メンバーインタビュー:草島 邦夫(再研修)

栄町ファミリークリニック 医師
家庭医療・総合診療再研修コース

2009年北海道大学医学部卒業。2020年6月、北海道家庭医療学センター入職。外科専門医、麻酔科標榜医、麻酔科認定医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

社会課題にメスを入れられる医療とは?

もともと私は急性期病院の集中治療室で、麻酔科医として全身管理を行っていました。患者さんとの関わりはあくまで病院の中だけ。退院した後の患者さんの健康を考えれば、本当は患者さんのご家族を含め、医療以外の部分にまで介入する必要があることはわかっていました。でも、病院を一歩出てしまえば私たちのテリトリーではありません。そこにもどかしさを感じていました。
閉じられた医療機関の中だけではなく、社会と医療を行き来するような医師のありようはないものか。さまざまな社会課題を医療側から解決できないか。その答えを求めて勤務していた病院を退職し、京都大学の公衆衛生大学院で、社会医学について学ぶことを決めました。入学を半年後に控えていたある日、大学の先輩である中川貴史先生からたまたま声を掛けてもらい、非常勤で栄町ファミリークリニックの訪問診療に携わることになりました。訪問診療は、それまで私が急性期病院で経験してきた医療とはまったく異なるものでした。時間をかけて患者さんの生活を理解し、ご家族と関わりを持ちながら医療以外の部分にも目を配る。こういう世界もあるんだと興味を持ちました。

2018年4月から京都大学で学びますが、2年目の冬に新型コロナウイルス感染症の流行が始まりました。感染拡大防止の観点から大学院にも行けず、非常勤医師としての仕事もできず。中川先生に相談したところ、「だったらうちに戻っておいで」と。それで大学院を中退し、こちらに入職しました。もともとは4年かけて社会と医療の関わりを学んでから実践に入ろうと思っていたんですが、それが2年早まったわけですね。
入職して1年半が経ちます。家庭医は社会と医療との行き来ができる、それが私にとって大きな魅力です。それを実感したのがコロナでした。
2021年4月から始まった第4波では入院病床が逼迫し、一部医療崩壊とまでいわれる状態になりました。私たちは第4波と第5波、それぞれの期間中に入院待機中のコロナ患者さんに対する往診とオンライン診療を行いました。
入院待機中の患者さんが抱える問題はコロナだけではありません。入院したいのにできないことへの不安もあります。自宅療養中に脱水をきたし、全身状態の良くない方もいました。おそらく内科だけでは対応できないし、精神科だけでも難しいでしょう。家庭医だから内科疾患を診て、かつ社会から孤立した不安にも対応できる。保健所と連携して入院調整もできる。まさに家庭医がフィットしたケースでした。
また夏には、すすきの観光協会、札幌市、栄町ファミリークリニックの三者合同事業で、すすきのでの職域接種を行いました。接種回数は8週間でのべ2万7000回。多職種連携を得意とする家庭医だからこそ、院外のリソースとも違和感なく連携して取り組めたはずです。こうして社会と医療の行き来が実践できることを経験しました。

現状に物足りなさを感じているなら、ぜひ家庭医療の世界へ!

家庭医療を実践する中で、家庭医療の概念や共通言語を身につけたいと考え、2021年8月に日本プライマリ・ケア連合学会が認定するプライマリ・ケア認定医を取得しました。次年度(2022年度)からはフェローシッププログラムに進み、体系的に学びを深め、専攻医の教育や臨床研究にも深く関わりたいと考えています。
家庭医をずっと専攻してきた生え抜きの医師だけではなく、急性期病院での経験がある私や、ビジネスの視点を持つ鳥山先生のようにアウトサイダーが北海道家庭医療学センターに加わることで、言葉を選ばずにいえば、ハイブリッドな組織になって、幅も広がり、ちょっとした変化に対応する強さも備わると自負しています。
さまざまなバックグラウンドを持つ医師が家庭医療の領域に入ることで、家庭医療そのものが社会のニーズに対してさらにフィットしやすくなるはずです。
私自身はコロナによって家庭医療のポテンシャルを確信しました。社会の変化が早い時代こそ、家庭医療が活躍できる場面はますます増えるでしょうし、社会課題に敏感で感度の高い医師は早晩それに気付くはずです。
単一診療科で将来の悩みを感じていたり、現行の縦割りの医療制度に物足りなさを感じ、社会と医療の架け橋になりたいチャレンジ精神に溢れた方には、ぜひ一度、家庭医療の扉をノックしてみることをおすすめします。その意欲をきっと満たすことができるし、知らなかった世界に出合えるはずです。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2021年)