キャリアインタビュー:西園 久慧

飯塚記念病院医師
HCFM在籍期間/2018〜21年(連携フェローシップ3年間)
福岡県飯塚市出身。2013年福岡大学医学部医学科卒後、飯塚病院にて臨床研修。15年より飯塚・頴田総合診療専門研修プログラム。18年より北海道家庭医療学センター連携フェロー(まどかファミリークリニック)、20年3月修了。21年より飯塚記念病院に勤務。日本内科学会認定内科医。日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医・家庭医療専門医。

九州に居ながらにして、HCFMのフェローに。

生まれはここ福岡県飯塚市です。父が市内でクリニックを経営しています。将来的には継承開業を考えていますが、標榜科が内科だけでは心許ないので、現在は飯塚記念病院の精神科に勤務し、診療を通して認知症の勉強をしています。ゆくゆくは認知症専門医や精神保健指定医の取得もできたらと考えています。総合診療に興味を持ったのは飯塚病院での臨床研修医時代です。地域の基幹病院や中小病院、クリニックをローテーションする中で、大きな病院で働くよりも患者さんとの距離が近い地域医療をやりたいという思いが強くなり、卒後3年目からは飯塚病院が運営する飯塚・頴田総合診療専門研修プログラムを受講しました。
3年間のプログラムでは1048床の飯塚病院と96床の頴田病院を行き来しながら、プライマリ・ケア外来、地域包括ケア病棟、在宅ケアを学びました。診療を通して大きな病院と中小病院の機能や役割については理解できましたが、将来的にクリニックを継承して自分で経営することを考えたときに診療所経営をしっかり学びたいと思い、本輪西ファミリークリニックを見学したんです。
クリニックでの診療を見て、フェローシップコースについて話を聞くうちに、ここで学びたいという思いがますます強くなりました。ですが当時は第一子が生まれたばかり。慣れない北海道での暮らしにも不安があり、悩んでいたところ、本輪西の佐藤弘太郎先生から福岡県内のまどかファミリークリニックで連携プログラムが受けられることを聞きました。
卒後6年目の2018年4月にまどかファミリークリニックに入職し、連携フェローという形で2年間のフェローシッププログラムを受講しました。
「まどかで働きながらHCFMの研修を受ける」、というとわかりやすいでしょうか。まどかファミリークリニックの加藤光樹先生はとにかく教育に対して熱心で、診療や論文執筆で日々お忙しいにもかかわらず、貴重な時間を割いて丁寧に指導をしてくださいました。教えてもらった僕が言うのもおかしな話ですが、「このモチベーションはどこからくるんだろう?」と不思議に思うほどでした。加藤先生をはじめ、HCFMの先生方には本当に感謝しています。

飯塚で生き残るためのビジネスモデル。

2年間のプログラム修了後、違う視点からビジネスを学んでみたいと思い、まどかファミリークリニックに籍を置きながら、グロービス経営大学院で単科生として1年間学びました。医療の世界しか知らない自分にとっては刺激的でしたね。さまざまな職種の方と学び合うことを通して、自分自身の将来についても明確なビジョンができてきました。
当初は継承開業する診療所で内科と小児科を標榜しようと考えていました。ですが、グロービスで学ぶ中で、診療所のある飯塚市は過疎化と少子高齢化が特に進んでいるので、子どもよりも高齢の方に比重を置いた方がマーケットにもマッチしているし、地域の医療に貢献できると考えるようになりました。それで冒頭にお話ししたように、精神科で働きながら、認知症の患者さんを診られる医師になろうと思ったんです。
将来、継承開業するクリニックでは認知症に力を入れますが、それだけにフォーカスするわけではありません。総合診療の強みはどんな方もどんな疾患も診られることなので、まずは認知症を入口として患者さんを診療させていただきながら、何でも診られる総合診療の良さを二次的に地域の皆さんへ伝えていけたらと考えています。
また、「認知症が診られる在宅診療医」というのは、ほかにはない自分の強みになると思うので、認知症患者の徘徊や暴言・暴力、妄想・幻覚といったBPSD(行動・心理症状)のコントロールにも対応する在宅診療を実践できたらと考えています。

継承にチャレンジする理由。

「実家を継承すれば将来は安泰」というのは既に過去の話でしょう。その地域でどんな医療が求められているのか、どれくらいの患者さんがいて、競合する医療機関は近くにどれくらいあるのか。しっかりとマーケティングした上でクリニックを経営しなければ、生き残っていくことが難しい時代です。
自分や家族の生活だけを考えたら、正直なところ、勤務医でいる方が経済的な安定は得られるでしょう。継承することは、いわばチャレンジです。じゃあなんで実家継承の道を選ぶのかと聞かれたら、やっぱり自分自身が楽しいからだと答えます。患者さんやご家族と膝を突き合わせて診療することが好きで、地域医療にやりがいを感じる、だからクリニックを経営してみたい。それに尽きると思います。
家庭医・総合診療医のキャリアパスはさまざまです。僕のように実家継承を考えている医者もいれば、新規でクリニックを開業する先生もいます。病院の中で活躍する道もあるし、後進の育成や臨床研究に力を注ぐ先生もいます。そういう意味では、HCFMのフェローシップはほぼすべてを学べるプログラムです。家庭医・総合診療医としての明確な目標がある方にとってはもちろん、総合診療の専門研修を受けながら自分がどこにフォーカスしたらいいのか迷っている方にとってもおすすめしたいプログラムですね。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2022年)