ゲストインタビュー:丹野 正則・丸山 成士
丹野正則
株式会社アーキビジョン21 代表取締役会長
1982年札幌市で「丹野建築工房」を個人創業し、主に個人住宅の設計監理業務を受注。1991年に千歳工場操業開始、2001年に泉沢に輸入資材センターを開設。以来、エコロジー建築を理念とし、住むほどに付加価値を増してゆける家づくりを提案し続けている。
千歳市向陽台地区の住民が持ち続けた悲願。
向陽台地区は長年医療資源が不足している地域と言われていて、住民の皆さんは千歳市民病院や恵庭、札幌の病院などに通っていました。私自身の親もそうですが、持病を抱える多くの住民にとって、通院は一日がかりの大仕事。町内会の会議でも「なんとかならないのだろうか」という声は常に上がっていました。建築会社である私の会社が向陽台地区で介護事業に携わらせていただいたのは、5年ほど前のこと。高齢者施設の建設と同時になんとか診療所も造りたいとの思いを強く抱くようになりました。たまたま向陽台に別荘を建てた長野県出身の医師と交流を重ね、この地に「柏陽診療所」を開いていただいたのは2013年のことです。地域医療への情熱あふれる医師の協力を得て、すべては順調かに見えました。しかし、開院直後に院長の奥様の体調が思わしくなく、「二人で故郷の長野に戻りたい」と相談された時、私は返す言葉を持てませんでした。そうして開業からわずか1年で閉院となった柏陽診療所の建物を見るにつけ、こみ上げてきたのは再開への思いです。同時に多くの住民の方たちからも「なんとか医院を再開してもらえないだろうか」という電話が止むことはありませんでした。
多くの切実な声が寄せられた住民アンケートに草場理事長が動いた。
乗りかかった船です。千歳市内をはじめ恵庭や札幌、いくつもの病院を訪ね、医師派遣を要請しましたが、いただける返事は「医師不足」の一言。「一万人規模の町ならば一人の医師で回すことはできない、複数人の医師を派遣する余裕はうちにはない」と、どの病院でも言われてしまったのです。一介護事業者がいくら声を上げてもこの状況は動かない、なんとか動かすためにもまずは……、と思い立ったのが、アンケートを取って地域の声を明確に形にすることでした。そこで市議会議員とともに、向陽台町内会連合会の丸山会長のもとを訪れ、協力を依頼したところ、快諾をいただけ、大規模なアンケートの実施となりました。回収率は60%以上、ファイル5冊にも及ぶその結果を持って幾つもの医療機関を回った際、一番熱心に話を聞いてくださったのがHCFMの草場理事長で、その半年後には開院に向けた話をまとめていただくことができたのでした。
とはいえ「家庭医」「訪問診療」と言ってもピンとこず「訪問診療=往診」と思う住民も多い状況で、説明会の開催も不可欠でした。説明会では「そんな素晴らしい病院ができるのか!」と大好評で、「昔のかかりつけ医」的存在が求められているのだなと実感を致しました。こうして開院した向陽台ファミリークリニックはスタート時から非常に評判がよく「体が弱って来て、ここで住み続けることはもう無理かと思っていたが、これなら最期まで住めそうだ」「子育て不安が大きく、引っ越そうと思っていたけれど住み続けることにしました」という声を聞いたり、実際に親を呼び寄せたり、定住を決めた家庭を目の当たりにするたびに胸が熱くなっています。医療の安定と人口流出の関係の密接さは想像していた以上でした。クリニックの先生方は町内会の祭り、イベントにも積極的に参加してくださり、感謝しかありません。これからは町内会、住民とも心を合わせ、さらにクリニックを盛り上げていきたいと思っています。
丸山成士
向陽台連合町内会会長
宅地開発開始から40年、約一万人が抱えた「診療所がない町」への不安。
向陽台地区の人口は現在一万人弱。若草・白樺・里美・柏陽・福住・文京・文京1丁目と、7つの町内会からなる連合会が形成されています。連合会があるのは千歳市内では向陽台のみ。地区ごとに年齢構成に大きな違いがあるのが特徴で、町内会役員も中学生から70歳以上の人まで、さまざまなメンバーがいます。私自身が向陽台に住み始めたのは昭和57年、ちょうど宅地造成が始まった白樺地区。白樺・若草地区はこの頃から住んでいる住民が多く特に高齢化が進んでいるため、地域に診療所がないことは常に住民の大きな不安と悩みになっていました。アーキビジョン21の丹野会長から「地域の声がなければクリニック開設はありえない。どうか協力を」と要請された時には、私も周囲も「診療所ができるならどんな協力でもしたい」というのが心からの思いでした。アンケートでは現在の状況、困りごとを聞くとともに、どんな医療機関が必要かを聞き取ったのですが「病院ができるだけでとにかくありがたい」という声も多く、説明会で「家庭医」「総合診療」について説明した時も、不安よりはまず「ありがたい」。説明が浸透するにつれ「病院が来てくれるだけでもありがたいのに、夜間も、しかも24時間対応(※クリニックでは訪問診療患者については、24時間対応が可能な体制をとっている)してもらえるだなんて」という待望の声がさらに高まっていきました。
クリニック、大学、町内会で力を合わせ元気で住みやすい町づくりを。
大きな期待のなかでの向陽台ファミリークリニックの開院でしたが「先生がよく話を聞いてくれる」「先生もスタッフもみんな親切」「来やすい」等々、当初から評判は上々。町内会での懇談会や夏祭り、文化祭にも先生方が積極的に出席してくださることに、感謝と感激の声が絶えません。現在、我々が課題として認識しているのは、クリニック最寄りにバス停がなく、通院者は一区画歩かなければならないこと。より通院しやすい環境を整え、さらに多くの患者が訪れられるように、町内会から行政への要請を行っているところです。
2018年千歳には北海道千歳リハビリテーション大学が誕生し、市民を挙げて期待を寄せています。大学からも「札幌医大と連携し、地域の皆さんとともに認知症予防の取り組みを行いたい」とのご提案をいただき、感謝に絶えない思いでおります。これをクリニック、大学、地域の輪とし、セミナーや懇談会、また餅つきなど季節ごとのイベントなども行いながら親交を深め、活気ある町づくりにつなげていければと願っています。
※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2018年)