-文献名-
Ozanne E M, Barnes G D, Brito J P, Cameron K A, Cavanaugh K L, Greene T et al. Effectiveness of shared decision making strategies for stroke prevention among patients with atrial fibrillation: cluster randomized controlled trial. BMJ 2025; 388 :e079976
-要約-
Introduction
非弁膜性心房細動は、虚血性脳卒中の最も一般的な予防可能な原因の一つである。世界中で3700万人以上が罹患しており、2050年までに6200万人以上が罹患すると予測されている。心房細動患者は、心房細動のない患者に比べて脳卒中を起こす可能性が4~5倍高く、心房細動に関連する脳卒中は、心房細動に関連しない脳卒中に比べて罹患率と死亡率が高い。非弁膜性心房細動患者では、ワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬などの経口抗凝固薬が脳卒中を効果的に予防できる(クラスI、エビデンスレベルAの推奨)。脳卒中予防のための経口抗凝固薬の利点は十分に確立されているが、重大な出血イベントなどの害も同様である。
共同意思決定(SDM)は、リスクと利点に加えて患者の関連する好みや価値観を話し合うことで、臨床医と患者が一緒に医療上の決定に達するプロセスである。心房細動用の共同意思決定ツール(decision aids)がいくつか開発されており、これには、診察前に患者が使用するために設計された患者用意思決定支援ツール(PDA)と、診察中に臨床医と患者が使用するために設計された診療時意思決定支援ツール(EDA)が含まれる。臨床現場でのSDMの結果を改善する上で、患PDAまたはEDAの有効性を示すエビデンスがあるが、実際のSDMをサポートする上でのこれらの異なるタイプの意思決定補助の有効性を比較した信頼性の高い推定値は存在しない。この研究の目的は、脳卒中のリスクがある非弁膜症性心房細動患者のケアにおいて、脳卒中予防のための質の高いSDMを促進するためのPDAとEDAの有効性を評価することである。
Method
この研究は、米国にある6つの大学医療センターで実施されたクラスター無作為化比較試験である。参加者は、非弁膜性心房細動と診断され、脳卒中のリスクがあり(男性の場合はCHA2DS2-VASc≧1、女性の場合は≧2)、脳卒中予防方法について話し合うために受診を予定している18歳以上の患者であった。参加した臨床医は、参加患者の脳卒中予防戦略を的確に管理する人たちであった。
患者は、PDAを使用する群と通常のケアを受ける群に無作為に割り付けられた。臨床医は、参加者全員に、EDAを使用する群と通常のケアを行う群に無作為に割り付けられた。
本研究で用いられた意思決定支援ツールの開発は下記の通り発表されている。https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/23814683231178033
PDAを使用するよう無作為に割り付けられた患者は、クリニックを受診する前、または予約の直前にクリニックに到着したときに、そのツールを見るよう求められる。PDAには、心房細動の説明と、それが患者の生活に及ぼす影響が含まれており、CHA2DS2-VASc および HAS-BLED 計算機を使用して、それぞれ脳卒中および出血イベントの個別リスクを示す。また、出血リスク、投薬ルーチン、コスト、薬物と食事の相互作用などの観点からの、ワルファリンと直接作用型経口抗凝固薬の比較も提供される。PDAは、インタラクティブで非線形のオンラインツールとして設計されており、患者は興味のあるトピックを好きな順序で調べることができ、開始コホートとモニター コホートの 2 つの異なる経路がある。
EDAにランダムに割り当てられた臨床医は、研究対象患者との診療開始時にこのツールを使用した。EDAは、脳卒中予防に関する臨床対話をサポートするために設計されたインタラクティブなオンラインツールとして機能する。EDAの内容とフレームワークは、PDAの内容とフレームワークを反映している。臨床医は使用方法のトレーニングを受けた後、対面診察や遠隔医療相談 (画面共有経由) 中に患者とEDAを使用した。
主要アウトカムは、OPTION12尺度で測定したSDMの質(スコア範囲:0~100、高スコアほど意思決定が共有されていることを示す)、心房細動とその管理に関する知識(7項目からなるtrue/false回答形式の調査、スコアは正答率)、意思決定の葛藤(Decisional Conflict Scale[DCS]、16項目からなる5段階のリッカート尺度の合計を0~100のスコアに変換、低スコアほど患者の意思決定の葛藤レベルが低い)の3つであった。
副次的評価項目は、治療選択に関する患者と臨床医の合意、診察時間、診察で使用した方法に関する臨床医の推奨 (診察時の意思決定支援の有無)、抗凝固療法の話し合いに対する臨床医の満足度、および患者が利用した診察時の意思決定支援/PDAに対する患者の満足度が含まれた。結果は、診察直後に実施されたアンケートを通じて患者と臨床医から収集された。
Results
2020年12月14日~2023年7月3日に1,214例の患者が登録され、適格基準などを満たした1,117例が解析対象となった。臨床医は107例登録され、51例がEDA群、56例が通常ケア群に割り付けられた。したがって患者は、通常ケア群306例、PDA+EDA併用群263例、PDA単独群285例、EDA単独群263例であった。通常のケアと比較して、PDAとEDAの併用は、SDMの質を向上させ(調整平均差12.1(95%信頼区間(CI)8.0~16.2;P<0.001))、患者の知識を向上させ(オッズ比1.68(95%CI 1.35~2.09;P<0.001))、患者の意思決定の葛藤を減少させた(調整平均差-6.3(95%CI -9.6~-3.1;P<0.001))。
また、EDA単独と通常のケアを比較した場合、3つのアウトカムすべてにおいて統計的に有意な改善が見られ、PDA単独と通常のケアを比較した場合、SDMの質と知識において統計的に有意な改善が見られた。脳卒中予防の治療選択や参加者の満足度に重要な違いは見られなかった。また、診察時間の長さも各群間で、統計学的な有意差は認められなかった。
Discussion
各戦略を通常のケアと比較した場合、SDMの質 (OPTION12) の改善度合いは、EDAのみのグループで最も大きく、EDAとPDAの併用も同様の結果を示した。OPTION12は、診療中の行動の変化を識別するように設計された観察者ベースの測定であるため、この結果は予測されるものである。対照的に、PDAを使用したグループでは、通常のケアと比較して心房細動に関する知識において最大かつ同等の改善が見られた。これは診療中に臨床医がEDAを使用した場合よりも、診療外でPDAを独立して使用した場合の方が、患者がより多くの知識を取り入れることができたことを示している可能性がある。
二次分析でEDAとPDAを直接比較した結果、EDAがすでに使用されている場合、PDAを追加しても限られた利点しか得られない可能性があることを示唆していた。また、PDAがすでに使用されている場合、EDAを追加すると追加の利点が得られる可能性があることを示唆した。
この研究にはいくつかの限界点がある。OPTION12の評価者は割り付けを盲検化できず、評価に偏りがある可能性がある。デジタルツールに慣れていない参加者は、Webベースの意思決定支援ツールを使用する試験への参加を躊躇した可能性がある。また、臨床医による無作為化後の除外は、偏りを生じさせた可能性がある。最後に、意思決定支援ツール、特にEDAは、わずかとはいえ診察時間を延長する可能性があり、医療利用と質に影響を与える可能性がある。
【開催日】2025年2月12日