業」小学館 2013年8月

―この文献を選んだ背景―
地域包括ケアは、介護・医療・福祉レベルで、診療所が主語の場合考えられることが多い。ただ民の生活や暮らしを考えると、コミュニティにおける「社会関係資本=ソーシャルキャピタル」が重要となる。また家族という形式が、今後多様になるにつれて、地域のネットワークとしてのーシャルキャピタルも鍵を握ることが考えられ、一度、ソーシャルキャピタルについての自分の立ち位置を整理したく本テキストを読んでみた。

―要約―
ソーシャルキャピタル=社会関係資本
平たく言うと、「社会における人々の結束により得られるもの」のこと。例えば「人々の絆」「お互い様の文化」「地域の結束力」「情けは人のためならず」「遠くの親戚より近くの他人」により皆さんが生活の中で得ているもの。
地域や人との信頼感をもとに、ひとが他人を思いやる協調的な行動をとり、それが地域全体や自分の財産になるという考え方に根ざしている。

第4章 健康に欠かせない「人間関係」の話
 アメリカにおける自殺、他殺、事故で亡くなる可能性をみてみると、人との繋がりが薄い人–つまり、
結婚していなかったり、親族がいなかったり、教会に通っていなかったりすると、死亡リスクが2倍以上になることが分かった。なぜ人との繋がりが強いと、健康になるのか?
メカニズム①:人とのつながりが、その人の行動を決める
   ・毎週たべる野菜の量は、男女ともに結婚すると増え、離婚もしくは伴侶が死別すると減る。
   ・飲酒:男性は離婚や死別による飲酒量が増える、女性は飲酒量が減る。
メカニズム②:人と交わるだけで健康になる
   ・人との交わりで保たれる身体の能力や機能があり、健康でいられる(DSへ通い出した方)
   ・家に閉じこもりの高齢者は、ADL低下や認知機能低下を来しやすい。
メカニズム③:つながりから生まれる支援の力
   ・家族、親戚、友人、同僚、上司、遊び仲間、サークルなどの組織からのサポートのこと。
     「もの」お金や本の貸し借り、直接的、物理的な支援
     「情報」口コミでよい病院を知る、おいしいパン屋、運動できる場所、サークル
     「感情的サポート」慰めたり、励ましたり
マイナスの影響もある:肥満の友人は肥満などの研究あり

ソーシャルキャピタルの測定方法:周りの人への信頼感についての質問を行う(以下が例)
   ・この地域の人を信頼できますか
   ・近所の人が困っていた時、手伝いますか
   ・ここは周りの人とのつながりが密な地域ですか
   ・近所同士は仲がよいですか
   ・たいていの人はチャンスがあれば、つけ込もうとすると思いますか   
これらを踏まえた取り組み
 人との繋がりを人工的につくっても結果はでない(医療者による定期訪問やグループセラピー)
 人間関係のつながりは長い時間をかけて自然につくられるものである。
 入院後のサポートというよりは、入院前からの人とのつながりが大事なのではないか
まとめ
 資本主義社会において、格差をゼロにすることは不可能。しかしソーシャルキャピタルは、地域の結束力や人との絆を高める事で、自然災害や貧困など不利な状況にもかかわらず、住民の安全と健康を保てる可能性を示している。

―考察とディスカッション―
上記下線部についての、自然と納得する感覚は、日本人の間でも大小はあると思われるが、他国からみるとそのような考え方に対して「わかるわかる」というような感覚が特殊にうつるのであろうと感じた(この理由は稲作などの関連して本文内で考察しているが)。

SCが豊かな人は、更に多くの選択肢が広がる一方、SCが乏しい人は、更に孤立化していく・・・というSCの格差もあり、カルテのPL内に#独居➡ではなく#乏しいソーシャルキャピタル、などと記載していくのがよいかと感じた。更にそこから、地域・コミュニティ志向型ケアの考え方で、上記患者さんの乏しいSCをどう開発できるか、どのような繋がりが地域にあれば、乏しいソーシャルキャピタルは解決されるのか・・・という発想で、地域作りの視点をもっていくこともよいだろう。
また地域で家庭医として「暮らす」中で、自分自身が、趣味活動や子ども繋がりPTA、近所同士のやりとり、雪かき、地域のお祭りなど積極的にソーシャルキャピタルを豊かにしていく中で、患者さんに対しても選択肢を提示したり、ソーシャルキャピタルのハブとして機能できる可能性を感じた。
身近な行動としては、徒歩通勤中の、すれ違う人たちへの挨拶から・・・ですかね。

サイト単位の考察としては、栄町のコミュニティルームなど、診療所自体がソーシャルキャピタルの場を提供していくこと、夜カフェなどのアウトリーチ、地域アセッツとの共同による活動、祭りの参加など診療所自体がSCとして機能するような戦略もありだと思う。

【開催日】
2014年8月6日(水)

立位排尿と座位排尿が前立腺肥大の患者に与える影響

―文献名―
Ype de Jong ,et. al. Urinating Standing versus Sitting: Position Is of Influence in Men with Prostate Enlargement. A Systematic Review and Meta-Analysis. uly 22, 2014 DOI journal.pone.0101320

―要約―
【背景】
これは、排尿時の姿勢が薬理学的介入に近づく程度に下部尿路症状(LUTS)を有する患者における尿力学パラメータに影響を与えることができることが示唆される。
この論文では、健康な男性とLUTSを有する男性において排尿時の姿勢が排尿中の最大尿流率(Qmaxを)、時間排尿(TQ)と排尿後の残存量(PVR)に与える影響をシステマティックレビューとメタ解析で分析した。

【証拠収集(方法)】
14の医療データベースによって体系的な検索がされた。
立位と座位での尿力学パロメーターを比較した研究はインクルージョンされた。
参加者の男性は健康状態によって層別化された:健常またはLUTSを有する患者。
LUTSと健常人および患者:研究が含まれ、男性参加者の健康状態に応じて層別化した。
Qmax、TQ、PVRの標準平均差は、ランダム効果モデルにプールされた。

【結果】
11個の論文が採用された。LUTSを有する男性において座位姿勢の方が立位姿勢と比較して明らかに残尿量(PVR)が低かった。(-24.96 ml; 95%CI -48.70 to -1.23)
さらに、座位姿勢での排尿において有意差は出なかったが最大尿流率(Qmax)は増加(1.23 ml/s; 95%CI 21.02 to 3.48)、時間排尿(TQ)は低下(20.62 s; 95%CI 21.66 to 0.42)を認めた。
健常人においてはQmax (0.18 ml/s; 95% CI -1.67 to 2.02)、TQ (0.49 s; 95%CI -3.30 to 4.27)、PVR (0.43 ml;95%CI -0.79 to 1,65)と立位と座位では近似していた。

【結論】
健常男性では尿力学パラメーターの違いを認めなかった。LUTSを有する患者においては、座位姿勢が尿力学の改善にリンクしていた。

【開催日】
2014年8月6日(水)

肥満成人の非外科的介入での長期間の減量の維持

―文献名―
Long term maintenance of weight loss with non-surgical interventions in obese adults: systematic review and meta-analyses of randomised controlled trials. BMJ 2014;348:g2646 doi: 10.1136/bmj.g2646 (Published 14 May 2014)

―要約―
【目的】
肥満成人患者の減量の維持をサポートする方法を系統立ててレビューする
これらの介入の効果に対するエビデンスを評価する

【デザイン】
Systematic review with meta-analysis

【情報源】
Medline, PsycINFO, Embase, and the Cochrane Central Register of Controlled Trials.

【研究の選択】
研究は2014年1月まで確認されたもの。18歳以上の成人肥満で減量を維持するための介入を行い、5%以上の減量をフォローアップ期間の12ヶ月以上の長期間維持するという無作為試験

【研究データの評価と統合】
複数研究者が独立して、それぞれ研究を選別した。
研究の特徴、アウトカムが抜き出された。
Meta-analyses:分散逆数重み付け法と変量効果モデルを用いて、減量維持の介入効果を見積もった。
結果は95%信頼区間で体重の変化の平均値で表現された。

【結果】
45の研究に7,788人参加
食事、運動の両方に焦点をあてた行動療法の介入では、12ヶ月後に体重がコントロール群と比較して−1.56kgの平均値の差があった。
行動療法にオルリスタットを組み合わせて介入すると、12ヶ月後、プラセボと比較して−1.80kgの差が出た。しかし、すべてのオルリスタット研究群はプラセボ群と比較して高頻度で胃腸障害の副作用が出現した。オルリスタットの容量依存性も示された。120mgを1日3回投与した群(−2.34 kg, 95%信頼区間:−3.03 to −1.65)は、60mg、30mg投与群(−0.70 kg, 95%信頼区間:−1.92 to 0.52), P=0.02と比較してより高い減量維持効果がみられた。

【結論】
食事と運動の両方に焦点をあてた行動療法の介入は減量維持に対して、小さいが、重要な効果があることが示された。

【開催日】
2014年7月23日(水)

ダイアローグスマート 肝心なときに本音で話し合える対話の技術

―文献名―
ケリーパターソン,ジョセフ・グレニー,ロン・マクミラン,アル・スウィツラー.ダイアローグスマート 肝心なときに本音で話し合える対話の技術.2010

―この文献を選んだ背景―
院内勉強会のニーズ調査のためのアンケートで、コミュニケーション法や自分に怒りや敵意をぶつけてくる相手の対処方法が知りたいというニーズがあった。以前にダイアローグについて聞いた事があり、ニーズに適していると感じ、ダイアローグの勉強会を企画するため本書を読んだ。

―要約―
序文
 筆者らが「緊迫した会話」と呼ぶ重要かつ難しい会話に適切に対応することで、お互いの関係性が深まり、高い次元での絆が生まれる。本書では「緊迫した会話」に適切に対応するための手法(ダイアローグ)を段階的に掘り下げている。

第1章 緊迫した会話とは何か、それは何故重要か
 大きな利害関係、意見の対立、強い感情が存在すると何気ない会話が緊迫した会話に変化する。その会話が重要であればあるほど上手く進めることが難しい。緊迫した会話を避けたり、不適切に扱うとキャリア、組織の運営、人間関係、健康など幅広い側面に影響する可能性がある。

第2章 会話の達人になる−ダイアローグの驚くべき力
・論争になったり感情的になったりしている場面で、会話が成功するときは必ずその場にいる人々の本音が自由に行き交う状態になっている。
・自由に自分の思いを打ち明けることで、バラバラな個人の思いをひとつの思いのプール(共有の思いのプール)として蓄積する。
・共有の思いのプールが大きければ大きいほどグループとして正しい決定が可能になる。 

第3章 自分から始める−欲しいものに集中する
・自分から始める:自分が直接変えることが出来るのは自分だけということを思い出す
・自分が本当に欲しいものに集中する:自分はどんな動機から行動したのかを問う
・愚かな選択を避ける:欲しくないものを明確にして欲しいものと対立させる

第4章 状況をみる−安心の揺らぎに気づく
緊迫した会話では以下の3つの状況を探す
・緊迫してきた状況:自らの身体、感情、行動の変化に注目する
・安心を揺るがす問題に注意する(沈黙、口撃)
・ストレス時の自己のスタイルに注意する

第5章 安心させる−何でも話せるようにする
・本題から離れる           
・安心のどの部分が揺らいでいるか見分ける:共通の目的、相互の敬意
・必要なら謝る             :敬意を冒したときは誤る
・コントラスト化で誤解を訂正する    :意図しないことを話し次に意図することを話す
・双方の目的が相反していたらCRIBを使う :commit(共通の目的を見いだす決意),recognize(手段の奥にある目的を理解),invent(共通の目的を創る),brainstorm(新たな手段をブレインストーミングする) 

第6章 ストーリーを創る−感情に流されずにダイアローグを続ける
強い感情が原因で沈黙や口撃から抜け出さなくなったら以下をためす
・行動のプロセス(事実➡認知➡感情➡行動)を逆さにたどる:行動の自覚、感情の見極め、事実に立ち返る
・新しいストーリーを創る

第7章 プロセスを告げる−摩擦を起こさずに説得する
話しにくいメッセージや自分の正しさを確信しているため強引に押しすぎるかもしれないと思うときにはプロセスを告げるSTATEを使う:share(事実を共有する)、tell(自分のストーリ−を話す)、ask(相手のプロセスを尋ねる)、talk(仮説として話す)、encourage(チャレンジを奨める)

第8章 プロセスを引き出す−激怒する相手、だんまりを決め込む相手から引き出す

第9章 行動につなぐ−緊迫した会話を行動と結果に結びつける

【開催日】
2014年7月23日(水)

ユマニチュード

―文献名―
本田美和子/イヴ・ジネスト/ロゼット・マレスコッティ.マニチュード入門.2014年

―要約―
はじめに
ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法。
「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立つ。
認知症の方や高齢者のみならず、ケアを必要とするすべての人に使える、たいへん汎用性の高い技法。

Section1 ユマニチュードとは何か
1 ケアをする人と受ける人
・日常の風景
・それは防御かもしれない
2 その人に適したケアのレベル
・ケアのレベルを設定する
 ①健康の回復を目指す(たとえば肺炎を治す)。
 ②現在ある機能を保つ(たとえば脳梗塞後の麻痺が進行しないようにする)。
 ③回復を目指すことも、現在ある機能の維持をすることも叶わないとき、できるかぎり穏やかで幸福な状態で最後を迎えられるように、死の瞬間までその人に寄り添う(たとえば、末期のがんの緩和ケアを行う)。
・誤ったレベルのケアは害である
3 害を与えないケア
・なぜ罪悪感を抱いてしまうのだろう・・・
・強制ケアが健康を害している
・睡眠を妨げない
 ・記憶の保持が困難になった人でも、幸せな気分で眠りについたという思いは感情記憶にとどまりますから、就寝時のケアは大切なのです。
 ・夜間の安否確認のための訪問や、失禁していないかと確認するためのおむつ交換がどれほど悪い影響をもたらしているか想像できるでしょう。
・抑制はしない
 ・入院の原因となった肺炎の治療が終わった2週間目には歩けなくなっている、ひとりでは食べられなくなっている、という皮肉な現実がある。
 ・「生きているものは動く」「動くことが生きていることだ」を当たり前に受け止めるケアの文化を育て、ケアの方法を変えていくことが必要です。
・わきを持ち上げない
 ・肩関節の脱臼に繋がる危険性があります。
 ・人の身体の動きを知ったうえで立位を介助する方法を正しく学び訓練することが必要です。
4 人間の「第2の誕生」
 ・ユマニチュードは、この「人と人との関係性」に着目したケアの技法です。
 ・ユマニチュードは、自分も他者も「人間という種に属する存在である」という特性を互いに認識し合うための、一種のケアの哲学と技法です。
 ・その中心に位置するのはケアを受ける人とケアをする人との「絆」です。
・もし他者との絆がなければ
 ・自分が人間的存在であると認識することができます。つまりこれが第2の誕生です。

Section2 ユマニチュードの4つの柱
・人間の尊厳を取り戻すために
 ・(1)その能力や状態を正しく観察し、評価と分析を行うこと。
 ・(2)見つめ、話しかけ、触れ、立つことや移動を効果的にサポートすること。
 ・(3)その行動の抑制も強制も行わない環境をつくること。
1 ユマニチュードの「見る」
・ポジティブな見方とネガティブな見方
 ・水平に目を合わせることで「平等」
 ・正面から見ることで「正直・信頼」
 ・顔を近づけることで「優しさ・親密さ」
 ・見つめる時間を長くとることで「友情・愛情」
・「見ない」は「いない」
・ケアを受ける人は本当に見てもらっているか?
 ・相手を「見る」ためには0.5秒以上のアイコンタクトが必要だとされています。
・「見る」ことに関する2つの方法
 ・自然にできる「見る」
 ・後天的に学ばないとできない「見る」
・職業人として「見る」ということ
・文化の問題ではない
2 ユマニチュードの「話す」
・赤ちゃんにはどう話す?
・話さない人には話しかけなくていい?
・コミュニケーションの原則
・オートフィードバック
 ・自分の行っているケアの様子を言葉にする。
3 ユマニチュードの「触れる」
・広い面積で、ゆっくりと、優しく
・ケアの場での「触れる」
・皮膚から伝わる感覚の情報は場所によって違う
・”つかむこと”が伝えるメッセージ
 ・「親指を手のひらにつけて、絶対に使わない」と強く意識することが必要になってきます。
・5歳の子の力以上は使わない
4 ユマニチュードの「立つ」
・立つことの意味
 ・子どものころに自分で立ち上がったこと、それを見ていた親や大人に喜ばれたという記憶は、ポジティブでほこりに満ちた感情記憶です。
・立つことの生理的メリット
・多くの場合、歩けないのは医原性
・一日20分、立位でのケアを
・脳に誤情報を与えないこと
5 人間の「第3の誕生」
・人間らしい世界に迎えられなかった子どもは?
・近く遮断状態の高齢者
・フライデーはどこにいる

Section3 心をつかむ5つのステップ
・責めるのではなく、変えればいい
・よかれと思ったことが・・・
・マナーとして当たり前のこと
・出会いから別れまでの5つのステップ
1 出会いの準備
・なぜノックするのか?
 ①3回ノック。
 ②3秒待つ。
 ③3回ノック。
 ④3秒待つ。
 ⑤1回ノックしてから部屋に入る。
 ⑥ベッドボードをノックする。 
・自分が来たことを告げて反応を待つ
2 ケアの準備
・合意が得られなければ、あきらめる
 ・3分以上このプロセスに時間をかけない。
・「あなたに会いに来た」というメッセージ
 ・「◯◯です。お話をしに来ました。ご一緒してよろしいですか?」
 ・”あなたと話をしに来た””あなたに会いに来た”というメッセージを伝える。
・嫌がる言葉は使わない
・正面から近づく
・視線をとらえる
・2秒以内に話しかける
・いきなりケアの話はしない
・話す、触れる
・顔はプライベート・ゾーン
3 知覚の連結
・2つ以上の感覚を使う
・複数の知覚情報を矛盾させない
・知覚の連結とは
・適正よりも技術
・2人でケアを行うときには「黒衣とマスター」技法を使う
・マスター役は「見る」「話す」、黒衣役は「触れる」
・どちらが効率的か
4 感情の固定
・「この人は嫌なことをしない」という感情記憶を残す
・やや大げさに表現する
・共に働く人たちの理解を得るには
5 再会の約束
・約束を書きとめておく
・次回来られない場合には

Section4 ユマニチュードをめぐるQ&A

【開催日】
2014年7月16日(水)

10個の積み木~質の高いプライマリ・ケアとは?~

―文献名―
Thomas Bodenheimer, et.al. The 10 Building Blocks of High-Performing Primary Care. Ann Fam Med, 2014; 166-171.

―この文献を選んだ背景―
今年度の診療報酬改定で導入された地域包括診療料の算定に向けたプロジェクトや家庭医療看護師養成プロジェクトに携わっている。その中で北海道家庭医療学センターが実現する診療所の未来のあり方を考えることが多く、文献が非常に参考になったため紹介する。

―要約―
【イントロ】
「無理のないコストで」「患者経験を改善し」「より健康に」というヘルスケア改革の3つの目標は質の高いプライマリ・ケアを基盤としなければ達成することはできない。このために新たなプライマリ・ケアの診療や業務を設計し直そうとする動きが活発となっており、診療施設が新時代に向けて変わっていくためのロードマップが必要とされている。この文献では質の高いプライマリ・ケアを示す概念モデル「10の積み木」を紹介する。

【方法】
複数の情報源を利用してケーススタディを行い、それ元にして積み木の枠組みを構築した。
非常に高い評価を得ている23診療施設を訪問し調査。
著者らが運営支援をしている25以上の診療施設における経験。
既存のモデル(例:Starfield’s 4Pillars of Primary CareやPatient-Centered Medical Home Recognition Standards)やプライマリ・ケアの改善に関する先行研究。

【10個の積木(Figure 1)】
既存のモデルや先行研究が示す要素を含む10個の積み木をFigure 1に示す。

Figure 1. Ten Building blocks of high-performing primary care.

上に積まれた積み木の示す項目を達成したいのであればその前に下の段の積み木が示す項目について取り組み達成することが基盤となる。

積み木1:熱心な、献身的なリーダーシップ、明確な目的に裏打ちされた診療施設のビジョンの創出
質の高い診療施設は変化を促すことに献身的に取り組むリーダーを有する。また組織のあらゆるメンバーがリーダーシップを発揮し患者をもリーダーとしての役割に巻き込んでいる施設もある。
積み木2:コンピューター技術を利用したデータによる質改善
がんのスクリーニングや糖尿病管理といった病床の指標、ケアの継続性やアクセスといった指標、患者経験(満足度?)といった指標に関するデータを医師ごと、またはケアチームごとに収集し全職員が閲覧可能な状態とし、改善を促進する。
積み木3:Empanelment
患者が特定のケアチームやプライマリ・ケア医を主治医として持ち、登録すること。診療施設側の視点では患者の登録名簿を持つことを指す(日本のフリーアクセスや出来高制の環境、Fee-for-service制をとる診療施設では現実に障壁がある)。Empanelmentは良質なプライマリ・ケアにとって必須である患者との治療的関係の構築にとって基礎となる。登録名簿をこの文献では「Patient panel」と表現している。
積み木4:チームによるケア
患者の登録名簿は必然駅に徐々に大きくなっていき、医師だけでケアを担っていくことが難しくなるため、医師以外の職種とチームを構成し、受け入れられる患者のキャパシティを広く持つようにする。このようなチームを構築することを「Sharing the care」と呼ぶ。診療施設によっては安定した慢性期の患者のケアをチーム内の看護師や薬剤師がマネジメントできるよう「Subpanel」を作成しているところもある。
積み木5:患者-チームのパートナーシップ
質の高いプライマリ・ケア診療施設においては、患者は何をすべきかを指示されるのではなく、患者個別の目的が尊重され医師やケアチームと決断を共有する。
積み木6:Population Management
ここでいうPopulationとは「Patient panel」を指す。「Patient panel」のマネジメントは大まかに3つの職務がある。Panel management(登録名簿を見渡しがん検診など定期的なヘルスチェックの時期にある患者を同定するなど)、Health coaching(生活習慣病など慢性期の患者に対する行動変容)、Complex care management(医学的、心理社会的に複雑なニーズを持つ患者のケア)。すべての職務において医師以外の職種が少なくない役割を持って職責を果たしている。
積み木7:ケアの継続性
ケアの継続性は予防医学的ケア、慢性期のケアや患者・医療者の経験を改善し、医療費の軽減をすることと関連する。ケアの継続性の実現には積み木3(Empanelment) が必要である。
積み木8:ケアへの迅速なアクセス
ケアへのアクセスは患者満足度に強く関連しており多くの診療施設にとって重要課題でもある。
患者登録簿の大きさの管理(積み木3)やキャパシティを広げられるチーム作り(積み木4)に取り組むことが有効である。
積み木9:ケアの包括性と協調性
患者の健康ニーズの大部分に応える「ケアの包括性」と診療施設が提供することができないサービスのアレンジを行う責務としての「ケアの協調性」はStarfield’s 4 pillarsにも含まれる。
積み木10:将来を見据えた「鋳型」(Template of the Future) 
積み上げた積み木の頂点は将来を見据えた「鋳型」である。

現在の診療報酬制度はここに示すようなケアに対する十分な報酬を与えるシステムにはなっていない。こういった質の高いプライマリ・ケアを提供する診療施設に適した診療報酬のあり方が問われており、有力なのは患者の健康リスクに応じた包括診療料を基盤とし、臨床面のケアの質と患者経験の質により調整されるものであろう。

【開催日】
2014年7月16日(水)