ゲストインタビュー:木佐 健悟

JA北海道厚生連 倶知安厚生病院 総合診療科
日本プライマリ・ケア連合学会 北海道ブロック支部長


恵庭市出身。04年北海道大学医学部卒業、12年同大学院医学研究科博士課程修了。12年4月より倶知安厚生病院勤務。20年5月日本プライマリ・ケア連合学会北海道ブロック支部長就任。

家庭医・総合診療医を志す学生さんを、情報面でも資金面でもサポートします。

日本プライマリ・ケア連合学会は日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学会が合併して2010年に誕生しました。その際、より地域に密着した活動にも力を入れようとなり、全国8ブロックの一つとして北海道ブロック支部が立ち上がりました。
家庭医療はその性質上、地域によって求められる医療が異なります。ブロック支部では地域の会員が交流し、情報交換を通じて北海道の家庭医療の底上げや生涯教育のサポート、家庭医療のすそ野を広げるための活動、次世代の育成に務めています。具体的には、北海道地方会という道内の会員が集まる行事、学生や若手医療職向けに特化した北海道プライマリ・ケアフォーラムの二つの事業が大きな柱になります。ほかにも、札幌以外の関係者が気軽に参加できるミニ地方会、道内医学生に総合診療・家庭医療を知ってもらうための企画、総合診療専門研修・家庭医療研修向けの専攻医オリエンテーション、後期研修プログラムの質の向上を目的としたサイトビジットなどを行っています。
ブロック支部には学生ボランティアも参加し、ホームページで講演会・学習会などの学生向け情報を発信してくれているので覗いてみてください[ http://jpca-hokkaido.jp/ ]。
家庭医・総合診療医を志す学生のみなさんにとってその医師像はなんとなく想像がつくものの、実際の診療現場で活躍しているロールモデルに出会うにはどこへ見学に行ったらいいのかわからないというのが正直なところではないでしょうか。
ブロック支部では、学会の認定指導医がいる質の担保されたプログラムを紹介しています。実際の現場を見て、その空気にふれることで総合診療・家庭医療の専門性とは何か、後期研修がどんなものかを知ることができますし、あるいは家庭医としてのステップアップや将来像を明確に描くことができるでしょう。見学には交通費や宿泊費などのお金がかかりますが、ブロック支部では北海道のサポートのもと、助成金の窓口も行っています。興味のある方はまずはホームページにアクセスしてもらえたらと思います。

自分に合ったプログラムが見 つかるはず。

私が家庭医療に興味をもったのも、やはり学生時代でした。卒業は2004年ですから、今とは状況がかなり異なりますが、当時から北海道家庭医療学センターの評判は耳にしていて、地域の医療関係者が集まる場では更別の山田先生や、当時は寿都にいらっしゃった中川先生とも接点を持たせていただき、「この業界、楽しいよ」と背中を押していただいたことをよく覚えています。

その後、2012年にここ倶知安厚生病院に赴任し、家庭医療プログラムの本格的な運用を行っていますが、プログラムを整備する際にも、プライマリ・ケア連合学会の勉強会やポートフォリオ検討会を通じて、北海道家庭医療学センターの先生方からさまざまなことを吸収させていただきました。連携という面では、うちで2年間の初期研修を行ったあと、北海道家庭医療学センターで後期研修を受けた先生もいらっしゃいます。
北海道家庭医療学センターは全国的にみても歴史がありブランド力のあるプログラムで、教育の質の向上のためにたゆみない努力を続けていらっしゃることも見聞きしています。
そうして培ったノウハウを囲い込むことなく、外に向けて発信し、北海道あるいは日本の家庭医療の底上げを図ってくださる、たのもしい仲間といった存在です。
私どもも、倶知安厚生病院を基盤施設とした総合診療専門医のプログラム、新・家庭医療専門医のプログラムを持っているので、その意味では北海道家庭医療学センターとは競合することもあります。ですが、プログラムにはそれぞれに哲学やカルチャーがあり、そういう意味ではうまくすみ分けができているととらえています。たとえば、家庭医・総合診療医としての高みを目指す方には北海道家庭医療学センターのプログラムは向いているでしょうし、ニセコ・倶知安エリアでの暮らしを楽しみながら家庭医療を学びたい人、あるいは外国人診療を経験したい人にはうちのプログラムが合っているでしょう。
学生のみなさんにはぜひ、できるだけ多くの施設を見学し、プログラムを比較検討しながら、ご自身の将来設計や希望にマッチしたプログラムを見つけてほしいと願っています。

家庭医・総合診療医ほど楽しい現場はない。

診療の現場は楽しいというのが、長く家庭医療に携わってきた私の実感です。私が家庭医をおすすめする理由は、医学生のみなさんの多くが子供のとき、あるいは医者を志したときに抱いていた医師像に近いんじゃないかというのが一つ。それから、目の前の患者さんに対して、専門じゃないからといって診療を断らなくていいことが一つ。もちろんそこには「身の丈に合った」というのが前提としてありますが、自分のいる地域、コミュニティ、身近な人々のあらゆる医療問題、さらには地域課題の解決にも関われるというのは、家庭医療の大きな強みです。

多様な働き方ができるというのも家庭医療ならではでしょう。一人診療所で働くこともできれば、3~4人でチームを組んで地域の診療にあたることもできるし、病院で働くという選択肢もあります。セッティングによって柔軟な働き方ができ、医師像にも多様性があります。たとえば私の大学の同期の医者は、志願して南極越冬隊に参加しました。ほかにも医学教育や臨床倫理といった学術領域とコラボするなど、幅の広さを生かして自分自身で道を切り拓いていけるのは、家庭医の可能性の一つだと思います。
みなさんのなかには、家庭医の専門性が見えず、将来への不安を抱えている人もいるでしょう。たしかに家庭医の専門性は説明しづらいところではあります。皮膚科は皮膚を診ます、眼科は眼を診ますというのに比べると、「その人をその人らしく診ます」といったところでよくわからないですよね。私としては、繰り返しになりますが、現場を見てもらうことが一番だという確信があります。現場でみなさんがモヤッとしたことに対して、必ずや先輩家庭医は気づきを与えてくれるでしょう。そのモヤモヤはこう説明でき、こういうプラクティスが理に適っているんですよということを、家庭医療学の理論に基づいて伝えることができます。
家庭医療に興味のある方は、ぜひ飛び込んでみてください。北海道ブロック支部としてもみなさんの挑戦を応援します。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2020年)