郡部・都市部の家庭医療研修のその後の診療範囲への影響

-文献名-
Pollack SW, Andrilla CHA, Peterson LE, Morgan ZJ, Longenecker R, Schmitz D, Evans D, Patterson DG. Rural Versus Urban Family Medicine Residency Scope of Training and Practice. Family Medicine. 2023;55(3):162–170.

-要約-
※以下、Rural=郡部、と訳しています
【Introduction】
郡部地域における医療従事者の不足は、数十年にわたって続いている。郡部地域における医療資源の不足は、医療へのアクセスをさらに悪化させ、その結果としてその地域の住民の健康状態の悪化を招いている。郡部地域での研修は、郡部での診療を選ぶ動機付けとなることが示されており、このような人員の偏在を緩和する助けとなる可能性がある。
郡部地域での研修は、より広範な診療範囲(Scope of Practice: SOP)を促進し、それが郡部地域社会にさらなる利益をもたらす可能性がある。家庭医の診療範囲には、個人的要因(医師の年齢、性別、教育と研修、キャリア段階)、職場の要因(医療システムの運営、職場文化)、環境要因(郡部地域、地理的位置)、および人口学的要因(患者の人口構成、医療への社会的障壁)が影響を与えると考えられている。また、診療範囲は特定のキャリア段階、特に研修医教育の時点で影響を受けることが示されている。研修中の環境は診療範囲に影響を与え、より郡部的な研修を受けた、もしくは単一の研修プログラム出身者では、より広範な診療範囲を有することが示されている。
郡部での研修は、さまざまな方法で定義され特徴付けられてきた。郡部の研修プログラムは、都市部の研修プログラムと比較して規模が小さく、資源も限られていることが多い。例えば、財政的支援の不足や教員数・教育資源の制約が挙げられる。都市部の研修プログラムと比較して、郡部の研修プログラムの卒業生は郡部での診療を選ぶ割合が高い。過去10年間で郡部の研修プログラムの数は増加しているが、調査期間中においては、郡部の研修医はすべての家庭医療研修生の5%未満であった。郡部と都市の診療地は診療範囲にも影響を与え、過去の研究では、郡部の医師は特にプライマリケアにおいて、都市の医師よりも広範な診療範囲を持つことが示されている。しかし、郡部と都市部の研修が最終的な診療範囲にどのように寄与するかについては、ほとんど明らかにされていない。
本研究では、郡部と都市部の研修が家庭医療の診療範囲に与える潜在的な価値についての知見を補うため、郡部および都市部で研修を受けた早期キャリアの家庭医が、研修修了後3年間で報告した実務準備感と実際の診療範囲を分析した。さらに、郡部および都市部で研修を受けた後期キャリアの家庭医が報告した診療範囲と現在の診療地について検討した。

【Method】
データソース
本研究では、アメリカ家庭医学委員会(American Board of Family Medicine, ABFM)によって実施された2つの検証済み調査のデータを統合した。
1つ目は、全国卒業生調査(National Graduate Survey, NGS)であり、2016~2018年にABFMの認定医を対象に研修修了後3年で実施されたものである(2013~2016年の卒業生が対象)。この調査の回答率は66.7%~67.8%であった。=早期キャリア
2つ目は、継続認定試験登録アンケート(Continuing Certification Examination Registration Questionnaire, RECERT)であり、最初の認定後7~10年でABFMの継続認定を申請する医師を対象に、2014~2018年に実施されたものである。この調査の回答率は100%である。=後期キャリア
研修プログラムが郡部型かどうかの定義には、RTT Collaborativeのリストを使用し、研修プログラムの主な家庭医療施設が郡部に位置し(郡部・都市通勤地域コード [RUCA] に基づき4以上)、研修期間の半分以上が郡部で行われた場合に郡部型と分類した。本研究では、郡部型の研修プログラムを修了した医師を郡部研修医と定義した。

変数
主なアウトカム
診療範囲(Scope of Practice, SOP)の比較には両調査のデータを使用した。実務準備感の分析にはNGSの早期キャリア医師データのみを使用した。NGSでは回答者に対し、研修中に30項目の診療分野や手技について実務に必要な準備が整ったかどうか(はい/いいえ)を尋ね、現在それらを診療に取り入れているかどうか(はい/いいえ)も尋ねた(Table 2参照)。実務準備感と現在の診療内容が主要なアウトカムである。
全体的な診療範囲の比較には、プライマリケアの診療範囲を測定する個別スコアを使用した。このスコアは0~30の範囲で、高いスコアほど広範な診療範囲を示す。全体スコアの算出は分析に用いるために検証されている。その結果、全体スコア分析には早期キャリア医師5,334名および後期キャリア医師37,233名が含まれた。RECERTは後期キャリア医師に対して現在の診療範囲についてのみ尋ね、研修準備感については尋ねていないため、RECERTのデータは全体スコアの作成にのみ使用した。

調整変数
多変量解析では、可能な場合には以下の背景特性を調整した:年齢(質問時点)、性別(男性/女性)、医療界で過小評価されている医師(Black/African American、American Indian/Alaska Native、Native Hawaiian/Other Pacific Islander、またはヒスパニック/ラテン系)、医学の学位種別(DO/MD)、国際医学校卒業生(IMG)ステータス(アメリカまたはカナダ以外で取得した学位)、現在の練習地の地理的分類(郡部または都市)、医療不足地域での診療(Rural Health Clinic [RHC]、Federally Qualified Health Center [FQHC]、またはIndian Health Service [IHS])、研修プログラムの地理的地域(アメリカの地方分類)、および入院診療と継続ケアの両方の提供(片方のみと比較)。NGSは2018年以前のデータでは人種や民族を尋ねていなかったため、早期キャリア医師の解析ではこれらを含めなかった。

データ分析
診療範囲の分析
t検定を用いて郡部型研修と都市型研修の卒業生の個別の診療項目および全体スコアを比較し、調整変数を考慮するため多変量線形回帰を実施した。

研修準備感と現在の診療内容の分析
χ2検定を用いて、郡部型と都市型研修の卒業生の研修準備感および現在の診療状況(30の診療分野と手技)を比較し、調整変数を考慮した多変量ロジスティック回帰を実施した。現在の診療状況を個別のアウトカムとして扱い、30件のロジスティック回帰分析を行った。すべてのオッズ比は、調査集団内でのアウトカムの共通性を考慮して相対リスクに変換した。
すべての解析にはStata 16(StataCorp, College Station, TX)を使用し、有意差をP<.05と定義した。本研究はワシントン大学ヒト被験者倫理委員会により非研究と判断され、正式な審査から免除された。

【Results】
研修準備感
NGS調査回答者6,483名のうち、272名(4.2%)が郡部型研修を受けていた(Table 1参照)。これらの卒業生は、32の郡部型研修プログラム(NGSサンプルに含まれる全研修プログラムの7%)を修了していた。回答者の平均年齢は35.9歳であり、郡部型卒業生と都市型卒業生の間で年齢の有意差は認められなかった。都市型研修卒業生と比較して、郡部型研修卒業生は男性(49.6%対43.2%; P<.05)、国際医学校卒業生(43.8%対33.7%; P<.001)、および現在入院診療を行っている割合(51.3%対39.5%; P<.001)が高かった。郡部型研修卒業生の半数以上(51.0%)が郡部地域で診療を行っており、都市型研修卒業生ではこの割合が16.6%であった(P<.001)。学位種別(DOまたはMD)について、郡部型と都市型の間で有意差は認められなかった。回答者全体の16.7%がDOの学位を持つ医師であった。

二変量分析では、郡部型研修卒業生は都市型卒業生と比較して、集中治療、小児ケア、腰椎穿刺、人工呼吸器管理、挿管、胸腔穿刺、ギプス固定、心臓ストレステスト、小児病院ケア、新生児包茎手術、整骨操作治療、終末期ケアの全6つの病院ケア項目で準備が整っていると報告する傾向があった。一方で、婦人科ケアの8つの指標のうち2つ(子宮内膜生検とコルポスコピー)および薬理学的HIV/AIDS管理において準備が不十分であると報告する傾向があった(Table 2参照)。これらの違いのうち、集中治療、挿管、胸腔穿刺、子宮内膜生検、コルポスコピー、ギプス固定、整骨操作治療、HIV/AIDS管理、およびC型肝炎管理は、多変量モデルでも有意であった(結果は示さず)。

個別の診療範囲の現在の実践状況
Table 2は、上記と同じ項目についての現在の診療範囲の自己報告の二変量分布を示している。郡部型と都市型研修卒業生の間で、研修準備感と比較して、現在の診療範囲における有意な違いは少なかった。郡部型研修卒業生は都市型卒業生と比較して、小児病院ケア(26.8%対19.1%; P<.01)、集中治療(38.5%対21.9%; P<.001)、挿管(50%対34.3%; P<.001)、人工呼吸器管理(41.9%対30.5%; P<.01)を現在実施している割合が高かった。一方で、都市型研修卒業生は、IUDの挿入および除去、埋め込み型避妊具の使用において高い割合を示しており、これらの手技に対する準備感には違いが認められなかった。
多変量分析(Table 3参照)では、研修準備感は、現在の診療範囲のすべての項目において統計的に有意な予測因子(P<.001)であり、現在の診療地やその他の関連する医師特性を調整した場合でも有意であった。 郡部型研修卒業生は、都市型卒業生と比較して、IUD挿入・除去(相対リスク[RR]=0.78, 95% CI 0.61–0.95, P<.05)、埋め込み型避妊具(RR=0.78, 95% CI 0.61–0.96, P<.05)の提供確率が低かったが、集中治療(RR=1.40, 95% CI 1.14–1.70, P<.01)、終末期ケア(RR=1.14, 95% CI 1.03–1.24, P<.05)の提供確率は高かった。

全体的な診療範囲スコア
早期キャリアの郡部型および都市型プログラム卒業生の診療範囲スコアは、それぞれ16.5(95% CI 16.1–16.8)および16.1(95% CI 16.0–16.1, P<.05)であったが、調整済み線形モデルではこの差異は有意ではなかった。郡部地域で診療を行うこと(β=1.10, 95% CI 0.94–1.26, P<.001)は、スコアが高いことの最も強力な予測因子であり、一方で年齢が高い(β=-0.02, 95% CI -0.04–-0.01, P<.001)およびIMG(International medical graduate)である(β=-0.78, 95% CI -0.92–-0.64, P<.001)はスコアが低いことと関連していた(Table 4参照)。 後期キャリアの郡部型プログラム卒業生は都市型プログラム卒業生と比較して、広範な診療範囲を報告しており(15.7対14.7, P<.001)、調整済み線形モデルでもこの差異は有意であった。後期キャリア医師では、郡部地域での診療(β=1.90, 95% CI 1.81–1.99, P<.001)、MD学位(β=0.56, 95% CI 0.44–0.68, P<.001)、および中西部(β=0.54, 95% CI 0.43–0.64, P<.001)または西部(β=0.16, 95% CI 0.05–0.28, P<.01)の研修参加が高スコアの予測因子であった。女性(β=-0.55, 95% CI -0.63–-0.48, P<.001)、年齢が高い(β=-0.03, 95% CI -0.03–-0.02, P<.001)、IMG(β=-1.52, 95% CI -1.61–-1.42, P<.001)、およびURM(β=-0.93, 95% CI -1.06–-0.80, P<.001)は低スコアと関連していた。

【Discussion】
本研究の結果、郡部型研修を受けた医師は、都市型研修を受けた医師と比較して、幅広い診療手技について研修で十分に準備されたと感じている割合が高いことが明らかになった。この結果は、郡部型家庭医療研修プログラムが、都市型プログラムよりも広範な診療範囲を提供する可能性を示唆している。また、研修中の準備感は、今回の測定項目の中で一貫して現在の診療実践に最も大きな影響を与える要因であった。特定の診療サービスを提供するかどうかの決定は、今回のデータでは測定されていない複雑かつ非線形な変数によって影響を受ける可能性が高い。
また、調整された解析では、早期キャリア医師において郡部型と都市型の卒業生の間で全体的な診療範囲スコアに有意な差は認められなかった。しかし、郡部型研修を受けた後期キャリア医師は、都市型研修を受けた医師よりも広範な診療範囲を報告しており、調整後でもこの差異は有意であった。統計解析で両群を直接比較したわけではないが、後期キャリア医師は、都市型・郡部型を問わず、早期キャリア医師に比べてわずかに狭い診療範囲を有することもわかった。この結果は、年齢とともに診療範囲が縮小するという既存の研究と一致しており、個人的要因が診療範囲に与える影響をさらに裏付けるものである。
これらの結果は、郡部研修プログラムの重要性を示すものであり、郡部型研修プログラムの強化と拡充を目指す現在および将来の取り組みを支える証拠となる。郡部型研修を受けた医師は、キャリアを通じて郡部地域で診療を行う可能性が高く、幅広い診療範囲の訓練と郡部地域住民のケアに対する準備が整っているため、郡部地域社会にとって非常に貴重である可能性がある。郡部型研修プログラムを増やすための取り組みを進めることができる。 

限界
本研究には、調査による自己報告データに関連するバイアスが含まれる可能性がある。これにより、回答者が実際の診療内容や準備感を過小または過大に報告する可能性がある。郡部型プログラムに参加する医師は、リスクへの耐性が高く、郡部地域での一般診療の不確実性に対応するための準備が整っていると感じやすい可能性がある。また、調査項目は「産科ケア」や「産科超音波」を尋ねているが、家庭医療の診療範囲における大きな要素である他の産科ケアの側面については具体的に尋ねていない。さらに、早期キャリアと後期キャリアのデータセットは別々のコホートであるため、縦断的に比較することはできない。また、研修準備感が診療範囲に与える影響を示しているが、実際の診療スキルや診療の質、患者満足度との関連性は、本研究の範囲外であった。これらの要因についてさらなる研究が必要である。

「早期の関係性の健康」へのケア

-文献名-
Amanda Bell ,Richa Agnihotri, Early relational health care
Canadian Family Physician May 2024; 70 (5) 298-302

-要約-
はじめに
 家庭医は「あなたに何が起こったの?」と聞くよりは「あなたとあなたの家族に何がおこったの?」と訪ねる可能性が高くなっている。
 新しいパラダイムであるEarly relational health care(ERH:早期からの関係性を健康にするケア)ではプライマリ・ケア提供者が両親に対して「あなたとあなたの家族はうまくいっていますか?」と尋ねることを推奨している。
 家庭医は診察している家族の関係の強さやポジティブな家族機能を評価するための必要な専門知識を有している。

 2023年にカナダの小児科学会が小児期の逆境体験(ACEs)からERHへ焦点を当てた移行を声明を発表した。
 From ACEs to early relational health: Implications for clinical practice | Paediatrics & Child Health | Oxford Academic

 子供の発達の最新の研究に根ざしたERHは乳児や幼児と保護者との間の最も初期の感情的な繋がりに基づき構築され、健全な発達を促しながらポジティブな体験につなげ、ストレスや逆境、トラウマによる悪影響を軽減する。
 表1にまとめたように、小児とその家族の全ての臨床場面においてERHのレンズを採用することを提案する。

表1

表1の訳
● 戦略1(医療者の)自己省察と文化的な謙虚さに焦点を当てる
・ 診療における家族への暗黙の偏見や態度を考慮する
・ 敬意のあるプロセスとオープンなコミュニケーションを型とする
● 戦略2 文化的に安全な診療を構築する
・ 家族中心で、反差別主義な、トラウマインフォームドケアを全ての職員に訓練する
・ 柔軟な予定、個別化されたフォロープラン、安全なグループの紹介、温かい引き継ぎを確実に行う
・ 必要にお応じて守秘義務とその限界について助言する
● 戦略3 家族の強みを評価し構築する
・ 愛情深い調和の取れた子育ての瞬間を観察し褒める
・ 親、代理保護者、親類との安全で安定した養育環境を評価する
・ 関係性構築の基盤を探って促進する
・ 親のセルフケアを強調する
・ 地域社会とのつながりの構築を支援する
● 戦略4 毎回の来院時にレジリエンスとリスクの兆候を把握する
・ 効果や双方向性の応答や安全なアタッチメントを観察し、ポジティブなやり取りを賞賛する
・ こどもの行動に関する質問に耳を傾ける
・ こどもの行動に対する親の反応や家族のストレス要因について尋ねる
・ 親の育て方やその過去が現在の子育てスタイルや実践にどのような影響を与えているのかを知る
● 戦略5 統合された実践を構築する
・ 可能な限り、メンタルヘルスのカウンセリング、コミュニティサポートサービス、ソーシャルワークを実施
・ アドボカシイとなる活動や支援資源との繋がりをとおして、医療に対する偏見やその他のアクセスへの障害を認識して対処する
・ ピアによるケアや支援グループの最新リストを維持する

<馴染みのある概念と馴染みのない概念>
 表の2にトラウマインフォームドケアを習った家庭医は馴染みのある言葉があるかもしれません。

ERHは健康な子供と家族の発達を強化することを目的としたケアを提供するための新しいレンズです。
 
 ERHの評価はあまり知られていないが(医療者の)継続的な自己評価から始まる。医療者は無意識の偏見や固定観念を診療に持ち込んでしまう。偏見を継続的に軽減することは安全な文化を作るための業務の一部である。

 ERHは発達のモニタリング、直接的な病歴聴取、関係性の観察、積極的な傾聴、健康指導などの家庭医が日常的に使っている戦略が含まれている。
 ERHでは、こどもの生活の中に少なくとも一人は思いやりがあって支えとなって頼れるおとなが存在しているかどうかを確認する。

<家族中心のかかわり>
 親子関係はリスクとレジリエンスの修正可能なメカニズムとなっている。
家族中心でACEベースのERHケアモデルはこどもの経験を中心に据えた二世代アプローチを推奨している。

 ERHモデルでは親と家庭医は子供のケアと意思決定についての責任あるパートナーとなる。

 関係作りのもう一つの機会は、家族が地域社会の一員としてどのような支援をうけているのか?また地域社会からどのような支援を受けているのかを理解することである。

<実装>
 家庭医療におけるERHの実装は、予防接種、急性疾患や慢性疾患の診察時に行うことができる。

 例えば患者のサプナ(35歳)が4ヶ月の赤ちゃんのローハン(4歳)を連れて健康診断にきました。

● 診察室に入る前にこの特定の家族・状況・文化的背景に関する自分の偏見と知識のギャップを確認します。
● 二人のやり取りをみると彼女が頻繁にアイコンタクトを行い、彼を安心させるような姿勢で抱っこをし、お喋りしていることに気がつきます。
● あなたはこのやり方を強調して奨励し、サプナに歌うような声で話たり、歌ったり、ロー班と遊んだり、本を読んだりすることは言語発達を促すと伝えます。
● ローハンを診察しながらあなたは母親と赤ちゃんのために何をしているのかを説明します。
● 予防接種の後にローハンはグズってしまい、サプナが抱きしめて優しい言葉でなだめました。
● あなたはサプナの良い行動を褒めて、彼女が赤ちゃんに安全で安心だと感じさせている手助けをしていると知らせます。
● ・・・
● あなたは家族が利用している地域サービスについて尋ねます。彼女は新しく引っ越してきたばかりでどのサービスも利用していないと答えます。
● あなたはサプナに地元の児童・家族センターのパンフレットをわたします。
● ・・

ERHおよびERHを基盤としたアプローチに関する研修とサポートの強化が急務になっている。アメリカのKeystone発達プログラムは医学生と開業医の両方にERHアプローチを教えている。このプログラムは300を越えるアメリカの研修プログラムで教えられている。

<結論>
ERHは家庭医が特に地域社会で支援サービスとともに提供できる積極的かつ総合的なアプローチである。
家庭医は何世代にもわたる家族に医療を提供し、ERHアプローチをモデル化し、教え、強化するための機会を持っている。
適切な支援があれば、家庭医はERHアプローチのリーダーおよび強力な支援者になることができる。
ERHアプローチは幼少期のトラウマの影響を軽減し、全世代の子供たちの健康と幸福を高める可能性があります。

【開催日】2024年12月11日

アナフィラキシーに対するエピネフリン点鼻薬(Epinephrine nasal spray for anaphylaxis)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Thomas B Casale, et al. Adult pharmacokinetics of self-administration of epinephrine nasal spray 2.0 mg versus manual intramuscular epinephrine 0.3 mg by health care provider. J Allergy Clin Immunol Pract. 2024 Feb;12(2):500-502.e1. doi: 10.1016/j.jaip.2023.11.006. Epub 2023 Nov 10.

-要約-
<臨床的意義>
 鼻腔内エピネフリン(以下、ネフィ)の自己投与により、医療従事者による筋肉内エピネフリン投与と同等かそれ以上の薬物動態および薬力学的反応が得られた。針を使わない代替手段が利用できることで、不安が軽減され、エピネフリン投与の遅れが減る可能性がある。

 院外における重度のアレルギー反応やアナフィラキシーの効果的な治療には、患者や介護者がエピネフリンを迅速かつ正確に投与することが必要です。しかし、エピネフリン自動注射器 (EAI) は不便で扱いにくいと考えられており、最大 83% の患者や介護者が EAI を投与しなかったり、使用を遅らせたりしている。重度のアレルギー反応やアナフィラキシー事象は、特に迅速に治療すれば、命に関わることはめったにないが、治療が遅れると、二相性反応や死亡率などの罹患率が高くなる。ネフィは、アナフィラキシーを含む (タイプ I) アレルギー反応の緊急治療の追加オプションとして研究されている針なしの鼻腔内エピネフリンスプレーであり、治療への不安や遅延を軽減できる可能性がある。

 アナフィラキシー患者を対象とした臨床試験の実施を制限する倫理的障壁のため、ネフィの開発戦略は薬物動態 (PK) および薬力学 (PD) 評価に重点を置いた。臨床試験では、ネフィの PK および PD プロファイルが承認済みのエピネフリン製品に類似していることが示されている。1型アレルギーの治療に処方されるすべてのエピネフリン製品と同様に、ネフィは院外環境での使用を目的としている。したがって、自己投与後のネフィの PK および PD を示す必要がある。
 この研究では、医療従事者(HCP)が針と注射器でエピネフリン 0.3 mg を筋肉内(IM)注射した場合(IM 0.3 mg)と比較して、自己投与したネフィ 2.0 mg の PK と PD を評価した。これは、アレルギー性鼻炎の病歴を持つ患者を対象とした、第1相、単回投与のランダム化クロスオーバー試験として行われた。患者は、1つの鼻孔に自己投与するネフィ 2.0 mg の単回投与とクロスオーバー方式で HCP 投与される 0.3 mg (21 ゲージ × 1 インチ針) の IM 単回投与を受けるようにランダムに割り当てられた。ラベルに従って、IM注射は大腿部の前面外側に投与された。投与前と投与後 360分までに血液サンプルを採取した。収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧 (DBP)、脈拍数 (PR) などの薬力学的測定値は、投与前と投与後 120 分までに評価された。タイプ 1 の誤差率が 5% の検出力計算に基づいて、30 人以上の患者でサンプル サイズが適切であると見なされた。
 この研究は、Novum独立機関審査委員会の承認を受け、適正臨床実践基準およびヘルシンキ宣言に従って実施された。すべての患者は、スクリーニング前に書面によるインフォームドコンセントを提出した。
 アレルギー性鼻炎の既往歴のある患者45名が登録された(男性57.8%、年齢23~53歳、平均±SD体重81.0±14.4kg、平均±SD体格指数27.2±3.1kg/m2 )。
45 名の患者のうち 41 名 (91.1%) が試験を完了した。2 名の患者は期間 1 に IM 0.3 mg を投与された後に試験を中止した。これらの患者には PK データがない。さらに 2名の患者が期間 1 を完了したが、期間 2 の前に試験を中止した。これらの患者のうち 1名は期間 1 にネフィを投与され、もう 1名は IM 0.3 mg を投与された。これらの患者については期間 1 の PK データが収集された。スクリーニング中、患者は使用説明書、クイックリファレンスガイド、およびビデオを確認して、ネフィの使用方法に関する 1回のトレーニングセッションを受けた。スクリーニング後、患者には追加の指示は提供されなかった。42人の患者全員がネフィを正しく自己投与した。
全体的に、ネフィはIM 0.3 mgと比較してより高いエピネフリン曝露をもたらした(図1)。

 ネフィの安全性プロファイルは、有害事象を含め、IM 0.3 mg と同様だったが、鼻の症状(鼻の不快感や鼻漏など)はネフィ投与後に多く発生した。
 これは、自己投与後のエピネフリンの PK と PD を調べた最初の研究である。HCP による針と注射器を使用した手動のエピネフリン注射が、EAI の承認の根拠となったため、比較対象として選択された。
 自己投与後、ネフィ 2.0 mg は、以前の研究でも報告されているように、ネフィ後の SBP のより顕著な上昇を含め、医療従事者による IM 注射と同等かそれ以上の PK および PD プロファイルをもたらした。この異なる SBP 反応は、ネフィの鼻腔内投与により、骨格筋への直接注射の結果として生じる β 2媒介血管拡張が回避され、それによって DBP の低下が最小限に抑えられ、結果として SBP の上昇が抑制されるためであると考えらる。この DBP の維持は、冠血流のより確実な維持をもたらすため、アナフィラキシーの治療に有利である可能性がある。ただし、ネフィのより顕著な SBP 反応は、承認された注射製品の範囲内であることに注意することが重要である。さらに、高濃度であっても、エピネフリンの安全性は 3つの異なるメカニズムによって支えられている。(1) 一般に、エピネフリンの心臓および代謝作用は約 1,000 pg/mL の濃度で完全に発現し、血漿エピネフリン濃度のさらなる上昇は SBP のさらなる上昇にはつながらない。 (2) エピネフリンの血管収縮作用は主に α 1受容体活性化によって媒介され、β 2媒介血管拡張によって減弱され、血圧の調節をもたらす。(3) 意図しない完全/部分ボーラス注入の場合を除き、HR の上昇は代償性迷走神経反射によって制限される。
 この研究の利点は、関連性の高い比較対象者と代表的な体格指数を持つ被験者を用いて実施されたことだが、倫理的な制限により、アナフィラキシー条件下では実施されなかった。
 これらの結果を総合すると、ネフィは安全で使いやすいエピネフリン投与オプションであり、重度のアレルギー反応やアナフィラキシーの治療に有効である可能性がある。

【開催日】2024年12月4日

慢性腎臓病におけるSGLT2阻害薬の長期効果

-文献名-
W.G.Herrington.et al. Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE. Oct 25, 2024

-要約-
●Abstract
【Background】
 EMPA-KIDNEY試験において、ナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるエンパグリフロジンは、病勢進行リスクのある慢性腎臓病患者において心腎系に良好な効果を示した。試験後の追跡調査は、試験薬中止後にエンパグリフロジンの効果がどのように進展するかを評価するために計画された。

【Methods】
 本試験では、慢性腎臓病患者をエンパグリフロジン(10mg、1日1回投与)またはプラセボのいずれかに無作為に割り付け、中央値で2年間追跡した。全患者は、推定糸球体濾過量(eGFR)が体表面積1.73m2あたり毎分20ml以上45ml未満、またはeGFRが1.73m2あたり毎分45ml以上90ml未満で、尿中アルブミン/クレアチニン比(アルブミンはミリグラム、クレアチニンはグラムで測定)が200以上であった。その後、同意を得た生存患者はさらに2年間観察された。試験後の期間にはエンパグリフロジンやプラセボは投与されなかったが、地域の開業医は非盲検のエンパグリフロジンを含む非盲検のSGLT2阻害薬を処方することができた。プライマリアウトカムは腎臓病進行または心血管死であり、有効試験開始時点から試験終了時点までに評価された。

【Results】
 EMPA-KIDNEY試験で無作為化を受けた6609例のうち、4891例(74%)が試験後の追跡調査に登録された。この期間中、オープンラベルのSGLT2阻害薬の使用は両群で同程度であった(エンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%)。試験期間中および試験後を合わせた期間において、プライマリアウトカムイベントはエンパグリフロジン群3304例中865例(26.2%)、プラセボ群3305例中1001例(30.3%)に発現した(ハザード比、0.79;95%信頼区間[CI]、0.72~0.87)。試験後期間のみ、プライマリアウトカムイベントのハザード比は0.87(95%CI、0.76~0.99)であった。期間中、腎疾患進行リスクはエンパグリフロジン群で23.5%、プラセボ群で27.1%、死亡または末期腎疾患の複合リスクはそれぞれ16.9%、19.6%、心血管死リスクはそれぞれ3.8%、4.9%であった。非心血管死(両群とも5.3%)に対するエンパグリフロジンの影響はみられなかった。

【Conclusion】
 進行リスクのある広範な慢性腎臓病患者において、エンパグリフロジンは投与中止後最大12ヵ月間、心腎系への追加的な有効性が継続した。
(Boehringer Ingelheim社他より資金提供)

【開催日】2024年11月13日

月経困難症の薬物治療(低容量エストロゲン・プロゲスチン配合薬とプロゲスチン製剤)

-文献名-
Masaru Iwata. Efficacy of Low-Dose Estrogen–Progestins and Progestins in Japanese Women with Dysmenorrhea: A Systematic Review and Network Meta-analysis. Advances in Therapy. 2002; 39: 4892-4909.

-要約-

Key point
なぜこの研究を行うのか?
日本人女性において、月経障害は仕事上の障害の主な原因であり、月経困難症は最も一般的な月経症状の一つである。したがって、月経困難症の疾病負担を改善することは、特に日本では不可欠である。月経困難症に対するプロゲスチン単独および低用量エストロゲン・プロゲスチン(LEPs)の有効性については十分な検討がなされていないため、本研究では、日本人女性における月経困難症の治療に使用可能なLEPsとプロゲスチンとの有効性の差を評価するために、システマティックレビュー、メタアナリシス、ネットワークメタアナリシスを行った。
この研究から何がわかったか?
直接メタアナリシスでは、原発性月経困難症における超低用量ノルエチステロン/エチニルエストラジオール(=ルナベルULD)の周期的レジメンを除き、いずれのタイプの月経困難症においても、またいずれのアウトカムにおいても、すべての薬剤とプラセボとの間に有意差を認めた、 また、8つのランダム化比較試験を含む間接的なネットワークメタ解析では、二次性月経困難症においてジエノゲストとノルエチステロン/エチニルエストラジオールの周期的レジメンの間にVASで有意差を認めたが、その他の薬剤間に差は認められなかった。LEPsとジエノゲストが原発性および続発性月経困難症に有効であることを確認し、治療成績の改善には周期的レジメンよりも継続的レジメンの方が有効である可能性を示唆した。

Introduction
月経困難症は月経に関わる症状として最も一般的であり、月経期の下腹部痛、腹部膨満感、悪心、嘔吐、頭痛、めまいなどの症状を特徴とし、QOLや生産性に悪影響を及ぼす。
原発性月経困難症は、原因となる疾患に関連しない月経痛であり、初経後2〜3年で発症することが多い。続発性月経困難症は主に生殖器の疾患(子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮線維腫症)と関連している。子宮内膜症は、約70%の女性にみられる続発性月経困難症の原因であり、原発性月経困難症よりも長く続く月経困難症を引き起こすことが知られている。
原発性月経困難症と思われている患者の中に続発性が多く含まれる、原発性から続発性への移行がみられるといった報告もあり、明確な区別が難しい疾患群かもしれません。
日本人女性における月経困難症に対するLEPsおよびプロゲスチンの有益な効果を示唆する研究はいくつかあるが、薬剤間の有効性の差は依然として不明である。

Methods
MEDLINE、Cochrane Library、医中誌のデータベースを検索して研究を同定し、原発性および続発性の月経困難症に対するLEPおよび黄体ホルモンを評価するために、全月経困難症スコアおよびvisual analogue scale(VAS)を転帰尺度として用いたRCTを対象とした。メタアナリシスおよびネットワークメタアナリシスにより結果を分析した。

2021年8月31日以前に発表された研究が対象。RCTまたはRCTのSR、日本で実施された研究で日本語もしくは英語のもの。参考文献リストから手作業で検索、未発表論文がないか確認済み。集められた論文の質の評価は Cochrane risk of bias tool を用いて評価した。
Results
8件のRCTに関する10件の論文を同定し、7剤(LEPs6剤とプロゲスチン1剤)とプラセボを解析に含めた。
メタアナリシスでは、プラセボと比較して、ほぼすべての薬剤で月経困難症の総スコアとVASの改善が認められた。

Fig.2それぞれの薬剤とプラセボとの比較
(DRSP/EEの周期投与と連続投与の比較は含まれない)
a:原発性 月経困難症スコア
b:原発性 VASスコア
c:続発性 月経困難症スコア
d:続発性 VASスコア
参考:
ネットワークメタアナリシスでは、続発性月経困難症のVASはNET/EE LD(周期投与)よりもDNGでより改善した。(平均差25.84[95%CrI44.46〜7.15])
投与レジメンの比較では、LEPs(周期投与)よりもプロゲスチン持続投与でVASが改善し、LEPs(周期投与)よりもLEPs(延長投与)とプロゲスチン持続投与でSUCRA(surface under the cumulative ranking)が高くなった。







Discussion
月経困難症スコア、VASスコアともに治療群とプラセボ群の間には有意差がみとめられた。
続発性月経困難症でDNGがなぜ有効なのか?LEPsでは休薬期間に消退出血と骨盤痛を伴うがDNGにはないこと、高い黄体ホルモン活性による抗炎症作用と抗増殖作用が期待されることが理由になるだろう。子宮内膜症の治療容量の半分であることには注意。
LEPsの周期投与と連続投与の比較については、無月経期間(消退出血を含む)を長く作ることで疼痛が軽減された可能性が考えられる。消退出血頻度が少なくなることで「月経困難」の重症度が下がるか?という点については今回は評価されていない。
研究の限界としては、評価地点が月経周期の中で統一されていないこと、製薬会社主導の研究が多いこと、パブリケーションバイアス、集められた研究の数が少ないことが当てはまる。

参考pdf
https://med.mochida.co.jp/tekisei/dng202003.pdf

LEPsの種類について
黄体ホルモン:アンドロゲン作用の順でNET→LNG→DSG→DRSP
NET/EE ルナベルLD/ULD
LNG/EE トリキュラー(アンジュ)、ジェミーナ(連続投与)
DSG/EE マーベロン
DRSP/EE ヤーズ、ヤーズフレックス(連続投与)

副作用について
今回の論文では触れられていないが、DNGはLEPsと比較して血栓症発生リスクは有意に低い。一方で不整性器出血の割合はかなり高い。
周期投与と延長投与に関しては、延長投与での有意な血栓症発生リスクの増加は示されていないが、不整性器出血のリスクはあがることが示されている。悪性腫瘍に関しての報告はみつけられなかった。

【開催日】2024年11月6日

認知症BPSDに対する第2世代(非定型)抗精神病薬の比較

-文献名-
Lü W, Liu F, Zhang Y, et al. Efficacy, acceptability and tolerability of second-generation antipsychotics for behavioural and psychological symptoms of dementia: a systematic review and network meta-analysis. BMJ Ment Health. 2024;27:1-8.

-要約-
●Abstract(全文)
【Background】
 BPSDは多くの認知症患者に認められる。BPSDの治療には第2世代(非定型)抗精神病薬(SGAs)がよく用いられるが、その有効性や受容性について比較した際の特徴は不明である。
【Methods】
 標準化平均差(SMD、(平均値の差)/(各群の標準偏差の平均値))を用いて、連続アウトカムについての固定効果をプールした。カテゴリ変数に対応するオッズ比と95%信頼区間を算出した。受容性(Acceptability、有効性+安全性の混合)は全ての原因による脱落率として定義され、忍容性(Tolerability)は有害作用による中止率として定義された。治療効果の順位は累積順位曲線下面積(SUCRA:Surface Under the Cumulative Ranking Curves)によって決定した。有害アウトカムには、死亡、脳血管有害事象、転倒、(過)鎮静、錐体外路症状、尿路症状が含まれた。
【Results】
 このネットワークメタアナリシス(NMA)には20件のランダム化比較試験が含まれ、5種類の第2世代抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール)について、合計6374人の結果が含まれた。介入期間は6週間〜36週間であった。
 有効性の評価では、プラセボ群と比較してブレクスピプラゾールの有効性が高く(SMD=-1.77、95%CI:-2.80~-0.74)、ブレクスピプラゾールはクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールよりも有効であった。
 受容性の評価では、アリピプラゾールのみがプラセボよりも優れており(OR=0.72、95%CI:0.54~0.96)、アリピプラゾールはブレクスピプラゾールよりも優れていた(OR 0.61、95%CI:0.37~0.99)。
 忍容性の評価では、オランザピンはプラセボと比較して最も悪く(OR=6.02、95%CI:2.87~12.66)、リスペリドン(OR=3.67、95%CI:1.66~8.11)やクエチアピン(OR=3.71、95%CI:1.46~9.42)と比較しても悪かった。アリピプラゾールはオランザピンと比較して優れていた(OR=0.25、95%CI:0.08〜0.78)。クエチアピンは脳血管有害事象の点で良好な安全性を示した。ブレクスピプラゾールは転倒や(過)鎮静の点で良好な安全性を示した。
【Conclusion】
 ブレクスピプラゾールはBPSDの治療において高い有効性を示しており、アリピプラゾールは最も受容性が高く、オランザピンは忍容性が最も悪かった。この研究結果は意思決定の指針として活用できるかもしれない。

●Introduction
・これまでのランダム化比較試験では、第2世代抗精神病薬はBPSDにわずかな改善をもたらす一方、重篤な有害事象(特に(過)鎮静、錐体外路症状、脳血管イベント、死亡)を引き起こす可能性があると示唆されている。FDAは以前、抗精神病薬の使用に関する警告を出した。
・しかし第2世代抗精神病薬は、未だに患者の12.3~37.5%で使用されている。
・最も有益かつ安全な抗精神病薬を探る際に、一対一の比較研究を基にしたメタアナリシスでは限界があったが、ネットワークメタアナリシス(NMA)は複数の介入試験を比較してエビデンスを生成することで見識を深められる可能性がある。
・本研究ではネットワークメタアナリシスを用いることで、BPSDに関する比較試験を評価し、様々な第2世代抗精神病薬の有効性・受容性・忍容性に関する最初のエビデンスを示すことを目的としている。

●Methods
・適格基準
・本研究はシステマティックレビュー・メタアナリシスに関するPRISMAガイドラインに則って行われた。
・この研究にはアルツハイマー型認知症、血管性認知症、混合型認知症が含まれた(診断は研究著者によって定義された)。
・患者の年齢や認知症の重症度による制限は設けなかったが、パーキンソン病やレビー小体型認知症、認知症に関係のないその他の精神疾患(うつ病、せん妄、統合失調症など)、管理不良な身体疾患(心血管疾患、感染症など)は除外された。
・患者には、何らかの第2世代抗精神病薬によるBPSD治療が行われていた。
・主要アウトカムは有効性と受容性であった。
・有効性は、標準化されたスケール(例:CMAI、NPI、BPRS)で測定されたスコアの変化で定義された。
・受容性は全ての原因による脱落率として定義され、有効性と忍容性を包含した。
・副次評価項目は忍容性で、有害作用による治療中止として定義された。有害作用には死亡率、脳血管有害事象、転倒、(過)鎮静、錐体外路症状、尿路症状が含まれた。
・このシステマティックレビューには、ランダム化比較試験(RCT)のみが含まれていた。
・検索戦略
・第2世代抗精神病薬とBPSDについての研究について、データベースの開始から2023年12月までに、英語で発表された文献について、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Trial Registerで検索した。
・2名のレビュアーが収集や評価に関与した。
・必要に応じて追加情報や欠損したデータについて著者に連絡を取った。
・データ収集
・論文情報、参加者の情報(年齢、性別、サンプルサイズ、認知症のタイプ、ベースラインのMMSEなど)、介入の特徴(第2世代抗精神病薬の種類と投与量、投与期間など)を収集した。
・データ分析
・Stata/SE(V.15.1)と頻度主義的フレームワークを用いてネットワークメタアナライシスを実行した。
・累積順位曲線下面積(SUCRA:Surface Under the Cumulative Ranking Curves)を用いて、仮想治療と比較した各治療の有効性、受容性、忍容性の確率を計算した。
・コクラン共同計画が推奨する「risk of bias 2」を用いて、選択バイアス、実行バイアス、検出バイアス、減少バイアス、報告バイアス、その他のバイアスを評価した。出版バイアスについてはファンネルプロットで示した。主要アウトカムに関する感度分析は、バイアスリスクが高い研究を除外して実施した。
・各研究の信頼性は、CINeMAアプローチを用いて評価した。

●Results
・一次検索で874件の研究論文が選択されたが、論文の重複やタイトル・抄読の内容などから除外し、20件(→受容性と忍容性の評価)19件(→有効性の評価)のRCTをメタアナリシスに含めた(PRISMAフローチャートは本文参照)。
・研究の特性
・発表期間:1999年から2023年
・サンプルサイズ:各研究40人~652人、合計6374人
・介入期間:6週間~36週間
・用いられた第2世代抗精神病薬:5種類(クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール)
・主要アウトカム:CMAI、NPI、BEHAVE-AD、BPRS、PANSS
・セッティング:ほとんどが高齢者施設で行われた
・バイアスの評価、非一貫性の評価
 略
・類似性の評価
・参加者の平均年齢は79.90歳、女性が67.32%(4197/6234)を占めていた。
・ほとんどの患者はアルツハイマー型認知症と診断され、MMSEの平均は11.32点であった。
・平均介入期間は11.3週間であった。
・年齢、性別、診断の頻度は各研究間で同等であった(本文Table 1参照)
・有効性の評価(Table 2、Sup. material 10)
・プラセボと比較してブレクスピプラゾールが最も有効性が高く(SMD= -1.77、95%CI:-2.80~-0.74)、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールよりも有意に優れていた。
・累積順位曲線下面積(SUCRA)による解析では、全ての第2世代抗精神病薬がプラセボより有効性に優れていた。5つの第2世代抗精神病薬の中ではブレクスピプラゾールが最も優れており、次いでリスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールの順であった。・受容性、忍容性の評価(Table 3:オレンジが受容性、灰色が忍容性を示す)
・受容性の評価では、プラセボと比較してアリピプラゾールのみが優れており(OR=0.72、95%CI:0.54~0.96)、ブレクスピプラゾールと比較しても有意に優れていた(OR=0.61、95%CI:0.37~0.99)。また累積順位曲線下面積(SUCRA)による解析では、アリピプラゾールとリスペリドンがプラセボよりも受容性に優れていた。
・忍容性の評価では、プラセボと比較してオランザピンは最も悪く(OR=6.02、95%CI:2.87~12.66)、リスペリドン(OR=3.67、95%CI:1.66~8.11)やクエチアピン(OR=3.71、95%CI:1.46~9.42)と比較しても不良であった。アリピプラゾールは、オランザピンと比較して忍容性が優れていた(OR=0.25、95%CI:0.08〜0.78)。また累積順位曲線下面積(SUCRA)による解析では、全ての第2世代抗精神病薬がプラセボよりも忍容性が悪かった。・感度分析においてバイアスのリスクが高い2件の研究を削除した後でも、有効性と受容性の結果は概ね上記と一致していた。
・有害作用の評価
・死亡率 
 4研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピンを含む)。NMAではいずれもプラセボと有意差がなく、また互いに有意差がなかった。SUCRAによるとプラセボの安全性が最も高かった。
・脳血管有害事象
 5研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピンを含む)。NMAではプラセボと比較して、リスペリドンは脳血管有害事象を有意に増加させていた(OR=4.01、95%CI:1.48〜10.90)。SUCRAによると(プラセボよりも)クエチアピンの安全性が最も高かった。
・転倒
 15研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾールを含む)。NMAではいずれもプラセボと有意差がなく、また互いに有意差がなかった。SUCRAによると(プラセボよりも)ブレクスピプラゾールの安全性が最も高かった。
・(過)鎮静
 16研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾールを含む)。NMAではプラセボと比較して、クエチアピン(OR=5.04、95%CI:3.24~7.83)、オランザピン(OR=3.68、95%CI:2.43~5.55)、リスペリドン(OR=2.51、95%CI:1.91~3.31)、アリピプラゾール(OR=2.74、95%CI:1.25~6.02)で鎮静のリスクが有意に増加していた。リスペリドンはクエチアピンと比較して鎮静リスクが有意に低下した(OR=0.50、95%CI:0.32~0.79)。SUCRAによると、プラセボに次いでブレクスピプラゾールの安全性が高かった。
・錐体外路症状
 9研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾールを含む)。NMAではプラセボと比較して、リスペリドン(OR=2.35、95%CI:1.62~3.39)やオランザピン(OR=2.57、95%CI:1.43~4.63)は錐体外路症状を有意に増加させていた。SUCRAによると(プラセボよりも)クエチアピンの安全性が最も高かった。
・尿路症状
 13研究で報告された(クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、アリピプラゾールを含む)。NMAではプラセボと比較して、クエチアピンは尿路症状を有意に増加させていた(OR=2.73、95%CI:1.34~5.54)。

●Discussion
・本試験の第一の強みは、ブレクスピプラゾールに関する研究を組み入れたことである。
・ブレクスピプラゾールはプラセボ、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールよりも有意に有効性が高いと分かった。注目すべきは、ブレクスピプラゾールの有効性が(攻撃的な行動と関係する)CMAIによって測定されていたことであり、介護者や医療システムにとって有益である可能性を示唆している。
・受容性(有効性+忍容性)については、アリピプラゾールがプラセボやブレクスピプラゾールよりも有意に優れていた。興味深いことに本研究は、アリピプラゾールが最高の第2世代抗精神病薬であるとも示しており、BPSD治療におけるアリピプラゾールの可能性が示唆される。
・忍容性については、オランザピンがプラセボ、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾールと比較して有意に悪かった。
・本研究は、BPSDに対して最も受容性が高いのはアリピプラゾール、最も効果が高いのはブレクスピプラゾール、有害作用が最も多いのはオランザピンであると明らかにした。多くの被験者を対象とした本研究は、これまでの臨床研究・レビューとほぼ一致している。
・本研究の限界として、①解析に薬剤用量を考慮しなかった(できなかった)こと、②アルツハイマー型以外の認知症患者を含む研究がごくわずかであったこと、③ほとんどが高齢者施設で行われた研究であったこと、などが挙げられる。

●Footnotes(脚注)
・Funding:四川大学West China Hospitalの1.3.5プログラム、および中国の国家重点研究開発計画からの助成金により支援された。

【開催日】2024年10月9日

公共の場でサージカルマスクを着用することにより、「風邪」を予防できるか?成人を対象とした実用的ランダム化優越性試験

-文献名-
Solberg RB, Fretheim A, et al. Personal protective effect of wearing surgical face masks in public spaces on self-reported respiratory symptoms in adults: pragmatic randomised superiority trial. BMJ. 2024; 386: e078918.

-要約-
(このトピックについて既に分かっていること)
感染防御策としてのフェイスマスクの有効性は分かっていない。観測研究では、フェイスマスクが呼吸器感染症のリスクを低減することが示唆されている。しかし、無作為化試験から得られた知見は、統計的検出力が不十分であるなど、方法論的限界のために非常に不確かなものである。
(この研究の目的)
公共空間におけるサージカルフェイスマスクの着用が14日間の自己申告の呼吸器症状発現に対して与える影響(個人防護効果)を非着用と比較して評価すること。
(デザイン)
実用的無作為優越性試験
(セッティング)
ノルウェイ
(参加者)
18歳以上の成人4647人:2371人が介入群に、2276人が対照群に割り付けられた。
(介入)
介入群の参加者は、14日間にわたり、公共の場(ショッピングセンター、道路、公共交通機関など)でサージカルフェイスマスクを着用する群に割り付けられた(自宅や職場でのマスク着用については言及されなかった)。対照群の参加者は、公共の場ではサージカルフェイスマスクを着用しない群に割り付けられた。
(主要アウトカム)
自己申告による呼吸器感染症と矛盾しない呼吸器症状を主要アウトカムとした。副次的アウトカムは、自己申告および登録されたcovid-19感染症、自己報告による病気休暇などであった。
(結果)
・2023年2月10日から2023年4月27日の間に、4647人の参加者が無作為化され、そのうち4575人(女性2788人(60.9%)、平均年齢51.0歳(標準偏差15.0歳))がintention-to-treat解析に組み入れられた。介入群2313人(50.6%)、対照群2262人(49.4%)。(Table2)
・呼吸器感染症に矛盾しない自己申告による呼吸器症状が、介入群で163件(8.9%)、対照群で239件(12.2%)報告された。限界オッズ比は0.71(95%信頼区間(CI)0.58~0.87;P=0.001)で、サージカルフェイスマスク介入に有利であった。絶対リスク差は-3.2%(95%CI -5.2%~-1.3%;P<0.001)であった。(Table3)
・自己申告のcovid-19については統計的に有意な効果は認められず(限界オッズ比1.07、95%CI限界オッズ比1.07、95%CI 0.58~1.98;P=0.82)、登録されたcovid-19感染においても統計的に有意な効果は認められなかった(介入群ではイベントがなかったため、効果推定値および95%CIは推定不能)。(Table3)
・自己申告による病気休暇は、介入群と対照群で等しく分布していた(限界オッズ比1.00、0.81~1.22;P=0.97)。(Table3)・サブグループ解析では「サージカルマスクは感染のリスクを減らす」と信じる人が「効果がない」「リスクが増える」と信じる人よりも症状発現のリスクが低かったという興味深い結果もえられた。
(結論)
公共の場で14日間にわたりサージカルフェイスマスクを着用するとサージカルフェイスマスクを着用しない場合に比べ、呼吸器感染症に矛盾しない症状を訴える(自己申告する)リスクが減少した。
(この研究が明らかにしたこと)
この実用的試験は、公共の場でのサージカルマスクの着用が、実際の環境(real world setting)において呼吸器感染症に相当する自己申告の呼吸器症状の発生を減少させるというエビデンスをしめした。
サージカルマスクに関するほとんどの先行研究とは異なり、この試験は十分な検出力を有していた。 他の公衆衛生および社会的対策についても同様の試験を実施することが可能であり、また実施すべきである。

【開催日】2024年10月2日

禁煙のための電子タバコ

-文献名-
Reto Auer, Anna Schoeni, Jean-Paul Humair, et al. Electronic Nicotine-Delivery Systems for Smoking Cessation.N Engl J Med. 2024;390(7):601-610.

-要約-
Introduction
無作為化試験および無作為化比較試験の系統的レビューでは、電子タバコはニコチン代替療法よりもタバコの禁煙に有効であることが示されたが、標準治療の禁煙カウンセリングと比較した電子タバコの有効性、および電子タバコの使用に関連する有害事象および重篤な有害事象の発生率で測定した電子タバコの安全性に関するエビデンスは限られている。喫煙者が禁煙すると、咳や痰などの喫煙に関連した呼吸器症状が軽減される可能性が高いが、電子タバコを使用して禁煙すると、これらの呼吸器症状も軽減されるかどうかは不明である。
そこで、禁煙補助としての電子タバコの有効性、安全性、毒性についてランダム化比較試験を実施し、標準治療に電子タバコを追加した場合の有効性と安全性を、標準治療単独と比較し、6ヵ月後の禁煙に関して評価した。

Method
スイスの5施設で非盲検無作為化対照試験を実施した。2018年7月から2021年6月にかけて、一般紙やソーシャルメディアでの無料・有料広告、医療施設や公共交通機関での広告によって参加者を募集した。
18歳以上の成人で、1日5本以上の喫煙を12ヵ月以上継続し、登録後3ヵ月以内に禁煙を希望する者を参加対象とした。妊娠中または授乳中の者、過去3ヵ月間にニコチン代替療法または他の禁煙補助薬を使用したことのある者、過去3ヵ月間に電子タバコまたはタバコ加熱システムを定期的に使用したことのある者は除外した。
介入群は無料の電子タバコと電子リキッド、(認知行動療法、動機づけ面接、ニコチン代替療法や禁煙補助薬などの禁煙をサポートする薬剤の使用に関する共同意思決定などを含む)標準的な禁煙カウンセリング、任意(無料ではない)のニコチン代替療法が提供された。対照群は標準的なカウンセリングと、ニコチン代替療法の購入を含めどのような目的にも使用することができる50スイスフラン(米ドルで50ドル)相当のバウチャーが提供された。
主要アウトカムは、生化学的に検証された(定義:呼気一酸化炭素濃度が9ppm以下であること)6ヵ月時点での継続的禁煙であった。
副次的アウトカムは、参加者が自己申告した6ヵ月時点のタバコおよびあらゆるニコチン(喫煙、電子タバコ、ニコチン代替療法を含む)からの禁煙、呼吸器症状、重篤な有害事象などであった。

Results
2027人の喫煙者をスクリーニングし、1246人を一次解析に組み入れ介入群622人、対照群624人に無作為に割りつけた。
参加者の多くは中年で、47%が女性であった。ベースライン来院から禁煙目標日までの平均(±SD)日数は、介入群6.0±3.6日、対照群6.0±3.9日であった。<Primary Outcomes>
(検査で)検証された継続的禁煙の参加者の割合は、介入群で28.9%、対照群で16.3%であった(相対リスク、1.77;95%信頼区間、1.43~2.20)。<Secondary Outcomes>
・(自己申告で)6か月時点でのタバコ、電子タバコ、ニコチン代替療法の使用状況
6ヵ月の時点で介入群では59.6%(552人中329人)、対照群では38.5%(504人中194人)が「禁煙者」(6ヵ月目のフォロー日前7日間にタバコを使用しなかった)であった。一方,介入群では20.1%,対照群では33.7%がニコチンを一切控えた(タバコ,ニコチン入り電子タバコ,ニコチン代替療法を禁忌)。
・有害事象
対照群では、1人が試験中に死亡した。ベースラインから6ヵ月の追跡調査までの間に、介入群では25人(4.0%)、対照群では31人(5.0%)に重篤な有害事象が発生した(相対リスク、0.81;95%CI、0. 48~1.35;未調整P=0.49)。
介入群の参加者のうち、272人(43.7%)が425件の有害事象を報告し、対照群の参加者のうち、229人(36.7%)が366件の有害事象を報告した(相対リスク、1.19;95%CI、1.04~1. 37;未調整P=0.01)。
(詳細はサプリメントにあり)

・呼吸器症状
COPD Assessment Testの平均総得点は、介入群4.8±3.9点、対照群5.7±4.5点であった(平均総得点の多変量調整差、-0.66;95%CI、-1.13~-0.18)。咳がなかったと回答した参加者の割合は、介入群41%、対照群34%、痰がなかったと回答した参加者の割合は、介入群62%、対照群51%、胸のつかえがなかったと回答した参加者の割合は、介入群73%、対照群72%であった; 息苦しさを感じない」34%、「息苦しさを感じない」30%、「自宅での活動に制限がない」95%、「自宅を出る自信がある」96%、「自宅を出る自信がある」95%、「熟睡感がある」92%、「熟睡感がある」90%、「元気がある」40%、「元気がある」39%であった。
(詳細はサプリメントにあり)

Discussion
ニコチン代替療法を使用できる標準的なカウンセリングに電子タバコを追加したところ、標準的なカウンセリングのみよりも禁煙が進んだが、禁煙者の多くは電子タバコを使用し続けた。
禁煙した参加者の割合は介入群で高かったが、ニコチン入り電子タバコの継続使用も高かった。電子ニコチン送達システムと標準的なカウンセリングの併用は、必ずしもニコチンを断たずに禁煙を望むタバコ喫煙者にとっては実行可能な選択肢かもしれないが、タバコとニコチンの両方を断ちたい喫煙者にとってはあまり適切ではないかもしれない。

<今回の研究の限界>
第1に、参加者は自分のグループ割り当てを認識していたため、対照群の参加者が自分のグループ割り当てに失望するリスクがあった。
第2に、介入群には無料の電子タバコと電子リキッドを提供したが、対照群には以前の試験で行われたような無料のニコチン代替療法は提供しなかった(電子タバコvsニコチン代替療法を比較するためではなかったため)。
第3に、治療終了評価を実施する前に、参加者に6ヵ月間無料の電子リキッドを提供した。
第4に、参加者の報告データよりも生化学的検証データの欠落が多く、介入群よりも対照群で欠落データが多かった。
第5に、スイスの外来医療環境で介入を試験したため、読者は他の環境でも同様の結果が得られると仮定することには慎重であるべきである。
第6に、われわれは副次的アウトカムについて信頼区間の幅を多重性のために調整しなかったので、これらの信頼区間は仮説検定に取って代わるものではない。

現在の結果では、主要転帰がその後の来院期間にわたって持続するかどうかは予測できないので、12ヵ月、24ヵ月、60ヵ月の追跡調査を継続する予定である。

【開催日】2024年9月11日

非小細胞性肺がん患者の食欲不振におけるミルタザピンの効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Arrieta O, Cárdenas-Fernández D, Rodriguez-Mayoral O, et al. Mirtazapine as Appetite Stimulant in Patients With Non-Small Cell Lung Cancer and Anorexia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2024;10(3):305-314.

-要約-
・メキシコの3次がんセンターでのランダム化比較試験
・がん性食欲不振の標準治療はなく、ミルタザピンは一つの選択肢として示唆されている。
・先行論文では食欲を評価されていたが、今回は摂取エネルギー及びサルコペニアの割合も評価した
・対象者は、進行したNSCLCで癌治療薬を使用、Anorexia Cachexia Scale(ACS)スコアが32以下の患者
・プラセボvsミルタザピン。ミルタザピン群は15日間15mg投与したのち、30mgに増量した。両群とも栄養指導を行った
・追跡期間は8週間で、4週目と8週目に評価を行った。評価はanorexia cachexia scaleとエネルギー摂取量

・2018年8月から2022年5月に134人をスクリーニングし、条件を満たした86例をミルタザピン群とプラセボ群にランダムに割り付け。
・食欲スコアは、4週目と8週目に両群で有意に増加し、 両群間に有意差は認められなかった。
・4週後、ミルタザピンはタンパク質(22.5g;95%CI、11.5-33.4;P = 0.001)、炭水化物(43.4g;95%CI、13.1-73.8;P = 0.006)、脂肪(13.2g;95%CI、6.0-20.4;P = 0.006)を含むエネルギー摂取量(379.3kcal;95%CI、1382.6-576.1;P < 0.001)を有意に増加させた。脂肪摂取量は8週後、ミルタザピン群の患者で有意に多かった(14.5g vs 0.7g;P=0.02)。ミルタザピン群では、8週後にサルコペニアを示す患者の割合が有意に減少した(82.8% vs 57.1%、P = 0.03)。 ・対象者はうつ病と診断されない人であったが、抑うつを測るHADS-スコアはミルタザピン群で有意な改善を認めた
・悪夢が上昇した、疲労は改善 傾眠はなかった

ディスカッション:
・これまでの研究は15mg投与に留まり、食欲のみを評価していた
・ミルタザピン30mgに増量したが、うつ病のスコア改善もあり、安全性に問題はなかったと考える。傾眠などの有害事象も出現しなかった。
・今回は体重に差が出なかった。対象患者は「食欲不振があるか」であり「体重減少しているかどうか」は考慮しなかった。またサンプルサイズが少なかった。
これらのことから体重変化には差がなかったのでは

・がんの食思不振の標準治療はまだない
例えばオランザピンの低容量の報告はあるが、それらは低体重患者での研究報告だった。今回は正常体重患者が対象である。

リミテーション:
・単一施設での研究
・サンプルの少なさ
・治療中の患者 嘔気に対して少量ステロイドが入っていたケースもあった

【開催日】2024年9月4日

心房細動をもつフレイルな高齢者における、VKA(vitamin K antagonists)からNOAC(Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant)への切り替えの安全性: FRAIL-AFランダム化比較試験の結果から

-文献名-
Linda P T Joosten, et al. Safety of Switching From a Vitamin K Antagonist to a Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant in Frail Older Patients With Atrial Fibrillation: Results of the FRAIL-AF Randomized Controlled Trial. Circulation. 2024; 149(4): 279-289.

-要約-
●Introduction
・Afに対する抗凝固療法を新規に導入する際は、VKAよりも、これまでの研究から出血リスクの少ないとされているNOACが選択されることが多い。
・一方で、高齢Af患者では30-40%がVKAで管理されているとされる。
・VKAで管理されている心房細動のフレイルな患者において、NOACに切り替えるべきかどうかは定まった見解がなく、これまでの研究は観察研究にとどまっていた。

●Method
・多施設共同(オランダ)、非盲検、pragmatic randomized controlled superiority trial
・フレイルで高齢の(75歳以上+Groningen Frailty Indicatorスコア*3以上)心房細動の患者を、INRガイド下のVKA治療からNOAC治療に切り替える群(VKA中止後INR 1.3未満となったらNOAC開始。NOACの種類は主治医の裁量に委ねられた)と,VKA治療を継続する群(INR 2.0-3.0で管理)に無作為に割り付けた。
・GFR 30未満または弁膜症性心房細動の患者は除外された。
・追跡期間は12ヵ月であった(1,3,6,9,12か月目に電話によるインタビューを実施した)。
・死亡を競合リスクとして考慮し、主要アウトカムである大出血(*定義:致死的出血、Hb 2以上の低下を伴う出血、赤血球輸血2単位以上を要した出血)または臨床的に関連性のある非大出血合併症(*定義:次回受診を早める必要があった出血、何らかの医学的介入を要した出血、入院やケアのレベルを高める必要があった出血)のどちらか先に発生した場合の原因特異的ハザード比を算出した。
・解析はintention-to-treatの原則に従った。
・副次的アウトカムには血栓塞栓症のイベントが含まれた。

*訳者注:Groningen Frailty Indicatorとは:日常活動(買い物、外出、更衣、トイレ移動)、健康問題(身体的健康、視力、聴力、体重減少、4剤以上の服薬、記憶)、心理機能(空虚感、孤独、見捨てられ感、落胆、不安)といった3ドメイン、15項目を検討し、4項目以上問題を抱える場合、フレイルと判定する。(参照:公益財団法人長寿科学振興財団『総論 フレイルの全体像を学ぶ 2. フレイルの評価方法と最新疫学研究』(https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-2.html) 2024/7/16閲覧)

Supplement S1 (Supplemental Materialのうち、一番上のpdfファイル内)
https://www.ahajournals.org/doi/suppl/10.1161/CIRCULATIONAHA.123.066485

●Results
<概要>
・2018年1月から2022年6月の間に実施
・合計2621例の患者が適格性をスクリーニングされ、1330例が無作為に割り付けられた(平均年齢83歳、Groningen Frailty Indicatorスコア中央値4。除外患者は、フレイルの基準を満たさなかったものが大半)。
・無作為化後、除外基準の存在によりVKA→NOAC群の6例とVKA継続群の1例が除外され、intention-to-treat集団ではVKAからNOACに変更した662例とVKAを継続した661例が残った。

(各群の特徴)

-出血リスクのスコアである、CHA2DS2VAScスコアは各群で同等だった。

・163例の主要転帰イベント(切り替え群101例、継続群62例)の後、事前に規定した無益性解析により試験は無益のため中止された。
・主要転帰のハザード比は1.69(95%CI、1.23-2.32)であった。血栓塞栓イベントのハザード比は1.26(95%CI、0.60-2.61)であった。

(primary, secondary outcomeの結果のまとめ)

(最初の出血までの、各群のcumulative incidence curve)
(サブグループ解析)-NOACの種類によりHRに違いはみられるものはあるが、post hocで非ランダム化解析のため解釈には注意が必要。

<結論>
心房細動を有するフレイルな高齢患者において、INRガイド下のVKA治療からNOAC治療に切り替えることは、VKA治療を継続することと比較して出血性合併症の増加と関連したが、血栓塞栓性合併症の減少は関連しなかった。

●Discussion
・オランダではPT-INRによるビタミンK拮抗薬の用量管理の質が高く、Federatie van Nederlandse Trombosediensten(オランダ血栓症サービス連盟)の年次報告書によれば,INR の至適範囲内時間(TTR)は65.3~74.0%である。
→INRガイド下VKA管理で安定している(TTR≈70%)患者をNOACに切り替えるかどうかは、大出血または臨床的に関連性のある非大出血のリスクが高まるという本論文の結果から、慎重に検討すべきである。(本文に記載あり)
→一方で、TTR が低い患者では、状況に応じてDOAC への切り替えが許容できる例が存在する可能性はあると思う。(訳者が記載)

・NOACの選択は治療医の裁量に任されていた点は、結果に影響した可能性はある。観察研究では、リバーロキサバン(本試験で最も処方されたNOAC)は他のNOACよりも出血性合併症が多く、特に消化管出血が多く、高齢者ではアピキサバンの安全性プロファイルが最も優れている。とはいえ、処方されたNOACの種類は非ランダム化であったため、このフレイルな集団において一方のNOACが他方のNOACよりも優先されるべきかどうかについては、本試験では答えることができない。

・デザイン上、試験手順は盲検化されておらず、さらに、NOAC群では患者がVKAを(まだ)服用している間にいくつかの出血イベントが発生し、その逆もまたしかりであった。しかし、これらの出血イベントのうち、無作為に割り付けられた抗凝固薬の投与中以外に発生した割合は、両治療群とも少なかった:NOAC群では101例中7例(6.9%)、VKA群では62例中5例(8.1%)であった。

【開催日】2024年8月14日